閑話94・『シスター(メス)とシスター(ほぼメス)で赤ちゃんは出来るのかしら、ご存知かしら』

乙女である事を自覚させる必要がある、邸宅のようにモダンインテリアが揃う広々とした個室、中庭を眺めながら愛を囁き合うのに都合が良い。


クラシカルなレンガ造りの建物は古い歴史を感じさせる、宿泊する際にキョウさんが大きく口を開けてポカーンとしていたのが印象的だ、仕事では良く使うのですがキョウさんとは初めてです。


そんな間抜け面で立っていても流石は私のキョウさん、宿泊する客の多くが足を止めてそんなキョウさんを見詰めている、天使のような容姿に無垢な表情、世間に汚れていない純粋な心、誰も彼もを惹きつけてしまう。


キョウさんと出会う前のような能面を思わせる笑顔を貼り付けてキョウさんの肩を抱いて手続きを済ませた、顔を真っ赤にして抵抗する子羊ですが私はライオンですからね、しかも飢えに飢えている、無駄な抵抗ですよ?


そしてこの部屋に宿泊した、貴族の邸宅を思わせるような大袈裟な造りですが初体験のキョウさんには良かったようです、私の横で全裸で眠っている、よし、雰囲気作りは成功しましたし大人としての私も存分に見せれた。


腰を抱いてベッドに押し倒すと後はなし崩し的にこのような流れになった、胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服、それを脱がすのは得意ですよ?そもそもは私のモノですから、ますます私に似て来ましたね?


「へうち」


「……何と愛らしいくしゃみでしょう」


壁側に顔を寄せてスヤスヤと穏やかな寝息を立てている、コレは非常に恥ずかしい事なのですが気持ち良かったですかと問い掛ける事が出来ない、しかし気になる、喘いでいる姿は容易に思い出せますがアレは演技では無いのでしょうか?


キョウさんは優しいからそれぐらいの事ならするような気がする、どうしてこんな事が気になるのでしょうかね、好きな人をちゃんと気持ち良く出来たのか、それはやはり知りたい、とてもとても知りたいのですが問い掛ける事は無理、ふ、不可能です。


上半身を起こして丸まっているキョウさんを見詰める、この姿になる前のキョウさんも可愛かった、猫科の動物を思わせるしなやかな体付きをしていたが今では所作や寝相が猫のようだ、全身を小さく縮めて安心した表情で眠っている、何時間でも見詰められます。


金糸と銀糸に塗れた美しい髪、太陽の光を鮮やかに反射する二重色、黄金と白銀が夜空の星のように煌めいている、癖ッ毛のソレを撫でてやると少しだけ嫌そうに声を震わせる、不機嫌になりましたか?優しく撫でるとやがて甘い声で鳴き声を上げる。


「キョウさん」


「んん」


資金力と余裕がある姿は何度も見せておかないと、将来の事を考える指針になるし籍を入れる決定打にも成り得る、キョウさんは貧しい農民の生まれなので贅沢は好まないが私のやる事に口出しもしない、そして閉鎖的な村で育ち外の世界に憧れがあったせいか目新しいモノを好む。


あまり買い与え過ぎても新鮮味が無くなる、必要なタイミングに思い出となる品を買い与えるのが重要です、二人だけの特別な記念品、高価なモノが良いわけでは無いが女性心をくすぐるのにその方が手っ取り早い、キョウさんの癖ッ毛を撫でていると心が安らぐ。


こんなに安心して誰かと過ごせるなんて過去の私からは想像も出来ない、もし過去の私が今の私を見たら冷たい瞳で見下しながら無言でその場を立ち去るだろう、何のケアもしていないのにツルツルの頬は産毛すら無く光り輝いている、白い宝石のようですねェ。


「何でも買って上げますよ」


「……んー?」


「それこそ、身の周りの世話をするメイドの一人ぐらい、キョウさんはお姫様なんですから」


「……いらん」


「そうですか、奴隷市場がこの街にはあるようなので暇が出来れば足を運ぼうと思ったのですが」


「………んー」


寝言ですか、シルクのシーツが皺になるのも構わずにキョウさんはさらに小さく丸くなる、まるで胎児のような寝相、私もそろそろ寝ようと思ったのですがどうしても構いたくなってしまう、今まで多くの女性と肌を重ねた、その多くはシスターでした。


忠実な部下に仕立てる為に愛を囁き忠誠心を育てる、私には人を支配したがる悪癖と人を支配する才能の両方が備わっていた、親が存在しないシスター達は愛情に飢えている、しかし一般の人間に深く情を持つ事は遺伝子操作で禁止されている……だけど同じシスターなら?


私のような異端のシスターで無ければそのような事は考えなかっただろう、そして実験は成功した、多くのシスターは私をお姉さまと慕い神と同じように崇めた、自分の派閥が拡大する事が何よりも楽しくソレを秘匿する事が何よりも面白かった、そして今の関係性。


「キョウさん、構って下さい」


「………………」


「貴方のグロリアですよ」


「………………」


「キョウさんってば」


「むー」


ふふ、本気で起こそうとは思っていませんよ、二人で全裸になって同じ空間にいるだけで心が満たされる、思えばシスター達を抱いている時は何を考えていましたっけ?虚無、何にも感じていなかったし何も思っていなかった、駒を作る時間はあまりにも作業的だ。


シーツの上で丸まるキョウさん、独特の光沢と柔らかさが特徴的なシルクは見た目が美しいだけではなくあらゆる面で優れている、吸引性、発散性、保湿性と優れた三つの特性、ここで使っているのは蚕の長い繭糸を機械を一切使わずに手作業で加工しているようだ、撫でてみると物の価値がわかる。


アミノ酸を含むタンパク質で構成されたその糸は人間の肌に一番近い素材だと言っても良い、天然繊維としてこれ以上のモノは無いだろう、その中でも突出して保湿性に優れているので美肌効果もバッチリだ、肌を乾燥から守るので多くの貴族が愛用している。


「ふふ、頬っぺた柔らかい、キョウさんには必要無いですね」


「うぅううううう」


「唸ってますね」


大好きなこの人を口説く為に用意したのだ、不備があればクレームを入れるつもりだったが満足しました、血管が透けて見える肌は呼吸に合わせて上下している。


指で頬を虐めているとキョウさんがソレを口にぱくりと入れる、舌で遊ぶわけでも無く吸われる、ちゅうちゅう、奇妙な時間が流れる、虐めた分は虐められましょうか、赤子のように体を丸めて眠るキョウさんを見ていると母性が刺激される。


「赤ちゃん」


「――――んー」


「私とキョウさんの赤ちゃん、欲しいですね?」


「……ちゅ、ほしい」


これも寝言ですか?

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