第111話・『メインヒロインの片割れはブチ切れ状態で笑う、嘲り』

ご対面、古ぼけた扉を蹴破って部屋に足を踏み入れる、邪悪な気配、娘二人と同じ気配に顔を顰める、魔物か?


妖精使いだと思ったが魔物だったとはな、しかしその味は知っている、人型の魔物の味は学習した、涎を垂れ流しながら舌なめずりする。


地下帝国のさらに地下に広がった広大な空間は真っ暗闇で何も無い、巨大な氷塊が発光しながら宙に浮いている、その周りだけには光の恩恵がある、一人の少女が照らされている。


「お前が村人を殺した張本人か」


「あな、た、何者デスか?」


「少女の姿をした魔物を専門に食べる生き物だ、そんな生き物なのでもう無理だ、諦めてくれ」


「はぁ………貴方、過去の魔王と何か接点があるデスか?」


「ねぇよ」


「その肩の妖精は純血種デスね、髪の色からアルンダの妖精だと思いマスが」


「しらねぇ、お前、俺の餌なのにもう喋るな」


ファルシオンを抜く、しかしその背後で浮いているあの氷塊は何だ?懐かしい気配がするし何だか無性に気になる、近くに寄って確かめたいがこいつをお腹に入れてからじゃないとキツイ。


空腹で限界だ、グロリアはここに偶然立ち寄ったんだよな?わからない、グロリアの部下たちが何処まで情報を握っているのか俺にわかるはずが無い、こいつは高位の魔物だよな?最近は魔物ばかり食べている。


涎を裾で乱暴に拭きながら目の前のお肉を鑑賞する、幼くて柔らかそうで鳴き声は可愛らしい、視覚、聴覚も食事には大切だからな、こいつは合格点だ、妖精を使役して亡霊を操る能力も実に良いなあ、それ俺のォ、その能力俺のォ。


んふふ、欲しい欲しい欲しい、キョウも眠りながらいいよーって優しく言ってくれる、体が戦闘態勢へと移行する、全ての一部の細胞が活発化して身体能力が底上げされる、んふふ、ピクニックに来て地元のモノを食べる、いいじゃんいいじゃん。


「餌だぁ、幼い魔物」


「失礼デスね、これでも現存する魔物の中では最年長だと思いマスよ?貴方たち人間が知らない時期の魔王の眷属なのデス」


バカ丁寧に説明してくれるその小さくてピンク色の舌を絡め取って根こそぎ引き摺り出したい、舌だ、つまりはタン、ロリタン、こいつのロリタンを奪って抜いて捕食したい、そうしたらもう喋れ無いし静かになるだろ?


食事をしたいんだ、しかしこいつ、どうしてこんなに丁寧に受け答えをするんだ?人間を見下して人間を皆殺しにして人間を加工して人間を亡霊へと変える、そんな最低最悪の生き物のはずなのに妙に俺に優しい、不気味だ。


餌に優しくされたのは初めてだ、気持ちが悪い、生理的に受け付けない、餌は餌として黙って調理されれば良いんだ、なのに俺を見詰める瞳は敵意では無く慈愛と興味に満ちていて何だかやり難い、ズブズブズブ、ユルラゥが肩に沈む。


俺の第二の脳味噌になって俺を導いてくれ。


『危ねぇ、あいつ、妖精を操る力があるぜ、主と話し掛けている内にオレを支配しようとしやがった』


「へえ、悪いロリだ」


『そうだぜ、主は悪いロリを食べるのが上手だからな、やっちまえ』


「もっと褒めて」


『ふふ、悪いロリはみぃんな美味しく食べられて今や主の忠実な下僕だぜ、あいつはでもまだ取り込まれていない、主は頭が良いからわかるだろ?』


「仲間外れは良く無いぜ、んふふ、仲間に入れたげるぅ、虐め反対、差別するの反対ィ」


駆ける、氷塊を背にしてこちらを見詰めるロリを食べる為に走る、キィィイィイィイイイイ、奇怪な音が広い空間に木霊する、何も無い空間に何者でも無い存在が浮かび上がる。


敵の周囲に突如して出現した羽虫、人型に羽の生えた妖精達、どいつもこいつも虚ろな顔をしていて表情が暗い、ユルラゥは精神は邪悪だが聖なる気を纏っている、しかしあいつ等は違う。


心がそもそもあるのかわからない、そして邪悪な気を纏っている、妖精を生み出したのか?それがこいつの能力、欲しいいい、んふふふ、そして生んだら殺せば良いな、ユルラゥ以外はいらねぇから。


「キミの中に懐かしき気配を感じるのデス、戦いたくないのデス」


「うるせぇええええええええ、美味しそうな匂いのするテメェが悪いんだ、ミルク臭いミルク臭いミルク臭い、んはぁ、柔肌の癖にィ」


『ころせー、そしてくえー!』


「フフ、母に似ていマス、その狂気」


狩る、このロリ魔物を狩ってお腹一杯にするんだ、大丈夫、だってこいつは罪の無い村人を皆殺しにして亡霊を生み出していたゴミ虫のような存在だから、罪が大き過ぎる、だから美味しく頂ける。


こいつが村人を殺してくれたお陰で俺は何の罪の意識も持たずにお食事が出来る、んふふ、ありがと、妖精達が力を解放する、地面が隆起して鋭く光る、流石にこの数が揃うと地形を変えれるのか?


隆起しながら地面が迫る、股間に刺されば串刺しだな、隆起した柱がさらに細かく枝分かれしていやがる、道が無い、しかし鋭い刃先を光らせる圧縮化した地面が俺の進路を阻止している、ユルラゥの力で干渉しても弾かれる。


「へえ、強いな、妖精の力」


『人工的に妖精を生み出しやがったな、しかし20匹はいるな?単純に馬力で負けるぜ」


「そもそも妖精って匹で数えんのかよ」


『虫だからな』


え、お前のアイデンティティ崩壊しそうだけどそれで良いの?仕方無く大きく逸れて回り込みながら敵を観察する、っ、圧縮された空気が轟音を鳴らしながら撃ち出される。


同時に地面と空気を支配しやがった、ファルシオンで防御する、鉄が振動で震える音が木霊する、何とも言えない音、防御は成功したが体が吹き飛ばされる、壁に背を打ち付けて呼吸が止まる。


そこを見逃さずに次々と圧縮された空気弾が撃ち込まれる、透明なソレは認識し難い、しかも無数に撃ち込まれるソレに対処出来ない、体が蹂躙される音を聞きながら血を吐き捨てる、妖精が集まればここまで出来るのか?


背中を預けた壁がズブズブと俺を包み込む、地面も壁も支配されて空気まで、全ての空間を支配する妖精の力は敵に回せばこれ程までに厄介なのか?ユルラゥがどうにかして解除しようとしているがそもそもの数が違う。


「人間の身体能力では無いデス、殺すつもりはありません、あの氷塊の中にある母の剣を取り出すまでそこで寝ていて下さいデス」


グルルルルル、怒りで喉が震える、グルルルルル、空腹で腹が鳴る、同じような音で違う音を鳴らしながら俺は涙を流す、おなか、おなかがすいたのに、意地悪で取り上げられた、こいつ、こいつ意地悪だァ、悪い子だ。


お腹が空いてる、おなかがすきすぎるとしぬ、あああ、だからおとうとのために、弟の為に、はたらいてはたらいて、あっけなくしんだ、そう、食べ物の為に働かないと駄目だった、あ、でも食べれない、目の前に食べ物があるのに。


しぬ、弟も自分も死ぬ。


「え、あ、だれ」


誰だ、こいつ、不安が胸で広がって吐き気がする、その時にユルラゥの言葉が過ぎる、あああ、たすけて。


もう一人の俺を、もう少し、信用して。


してるよ?だから、ご飯を俺に!


「なっ!」


腕が飛ぶ、肉の奥の奥にいる使徒の転移能力を軽々と使いこなす。


まさかいきなり目の前に迫って腕を斬り飛ばすとは思わないでしょう?んふふ、やったー、大成功だねェ、愉快だねェ。


後退しようとするそいつの髪の毛を掴んで顔面に膝を叩き込む、魔力で強化して叩き込む、千切れないように掴んだ髪の毛を手に巻きつけて固定する。


「っあ、き、貴様、さっきのあの娘じゃ無いデスねっ」


「んふふふ、キョウだよォ、同じだけどねェ………私のキョウを泣かせたな」


「くっ」


「だぁめ、泣かせたら最後、私が出現するんだよォ」


さぁて、蹂躙しましょうかねェ、んふふ。

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