第108話・『妖精公認嫁』

気付けば血だらけの空間に立ち尽くしていた、壁に飛び散った血が芸術的な模様を生み出している、人間も妖精も魔物も等しく赤い血を持っている。


それが何だかおかしくて苦笑する、ズルズルズルズル、暴れ終えた二人の娘を臍の尾を引っ張って引き寄せる、まだ遊びたい、まだ殺したい、貴方の為に殺したいと我儘を言う二人の娘。


あまり子宮の外の世界を覚えさせては駄目だな、我儘になる、娘の戯言を無視して頭を手で押さえ付けて収納する、喘ぎながらまだ暴れたいと口にする二人を煩わしく感じる、娘だが我儘は許さない。


股間に引きずり込みながら魔王の血は厄介だなと再認識、それはそれで良い収穫だぜ、血を見れば歯止めが効かない、生きている者がいなくなるまで暴れ尽くす、臍の尾を外さないで良かった、直にコントロール出来る。


娘二人の臍の穴に固定されたソレが大きく脈動する、まるで巨大な蚯蚓だ、俺の中に戻っておいで、お母さんはお前たちが子宮からいなくなると寂しくて辛くて悲しくて道行く人間で赤ちゃんにしたい奴を物色しちゃうんだ。


人を害するのは犯罪、人を殺すのは犯罪、それでは他人を赤ちゃんにするのは犯罪なのだろうか?そこはどうなっているのだろう、誰かに問い掛けたい、赤ちゃんは授かりものだから犯罪では無いよな?暴れる二人の髪の毛を掴んで笑う。


ぶちぶち、あそこに押さえ付けて一気に収納、まるで陰毛だな、千切れた髪の毛を見ながら苦笑する、いつか生える日が来たら何色なのか気になる、髪の毛と同じように金髪と銀髪が混じっているのかな?フフ、少し下品な事を考えてしまった。


「妖精、皆殺ししちゃった」


『うおーい、ここの事情を聞くんだろ?魔王組は戦闘力がヤバいんだからちゃんとコントロールしないと駄目だぜ』


「大丈夫、こうやって死体を丸めて」


妖精は全て死体になった、力を使う暇も無く圧倒的な暴力で蹂躙された、破裂した体の肉片が周囲に飛び散っている、あの小さな体にコレだけの血と油があるのかと思うと笑ってしまう、ついつい邪笑を浮かべてしまう。


人型であるのが何とかわかるぐらいの肉片、綺麗に光になって散るのかと思いきや他の生物と同じ見苦しい死に様、そのような場合もあるらしいが魔王の眷属である娘二人の瘴気がそれを許さないらしい、部屋には禍々しい魔力が満ちている。


これだけの力を持つ存在が俺の臍の尾の先で脈動しているかと思うと興奮する、腹を撫でる、もっと大きくなってお母さんを喜ばせてェ、もっと凶暴になってお母さんを喜ばせてェ、お前たちにはそれしか価値が無いんだから、んふふふふ。


死体は肉だ、しかも妖精だ、妖精の血肉は妖精の力で干渉しやすい、肉片を浮遊させて空中で丸める、ユルラゥの特別を奪う憎らしい肉、んふふ、殺されても文句が言えないんだよ、俺のユルラゥの立ち位置を僅かでも脅かす劣等種め。


ユルラゥは俺だから特別。


「肉団子の完成」


『グロ』


「食べ物に何て事を言うんだ!どんな風に教育されて来たんだこの糞妖精っ!」


『持ち上げられたり持ち下げられたりのギャップが激し過ぎて頭イテェぜ』


「痛みを感じる頭があるだけ幸せと思え、この妖精達はもう頭が無いんだぞ?美味しそうな肉団子なんだぜ?」


『美味しそう?』


「見てろ」


圧縮する、宙に浮いた肉団子は油と血を撒き散らしながら収縮する、死体が収縮する様は何だか見ていて気分が良い、いらないものがコンパクトになるのは実に良い事だ、まだ死体の顔があるので潰れる光景は美しい。


そう、美しい容姿をした妖精の死体が圧倒的なユルラゥの力で収縮するのは快感だ、お前たちではこんな事が出来ないだろ?出来損ないの妖精風情が、俺のユルラゥの立ち位置を脅かすからだ間抜け、誰もいない部屋で声を出して笑う。


引き攣る、大声で笑い転げる、死体が肉団子になって圧縮肉団子へと転じている、二転三転、転がれ肉団子、その為に丸みを帯びた素敵なボディにしてあげたんだぜ?ユルラゥはそんな俺に何も言わない、自分の為に同族を殺した俺に何も言わない。


「お前は、お前が俺のユルラゥ」


『そうだな、あんまり怯えなくても良いんだぜ?もう死んじまったから』


「お、俺、酷いか、な、何もしてなかったよな、こいつら、あれ?」


殺した、俺の意思で俺の娘で俺の一部で皆殺しにした、部屋を開けた瞬間に無垢な視線が俺に集中した、人間の子供のような無垢な視線、それに性的な興奮を覚えて一気に二人を解放した、腹が膨らみ臓物が散らばり魔王の眷属が具現化した。


阿鼻叫喚、泣きながら逃げようとする妖精を冷気と電光が襲う、俺はにんまりとしてそれを黙って見ていた、これでユルラゥが喜んでくれる、これでユルラゥの立ち位置が盤石のものになる、もしかしたら俺を褒めてくれるかも?良い考えしか浮かばない。


酔いから醒めたように思考が正常になる、正常と自覚出来ているなら先程の俺の考えは何だったんだ?取り込むかどうかもわからない何の罪も犯していない妖精を殺す?この考えは俺から出たものなのか?嘘だろ、嘘だ、嘘だ、にくのだんご。


「お、俺が、え」


『主、大丈夫だよ、オレは嬉しい、だから自分を責めるな』


「こ、こんな事、む、昔の俺は、しなかった!グロリアが俺を改造したから!だからこんなっ、違う、悪いのは俺だ、俺がぁ」


『エルフをそろそろ取り込まないとな、オレも協力する、だけどな、もう一人の主が言っている事も間違っていないんだぜ』


「う、あ」


『あのシスターの計画の為に主の人格は少しずつ変化している、今回は魔王の血を持つ二人だからな、人間や他種族に対する価値観が転じてもおかしくねぇ』


「お、俺」


『俺俺言うんじゃねぇ、俺はオレだろ?主だけが苦しむ必要はねぇぜ』


妖精はいなくなった、妖精の気配を出しても良い、俺の肩が肥大化する、娘二人を産み出す時と違って何て安からか気持ちなんだろうか?ユルラゥをこの世界に産み落とすのは心地よい、性的な快感は無く胸が優しさで満たされる。


瞿麦(なでしこ)を彷彿とさせるピンク色の髪、そのピンク色の長髪はしっかりとしたウェーブで腋にかかる程度で切り揃えられている、それがズブリと盛り上がった瘤から顔を出す、整った容姿は妖精の特権だ、エルフの先祖たる証。


見た目は人間だと十歳程度だろう、肌は艶やかで弾力がありそうな赤ちゃん肌だ、やや吊り目がちの瞳は縹(はなだ)と呼んでもおかしくない程に明度が高い薄青色……それが出来上がるまでの工程は観察していて実に楽しい、実に愉快。


瞳が構成される様はホラーだ、二つの空洞にプルプルした独特の細胞が集まって瞳になる、瞳の無い妖精は人間と同じで恐ろしい、そして美しい、瞳があっても無くても美しいなんてこいつはどれだけ完璧なんだろうか?胸が震える。


「ユルラゥ、優しい」


『ふん』


透けるような色合いの瞳をしているのにその奥は好奇心を含んだ残虐性に支配されている………服装は一枚の長い長方形の布を体に複雑に巻きつけてピンで固定している、真っ白な無垢な色合いの軽やかな服装。


具現化した妖精は俺の周りを気ままに飛び回る、そして肩に小さなお尻を乗せてやれやれと首を左右に振る、それに呼応するように透明の羽が愉快に踊る、涼しい、混乱して熱くなった頭が冷やされる。


「主はオレがいねぇと自分で殺した妖精に対しての罪悪感も処理出来ねぇのかよ」


「ユルラゥぅ」


「甘えるな、はぁ、仕方ねぇ、よしよし、オレも人間を沢山殺したからおあいこだぜ」


「う、うん、ユルラゥ、優しい」


「甘えるなってェ、んもう、困った本体だぜ、もう一人の主を少しは信用しな」


「?」


「グロリアグロリア―ってだけじゃ可哀想だぜ?もう一人の主がどれだけ主を心配しているのかわかってねぇだろ?」


「しんぱい、してくれてる?」


「そりゃ過去にした事は許されないけど主を一番愛してるのはあの人だと思うぜ、まあ、あのシスターよりは信頼できる」


キョウが?確かにあいつは俺だ、そして成長して人格を得た、だけどあいつがグロリア以上に俺を愛している?


優しい目でユルラゥが俺を見ている、化け物にならない為に苦心してくれているキョウ、化け物にする為に苦心しているグロリア、考えるな!


「少し、あいつに優しくする」


「おう」


「あっ、この肉団子を取り込むぜ」


ズブズブズブ、妖精の死骸を取り込んで情報だけ読み取る、死の映像が脳裏に過ぎる、吐き気はするが大丈夫、炎水で経験積みだ。


ようせい、ようせいか、妖精使いが妖精を操って死者の魂から亡霊を生み出す実験をしている?あの村は元々は妖精と人間が共存していた?


この地下の奥にかつての魔王である邪精覇(じゃせいは)の武器が眠っている、それを得る為に妖精使いが暗躍している、情報は断片的で読み取り難い。


「魔物では無く邪悪な妖精を使役していた魔王、古いな、人類の歴史にねぇわ」


「よし、その武器を横取りして質屋に売ろうぜ主!その金で豪遊だ!いえーい!」


「いえーい」


よし、やるか。

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