第104話・『チェンジ!ユルラゥ!スイッチオン!』

不思議な廃村、この村に来てからは夢の中にいるようだ、グロリアと別行動で村を探索する。


広い村だ、何かを発掘したり捕獲していた人間が急ごしらえで作り上げた不可思議な村、壊れた作業道具を手にしても何に使うものなのか理解出来ない。


グロリアに『女の子の自分を少しは頼りにしなさい、貴方が傷付かない為に』と言われた、化け物と呼ばれて女の子を見捨てた俺、グロリアに近付くためにあの娘を見捨てた。


自分では理解出来ていないがそれに関してはキョウが理解してくれている、だとしたら俺自身か?砂利を踏み付けながら探索を進める、やはり亡霊に襲われて滅んだと見て良い。


「あまりに綺麗過ぎる」


「んふふ、そぉだね、キョウは名探偵だぁ」


「茶化すなよ」


キョウはそんな俺に寄り添ってくれる、前のようにグロリアを嫌う為の教育も自分を好きになるように洗脳する事もしない、俺自身がそれを望んでいるからキョウも避けているのだろう。


建物の多くは住居では無く何かを保管する為の倉庫のようだ、生活する為のスペースが無く工夫された配置でモノが多く収納できるようになっている、この広さとこの建物の数からかなりの人数が住んでいたと予想していたけどなァ。


どの建物も奇妙な穴が開いている、空気穴か?だとしたらかなりの数の生き物を密集させて閉じ込めていた?この建物の数は中に住んでいる生き物の管理を効率良くする為、大きな空間に密集させて飼育するより小さい場所に密集させた方が便の状態などを確認しやすく体調を管理しやすい。


「ふーん、人間を飼育していたのか」


「ちょっと、キョウ」


「どうした、何かあったか?見ているモノは同じでも女と男じゃ見方が違うだろ?そこには期待しているぜ」


「違うよォ、キョウは人間でいたいんでしょう?グロリアに束縛されてるからって全てをあいつに合わせ無くて良いんだよォ」


「な、何だよ、何が言いたい」


「化け物になりたくないならはっきり私にだけ伝えてよ、ちゃんと考えてあげるから、グロリアには内緒にするから」


キョウにしては珍しく裏の無い言葉、同じ心と魂を生理的に切り替えているだけでその根底は変わら無いはず、俺は下唇を噛み締めて無言で歩く。


どの世界でも化け物は一人だ、一匹だ、色んな大切な存在を全て無くして来た過去、そうだ、俺は失って忘れて来た、キョウはそれをちゃんと記憶して覚えている。


やっぱり女の子は強いぜ、それに引き換え俺は全て忘れている、エルフライダーの能力を甘んじて受け入れて自分の都合の良いように自分を書き換えている、じじっじっ、何かが焼き切れる音。


「あれ、何を考えていたっけ」


「キョウが化け物扱いされて傷付いてるって話だよォ」


「そ、そうか、俺はあの女の子を―――」


じじっ、焼き切れる、確実に何かが焼き切れる、まただ、前後が逆転する、自分が何を考えていたのか何を思っていたのか全てが何処かへと消えてしまう、しかしそれが起こる度に胸がスーッとする。


悩みが何処かへと消えてしまったような感覚、首を傾げながらキョウを促すが何も言わない、キョウは俺と違って全てを知っているはずなのに答えてくれない、俺が化け物って話だよな、ああ、思い出したくない。


だけどあの娘から見たらそう見えるのか?自覚しよう、俺は化け物だと自覚しようぜ、だけどそれを自分で処理出来ない、あの怯えた瞳が脳裏から消えない、消してはいけない、でも何かが消えたような気もするぜ。


「化け物は、やだぜ」


「そぉ、泣かなくて良いよォ、私が考えてあげる、抜け道をねェ、グロリアの計画に従ってたらどんどん人間性を喪失してしまうよォ」


「き、キョウはキョウのままだよな、俺と同じようになるのはヤダ、お前がいないと俺は――」


「んふふ、私がぶっちぎりで一番壊れてるから今更だよォ、大丈夫、化け物にならない為の方法を考えてあげる」


「う、うん」


「少し思考が幼くなって来たかなァ?あの二体の魔物を吸収したせいで使徒の血が覚醒してるのかもね、アクめ」


「あ、く?」


「今のキョウはアクの影響で構成された精神だからねェ、その本人が出るのは封じないと、私を封じていたようにねェ」


キョウの言葉は凄く難しい、一つだけわかるのは俺の為に色々と用意をしてくれているって事、グロリアを騙すわけでは無い、グロリアに近付くのは別に良いけど化け物になるのは御免だ。


やっと本音を言えた、他人には言えない本音だがキョウや一部のみんなには素直に言える、体の奥の方で多くの意思が脈動する、みんなも俺やキョウに協力してくれるようだ、グロリアにどのような形であれ反抗するのだ。


炎水とクロリアが妙に嬉しそうに蠢いている、びしっ、クロリアの腕が具現化して俺の首からニョキニョキと生える、筋肉の繊維が少しずつ皮膚から生えて少女の腕へと変貌する、これは化け物じゃないよな、ちゃんとわかる。


あの子は腹が膨れて肉が破裂した俺を見て化け物だと言ったんだ、首から腕が生えるのは一部が喜びで暴走したら誰でもある事だ、俺には腹を膨らませて破裂する以外に化け物の要素は無い、ふぅ、そこをどうにかしないとな。


「キョウは壊れ過ぎて面白いねェ、あっ、そこ怪しい」


「お腹が爆発するのは赤ちゃんの二人の時だけだもん」


「だもんって口調も多くなったねェ、キョウ、それでいてその怪しい魅力、んふふ、良いよォ」


子供になっているのか女の子になっているのか、そう問われても俺は昔からこうだよなあ?キョウが怪しいって言ったのは村の真ん中にある小さな井戸だ、地面に垂直に掘られた井戸だが少し違和感がある。


竪井戸と呼ばれるソレをじっくりと観察する、ち、小せぇ、その穴の小ささに震撼する、穴が小さいって別にセクハラ的な意味では無い、グロリアの気配を感じて一瞬だけ防御の構えをしてしまう、そうじゃない。


釣瓶を垂らす滑車も立派なのにどうしてこんなに穴が小さいんだ?その井戸を覆い隠すように立派な屋根もある、井戸やぐらも実に良い仕事をしてある、井戸の中を覗く、冷気が頬に触れる、水の量を制限している?


「普通の水じゃなくて何か別のモノがあるのか?うーん、普通の水にしか見えない」


灰色狐の細胞を活発化させて覗く、しかし水にしか見えない、底の方に横に逸れるように小さな穴が幾つも開いている、水面ギリギリに幾つも開いた不思議な穴……あれは何だ?調べたいけど流石にこの中に入るわけにはなァ。


サイズ的に無理っ。


『主よォ、だったらオレの姿になろうぜェ』


ユルラゥの声、舌足らずさと甘ったるさと残酷さを兼ね備えた声、その声に俺は頷く。


「ゴキブリサイズに変身するか」


「んふふ、ユルラゥサイズはゴキブリサイズ」


『男女揃って酷いぜっ!!』


キンキン吠えるなよ、うるせぇな。

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