第106話・『俺の妖精は可愛いだろ?』

羽の動きは好調だ、俺の意思のままに震える、薔薇の楽園は蜜の香りが充満していて何だか苦しい、甘い香りってのもここまで来ると問題だぜ。


妖精達が住んでいる楽園、自然物を操る妖精の力で太陽光まで地下の空間に貼り付けている、暗い闇を照らすその光が何処か悲しいものに思える、自然の理屈を捻じ曲げている。


そんな世界に似つかわしい様で似つかわしく無い宮殿が佇んでいる、宮殿は広大で重厚な両翼と六棟の主たる建造物で構成されているようだ、人間が住むならまだしも妖精が住むにしては贅沢し過ぎじゃねーかな??


「妖精の気配を感じるな、そんで亡霊の気配も感じる、ここから地上に這い出ているのか?」


『だろうな、あれも妖精の力で魂を加工したのかもだぜ』


「魂も自然物なのか?だったら生物を操れないとおかしくないか?妖精の力で生物は操れないだろ」


『肉体と魂と記憶が一つになって生物を構成してるんだぜ、死んだ人間の体なら操れる、肉体から抜けた魂なら操れる、理屈としては三つ揃わないと妖精の力を弾けないぜ』


「何か怖い話だな」


成程、三つ揃って生命、それぞれのどれが欠けても生物として維持出来ない、そうしたら妖精の力に汚染されて支配されるって理屈か、納得したがあまり深く聞くと夜に眠れ無くなりそうだぜ。


宮殿を見ているとおかしな感覚に陥る、何もかもがちぐはぐな印象、幾度も増改築が繰り返して来たのかな?その結果、全体としての建築様式は決して統一されているとは言えない状況だ、へ、変な建物、立派だけどさ!


何かの来襲に備えているのか建物の周囲には城壁が建造されている、その城壁外部には数棟の堅固そうな城塞が建設されている、飛び回りながら観察するが人間の世界からそのまま奪って来たとしか思えない立派さだ。


「これ、どうやってこんな地下に建てたんだよ」


『妖精の力で引っ張って来たのかもなぁー、ほら、無機物だぜ、コレ』


「お、お前……マジか?」


『な、何だぜ、何かおかしな事を言ったか?おっ、あっちが入り口のようだぜ、潜入して同族殺そうぜ、ひゃっほー』


「妖精ってこんなバカしかいねぇのかよ、それでこの力、怖すぎるだろオイ」


『怖くないぜっ!怖くない上に可愛いぜ!可愛い上に少しぐらいならエッチなお願いも聞いてくれるぜ!』


「妖精サイコー!妖精可愛い、そんでお願いなんだけど」


『嘘だぜ、死ね主』


ゴキブリめ、かなりの高さがある胸壁が特徴的だ、ぶっちゃけ人間の姿なら潜入出来そうに無いが妖精の姿なら関係無いぜ、張出狭間を完備した城壁で周囲を圧倒するように宮殿を囲んでいる、しかし律儀に入り口に行かなくても良いだろうに。


空を飛んで潜入するのに変な所で真面目な奴だな、張出狭間のある狭間胸壁が前に突き出ているのは外部の敵に攻撃を仕掛ける為だ、その為に下部の城壁より前に大きく迫り出している、隙間から熱した油や熱湯を下に流し込む仕様だ、恐ろしいぜ。


城壁のさらにその外側には水を溜めた堀がめぐらされている、この宮殿にはお宝でもあるのか?それともお宝があった?もしユルラゥの言葉が真実なら地上にあったこの宮殿を妖精たちが地下に引き摺り込んだ事になる、中に住んでいた人間はどうしたよ。


「お前って妖精の中では異端児だよな?どいつもこいつも人間を殺すのが大好きな妖精ばかりじゃねぇだろ?」


『そりゃそうだ、妖精ってのは基本的に童話の中に出るようなピュアな種族だからな』


「でもここにいる妖精は危険な可能性があるんだろ?」


『だな、オレは天然でサイコな妖精だけど人為的に手を加えられたサイコな妖精も世の中にはいるんだぜ』


「自分でサイコって言うなや」


『サイコーに可愛いしな』


「吠えてろ」


『んー、わぁんわぁん、こうか?』


「すまん」


『なんで謝る!?可愛いだけだろ!』


「………すまん」


『形容し難い不満がオレを襲うぜ!』


勝手に襲われていろ、城壁外部は中々に重厚そうだ、さらに二十棟の防御用の尖塔がある、この建物に住んでいた人間を排除したとしたらどれだけ恐ろしい力を秘めてやがるんだ妖精って奴はよォ、同じ人間と戦う為に建造された施設も妖精の前では意味無しか。


入り口から少し逸れた場所には大きな石で構築された急傾斜を付けた深い乾濠がある、その中心に円筒状の主塔が聳え立っていて天井に届きそうな勢いだ、キープと呼ばれる独特のモノ、似たような建造物にベルクフリートと呼ばれるモノもある。


しかしベルクフリートはキープと違って高さの割には狭くて小さい、用途としては一晩のみの宿泊施設として使ったり監視塔として使ったりその程度のモノだ、だけどキープは天守の意味合いもある、それとはまったくの別物だ、一体何処からこれを引っ張って来た?


しかしそのキープは木造の方形建築で出来ている、そこは古代のモノ、少なくともここ数十年の代物では無い、もしかして昔から少しずつ地上の建物を盗んで来たのか?だからここまでちぐはぐな建物が並んでいる?ここに妖精の気配が集中している、侵入するか?


「入るか」


『よっしゃー、皆殺しじゃあー!!地上を荒らす亡霊を生み出すなんてきっと殺されても文句が言えない妖精だぜっ!』


「大量に人間を殺して来たお前が言える台詞じゃねぇだろ」


『きゃるるん♪』


「オェ」


『きゃははははは、主おもしれぇー!』


城主の居館として平時は機能するキープ、ここにこの地下世界の主がいるのか?妖精はもういらねぇ、俺の食欲が出ない内に皆殺しにしてやる、俺にはユルラゥだけがいれば良い。


ユルラゥ以外の妖精はいらねぇ、取り込もうとする前に殺す、俺だけの可愛いユルラゥ、ユルラゥのポジションを脅かすゴミはいらない、ゴキブリは殺さないとな、そうだろ?


取り込まない、エルフライダーの本能が出る前に殺す、そして妖精の一部は永遠に愛しいユルラゥ。


「あぁああ、ユルラゥ以外の虫をちゃあんと、始末するよォ」


『そ、そうか…………デレたりしねぇからな!』


デレなくて良いから一緒に殺そうぜ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る