閑話92・『祟木、本気で口説こうとしている』

買い物に付き合うとは言ったがこのような状況になるとは聞いていなかった。


買い込んだのは様々な服や化粧品、かなり発展した街なので品物も最先端のモノが多い、しかし女性の買い物ってどうしてこんなに長いのだろうか?


唸っては商品を手にしてやがて棚に戻す、その様子を何十分も立ちっぱなしで見ないといけないのだ、精神修行か何かだろうか?キョウも色々と欲しがったので買ってやったがまだマシな方だ。


「祟木ィ」


「ほう、キスしたいのか」


「何処をどう受け取ったよォ、ちげーよ、疲れたぜ、ホントに」


祟木(たたりぎ)の獅子を連想させる金色の瞳が俺を射抜く、購入した代物は全て祟木の自宅へと郵送した、こいつどんだけ金持ちなんだよと心の中で吐き捨てる………流石に大陸中に名を轟かせる天才サマは羽振りが違うぜ。


髪を手でかきあげながら祟木は微笑む、自分の才気と経歴と知識に裏付けされた自信に溢れた笑み、俺の一部の中で唯一戦う事が出来ない一部だがそんな事が些細な問題に思える程に有能な一部、ロリ博士は今日も覇道をまっしぐら。


宇治氏の方はエルフの選出を終えているだろうか?祟木と繋げた彼女の精神を覗き込む、ちなみに俺とは繋げていない、取り込んではいない、フフ、一部では無い信者も必要だ、小回りが利くしなあ、どうやらかなりの数のエルフから俺の一部を選んでいるらしい。


長老のロリっぽいのが良い、幼いのは肉が柔らかいし俺の精神に染まりやすい、脳味噌が若くてピンクでプニプニだからな、そいつに決定、ふふ、魔王軍の元幹部を取り込んだらその良質なエルフを取り込んで体調を整えないとな、頑張るぜ。


グロリアの為だけに。


「わかったぞ、伝えておこう」


「役に立つ部下を持っていて祟木は幸せだな、羨ましいぜ」


「ほう、素直なキョウは珍しいな、あ、手を繋いでくれないか?人が多過ぎて迷子になりそうだ」


「いや、お前ならならないだろ」


「私が迷子になったらキョウが泣くだろう?それだとキョウが可哀想では無いか」


「え、えーっと、お前は迷子にならないし迷子になっても泣くのはお前で俺は泣かないだろ?」


「今すぐここで泣いても良いんだぞっ!早くしろ!」


「お、おう?」


釈然としないが言われるがままに手を繋ぐ、祟木はエルフの国で育てられた影響で人よりも成長が遅い、恐らく食べていた物や空気の違いだろう、幼女の姿に高度な知性、どのような場所にいても堂々と振る舞う姿は正直に言えば憧れる。


辺境出身の農家の息子の戯言だと笑えば良いぜ、祟木を見る、太陽の光を連想させる金糸のような髪が美しい、キラキラと輝くその髪を見て何故か胸が弾む、こいつと一緒にいると意味も無く嬉しくなる、本当に変わった一部だと改めて思う、不思議な奴。


しかしこいつの髪って恐ろしく綺麗だよな、一部の多くはどれも素晴らしいがこいつはまた別格だ、金糸のような髪だが金箔を使用したソレよりも生命に溢れていて見る者を魅了する、肩まであるソレを側頭部の片側のみで結んでいる、所謂サイドポニーだ。


活発的な祟木にとても良く似合っている、可愛らしいぜ、実際に口で伝える事はせずに小さな掌をぎゅうと握り締める、紅葉のような愛らしい手は柔らかくて触り心地が最高だ、何度も握って遊ぶが不満を訴える事もせずに祟木は前を向いている、嫌だろ?


「嫌な事は嫌と言って良いんだぞ」


「それはこっちの台詞だぞ、私の掌が不快なのか?何度も握って何かを確認しているようだが」


「いや、握り心地が良いからしてるだけだぞ、それを不快に感じていないか不安になっただけだぜ」


「そうか、嬉しいぞ、自信を持ってニギニギしてくれ」


「この小さな掌で色んな論文とか書いて来たんだろう?何だか恐れ多いぜ」


「そんな事よりもキョウに握られている方が私にとっては価値がある事さ」


デニムのホットパンツにノースリーブのトップス、性的にオープン過ぎるんじゃね?と言いたくなる幼女と道を歩く、今の祟木の台詞は素直に受け止めると口から砂糖を吐き出してしまいそうだぜ、他の一部と違ってこいつには裏が無い、常に表だ。


それはきっと自分の才能のみで世間を生き抜いて来た自信から来るものだろう、自分を卑下する事無くありのままに振る舞う、俺の大好きなグロリアも同じような生き方をしているが裏だらけである、どうしてこうも才能がある奴は極端なのだろうか?


祟木は赤いフレームをした眼鏡の奥で瞳を細めながら俺に微笑む、ご機嫌だ、こうやって街を一緒に歩くのは祟木が一番良いな。


「そうだ、キョウ、少し前屈みになってくれ」


「ほう、キスしてぇのか」


「それも良いな、しかしもう一つやりたい事があるんだ」


「お、おう」


男らしい受け答えしやがって、見た目が完璧美少女なのにギャップが凄まじい……言われるがままに前屈みになる、整った祟木の顔が前に来て何か恥ずかしい、自分の一部なのに自分では無いような違和感、あまりに綺麗過ぎて受け入れ難い?


左手の薬指に指輪を嵌められる、あまりに自然な動作で何も出来ないままされるがまま、目が点になっている俺と満足そうに微笑む祟木、な、何だコレ、人から優しくされるのは苦手だ、人から何かを貰うのはもっと苦手だ、例外はグロリアだけ。


狼狽える俺をニコニコと天使の笑みで観察する祟木。


「な、なにコレ」


ピンクゴールドのソレは太陽の日差しを受けて淡く光る、さらに光り輝くダイヤモンドを大胆に組み合わせたフェミニンなモデルのリングは俺には到底似つかわしく無い代物、そもそもコレって幾らぐらいするんだ?い、いつの間に買った?


ぷしゅー、疑問と突然のサプライズに思考が停止する。


「愛する女性に指輪を贈りたいと思うのは当然だろ?」


「お、おれ、男、です」


「フフ、私からしたら世界で一番大切なお姫様だからな、さあ、帰ろう」


手を繋いで歩き出す、恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい。


嬉しい。

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