閑話95・『シスター(メス)とシスター(ほぼメス)で赤ちゃんは出来るのかしら、ご存知かしら2』

「私とキョウさんの赤ちゃん、欲しいですね?」


「……ちゅ、ほしい」


寝言にニヤけてしまうとは何事でしょうか、急に恥ずかしくなって顔を掌で覆い隠す、キョウさん、起きていませんよね?


不安になって先程と同じように頬を突く、何とも言い難い素敵な触感、魔性の肌ですね、ぷにぷに、擬音としてはコレが正解だと思います。


唸りながらさらに丸くなるキョウさん、何処までコンパクトになるのか最後まで見ていたい、身長は私とほぼ同じですが胸が………ここまで育てたのは私です。


「って、誰に宣言しているのですが私は」


「私にィ?だったら無視するだけだけどォ」


その声に反応して一気に意識が覚醒する、寝惚けた思考が即座に切り替わる、そうですか、暫くは二人だけの甘い空間を楽しみたかったのですが状況がソレを許しません。


恋敵が外では無く内にいるのは面倒ですね、いつかコレをキョウさんの中から追い出したいのですがその根は深い、大きく伸びをしながら彼女が上半身を起こす、何も隠そうともせずに堂々と。


キョウさんも猫のようだが彼女も猫のようだ、違うのは飼い慣らされた猫かそうでは無いか、キョウさんはすっかり人間の便利さを知って懐いている猫、彼女は人間を信用せずに自分だけを信じている猫。


誇り高い雌猫、例外はある、自分自身であるキョウさんの事を彼女は誰よりも信じて愛している、私を嫌うように洗脳してやがては意識の奥底へと封印された、その恨み節も無くこのように普通に振る舞っている。


「キョウさんは何処に?」


「んふふ、疲れてたんだねェ、誰かさんが魔王軍の元幹部なんて情報量の多い個体を食べさせるから」


「へえ、それの何処に問題が?」


「本来ならエルフしか食べれないエルフライダーに何を覚えさせているのかなァって、キョウ、このまま行くと心が壊れて廃人になっちゃうよォ」


「そうですか」


「覚悟をした顔では無くて、んふふ、私ならどんなキョウさんも愛せるって欺瞞に満ちた顔だねェ、キモイ」


「貴方と一緒ですよ、最後までキョウさんと一緒にいるだけです」


「お前と一緒にしないでよねェ、そもそも私はキョウを壊したくないんだもん、こんな悪魔みたいな女に惚れたばかりに可哀想なキョウ」


口調は優しいが言葉の端々に棘がある、しかし少しだけ安心する、私が私の目的の為に生きているのと違って彼女は純粋にキョウさんの為に生きている、それはそうだろ、彼女はキョウさんが望んだ理想の女性なのだから。


絶対的な味方が愛する人に存在している、それだけで私は救われたような気持ちになる、怠惰にベッドの上に転がりながら彼女は足を遊ばせている、キョウさんだと目を背けたくなる程に刺激的な光景なのに彼女がしても何も感じない。


金糸と銀糸に塗れた美しい髪、太陽の光を鮮やかに反射する二重色、黄金と白銀が夜空の星のように煌めいている、その髪を手櫛で整えながら彼女は暇を持て余しているようだ、まるで私の方を見ようとしないのはあからさまで少し笑ってしまいます。


「惚れたのはキョウさんですよ?責任は彼にあるのでは?」


「はぁ?死ねよォ」


愛らしい声で紡がれるのは純粋な否定、私の存在を全否定するとは実に愉快です、誰かにここまで嫌われた経験は過去に無かった、外面は良いですしねェ、そしてそれを見破るような輩もいなかったですし。


女性らしい仕草はキョウさんには無いもので目新しい、しかしキョウさんでは無いので何の興味も持てない、私の部下にこのような情けない姿は見せられませんね、キョウさんキョウさんって子供の恋愛ではあるまいし。


見詰めていると舌打ちされる、豪華絢爛な着飾る必要も無い程に整った容姿、私と似ていますがここまで派手な要素は自分にはありませんねェ、髪の色も瞳の色も大袈裟過ぎるほどに色彩豊かで嫌でも注目してしまいます。


瞳の色は右は黒色だがその奥に黄金の螺旋が幾重にも描かれている、黄金と漆黒、左だけが青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる色彩をしていて私との血の繋がりを感じさせる、クロリアも良い素材になりましたね。


「全裸で女二人がベッドの上にいるのに色気がありませんねェ」


「………ベッドの上でのキョウの姿は忘れなさいよ」


「どうして貴方にそんな事を決められないと駄目なのですか?私が弄って私が鳴かせたのに」


「お前が純粋なキョウをあんな風にしたのォ!まだキョウには早いんだからっ!」


保護者ですか、キョウさんの体を使ってエルフと情事に耽っていたのに何て我儘、自分自身は何処まで汚れても構わないのにキョウさんだけは何時までも綺麗にですか?


気持ちは理解出来ますがそろそろ自分離れをした方がよろしいのではないでしょうか?ニヤニヤ、かつての邪笑を貼り付けて彼女を見下す、なんだ、私にキョウさんを奪われて嫉妬しているだけの小娘か。


下らない、愚かな。


「だったら私の相手を貴方がしてくれるのですか?」


「――――キョウはね、お前より好きになった人がいるんだよォ、過去に三人ね」


「え」


「部下子にクロカナにアク………その度に傷付いて記憶を失って、自分だけキョウ以外の女を抱いていてキョウはそんな事が無いと思ったのォ?」


「そんなはずは、キョウさんは、私が初めて」


「バーカ、んふふ、お前もその内に忘れられろォ、んふふ、でもキョウは私を忘れない」


それだけを口にして瞼を閉じる、やがて穏やかな寝息が聞こえてくる。


私を傷付けるつもりで吐いた言葉でしょう?だけど今の言葉は私にとって実に有意義な情報です、エルフライダーの秘密を知る上で必要不可欠な情報。


ふふ、キョウさんから聞き出せない情報も貴方からなら引き出せるのですね?ならばもっと嫉妬させて油断させましょう、私のような存在が少なくとも三人はキョウさんにはいたと。


有意義です、実に有意義な情報。


「あれ」


頬に伝うおかしなモノに首を傾げながら私は情報を整理するのだった。

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