閑話91・『魔王軍の元幹部の愛娘に同族の肉を食わせるの楽しい』
魔王軍の元幹部、超常の力で魔物を支配して人類を恐怖のどん底へと突き落とす、片手を振るえば山が消え片手を振るえば海が裂ける。
魔王にはある習性があり、幹部となる者は己の血肉で産み落とす、我が子、それを生み出すには莫大な時間と大量の魔力を必要とする、魔王と呼ばれる生き物の生態だ。
勇魔が使徒を誕生させる過程も同じようなものなのかな?勇魔は魔王の特性も兼ね備えているしこの予想を大きく外れる事は無いだろう、あはは、魔物の食料は人間だ。
エルフライダーの食料がエルフやエルフに関する存在であるように魔物は人間を食する、誰かに決められた絶対のルール、だからこそ魔物は人間を襲い人間を食らうのだ。
「だけど」
エルフライダーはエルフ以外も食する事が出来る、それはシスターだったりそれこそ魔物だったり、最近の好物は魔王軍の元幹部だ、こいつ等を娘に調理して食するのに嵌っている。
そしてそいつ等を子宮にも嵌める、んふふ、臍の穴に臍の尾を嵌める、嵌めて、嵌めて、嵌める、嵌める、嵌める、嵌める、嵌める、そうしたら可愛い赤ちゃんが生まれるんだぁ、産まれるんだぁ。
ご飯をモリモリ食べて可愛い赤ちゃんを産むぜ、まあ、そのご飯がその赤ちゃんなんだけどな、エルフライダーって実に効率の良い生物だよな、そんな生き物で俺って幸せだなぁ、あ、あれ、ホントにそうか?
「ママ、御覧になりましたか!魔物達が絶叫しながら氷漬けにされる様を!」
「ああ、凄いな、冷凍食品だ、幾つかは持って帰って今晩のおかずにしよう」
「魔物って食べられるんですの?」
「お前も食ったけど美味しかったぜ、上では無く下だったけどさ、食った事無いんだっけ?俺の娘なのに変なのー」
高位の魔族は魔力を糧に生命を維持出来る、単体で魔力を生成出来るこいつには食事が必要無いのか?俺の一部になった事で多くの魔力を供給したりされたりしているしな、だけど人間として生活するのにそれでは駄目だろう。
俺の赤ちゃんなんだから、こいつ等の知識を探って魔王軍の魔物を襲っている、知性のある奴だけな!知性の無い魔物は動物と一緒だ、知性のある魔物は人間と一緒だ、つまりは意思の疎通が出来る、餌の場所を教えてくれる可能性がある。
植物属性の元幹部の居場所はわかったが他にもいるはずだ、勇魔の支配を嫌った幹部勢は奴の目を逃れて人間の世界に住んでいる、人間の姿だから人間の世界に溶け込むのは当たり前だ、エルフライダーが人間の世界に溶け込んでいるように。
俺の餌場に逃げ込むなんて馬鹿な奴ら、勇魔に感謝だな、しかし全てがあまりに良い方向に転がり過ぎている、この餌たちは本当に偶然に餌場にやって来たのか?勇魔の仕業?
「あれ、俺って人間」
「?ママ、どうなさいました?あのぅ、私(わたくし)があまり上手に魔物を殺せなかったとか」
「いやいや、上手に殺せてるじゃん、こいつ等あんまり喋れないのな、美味しいご飯の場所を教えてくれなかった」
「ママはお腹を空かせているのに無礼な生き物ですわね」
転がった同族を足蹴にする墓の氷、ニヤニヤ、上品な笑みだが底意地の悪さが垣間見える、彼女は魔物を嫌っている、魔王も嫌っている、俺の思考を読み取って自立稼働する素敵な娘、ニヤニヤ、その姿を見て俺も同じように笑う。
母子揃って同じ笑みとは素敵だぜ、洞窟の奥に隠れ住んでいた魔物は墓の氷が一掃した、どの属性の魔物だったか今や確認する事も出来ない、どの魔王の子供達だろうか?うふふ、あは、新しい属性の餌の場所を教えてぇ、楽しそうに魔物の死体を足蹴にしている娘を見る。
絹の法衣を纏った煌びやかな格好、宝剣に王笏、王杖、指輪、細かい刺繍の入った手袋、その全てが人類が編み出した高価な品物、己が高位の魔物である事を自覚して煌びやかな衣装で着飾るのだ、それと同時に俺の娘であり人間である事も自覚している、哀れな人形。
「そろそろお前もミルクだけじゃダメだろ」
「うえ?!ま、まだミルクだけで大丈夫ですわよ」
「でも俺から産まれて半年は経過しただろオイ、グロリアに遊ばれ過ぎてお乳がイテェ、そろそろお前らもお乳から卒業だ」
「本末転倒ですわ!そもそも私たちのものなのにっ!あの女っ!」
「オッパイ大好きシスターな」
「本末転倒ですわ!そもそも私たちのものなのにっ!オッパイ大好きシスター!」
ゆるやかで幅広な広袖のチュニックを震わせて愛娘が吠える、十字に切り取った布地の中央に頭を通す為の穴を開けてさらにそれを二つ折りにして脇と袖下を丁寧に丁寧に縫ったものだ、肩から裾に向かって二本の金色の筋飾りが入っている、まるで自分が女王だと誇示しているようだ。
そんな女王も乳離れはまだ無理らしい、げしげし、不機嫌になりながら凍った魔物を蹴りまくっている、人間の脚力のソレでは無いので何度か蹴ると罅割れて粉々になってしまう、その一欠片を掴んで口に含む、冷たい氷、血肉を口の中で転がす、唾液で血液が息を吹き返す。
「ころころ、うめぇ」
「ま、ママ、それって魔物を凍らせたモノですわよ」
「お前の冷気なら寄生虫も死んでるだろ、魔力も含んでて毒々しいし」
「いやいや、そうでは無くて、ま、ママ、そんな汚らわしいものを」
「お前だって汚らわしい魔物だろうが、それをこの股で産んだんだぞ、汚いも糞もあるか、肉は肉だぜ」
股と言った瞬間にその頬が朱色に染まる、肌は雪のように白い、いや、氷のように透明度のある白さだ、不純物を一切含まない水を凍らせる事で出来た氷、産毛すら見えないきめ細かいその肌は透明度が在り過ぎて生物のものとは思えない。
口を開いて口内の様子を見せてやる、氷漬けにされた肉塊が溶ける様を見せてやる、何事も教育だと心の中で溜息を吐き出す、マジマジと見詰める姿は真剣だ……もう一人の娘は自由気ままで不真面目だから何だか新鮮である、す、少し恥ずかしい。
「綺麗な歯並びですわ」
「ひょこじゃねぇ」
そこじゃねぇ、明るい薄青色の瞳はやや切れ長で鋭利なモノだ、露草色(つゆくさいろ)のその瞳が俺の口内を映している、路傍や小川の近くに生える可憐な露草(つゆくさ)と同じ色合いをしている、それを見ながらそろそろ良いかなぁって思う。
いただきます。
「んにぃ」
「れろ」
近付いて来た所を捕食する、口の中に噛んでドロドロにした肉を流し込んでやる、涙を流して嫌がる墓の氷だがそろそろ離乳食を与えても良いはずだ、離乳食を始めるのがあまりに早すぎるとアレルギーや様々なリスクがあると言われているがそんなの知らん。
こいつに抵抗されると面倒だ、絡んだ舌から細胞に命じて自由を奪う、赤い唾液が二人の口の隙間から零れる、喰え、食え、飲め、呑め、睨んで命令する、ミルクも与えてやるからよォ、これも食っとけや、そして俺の疲れをわかってくれや、グロリア疲れ。
やがて抵抗も無くなり肉を飲み込むだけの人形に化す。
「んはぁ、ふう、同族美味しいだろ」
「はひ、はぁ、ま、まま」
「色々食べて大きくならないとなァ、色んな味を覚えて、エルフ、シスター、魔物、んふふ、美味しいぞぉ、人型は特に」
「し、しょうですわね、ママがこうやって与えてくれるなら何でも食べますわ」
蕩けた表情で俺に媚び諂う墓の氷、んふふ、良い子ォ、そんな事を言われたらママ嬉しくなっちゃう。
「お前が仕える予定だった新しい魔王もこうやって噛み砕いて餌にしてやるからなぁ、そんでお前と同じように俺の赤ちゃんにしよう」
「ぁあああ、ママの綺麗な歯並びで邪悪な魔王を浄化するのですね、あぁぁ、素敵ぃ、聖女ですわぁ」
ちょろい娘でママ幸せ。
ばーか。
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