第103話・『腹黒い女が二人揃うと男は寝て誤魔化す』

化け物。


キョウはその言葉を脳裏で何度も反芻させながら心を傷付けている、んふふ、何処までも自分が大嫌いで大好きなキョウ、あの罵りも糧に出来るよね?


それなのにどうもおかしい、膝を抱えて泣いている、泣いている事に気付かずに泣いている、グロリアがそれを抱き締めながら背中を叩いている、まるで母と子供のような構図。


キョウの中でそれを見ていて胸が疼く、疼きは苛立ちへと変わる、キョウの事を誰よりも理解しているのはキョウ自身であり生理的な現象である私だ、他人や一部風情にはわからない、そのはずなのに!


わかってしまうのだ、グロリアに抱かれてキョウが安らぎを感じている事を、私はキョウと同じ心を持っている、しかしそれは女性の心だ、同性に化け物と叫ばれた所で、はぁ?じゃあ死ねよ、って具合だ。


助けてやったのにそれってどうなのォ?でもキョウは優しい、その罵りを甘んじて受け入れて傷付いている、無垢過ぎる男の子ってのも酷だねェ、勇魔が悪いのか部下子が悪いのか、育ての親である二人を心の底で罵る。


私にはキョウだけいれば良いんだぁ、勇魔も部下子もグロリアもいーらなーい。


「抱き締め過ぎ、キョウは寝たよォ」


「ああ、貴方ですか、私のキョウさんはちゃんと寝れたんですね」


「私のキョウはちゃんと寝れたよォ」


売り言葉に買い言葉、ついつい言葉に棘を含んでしまう、グロリアの腕から解放された私は素早い動作で後退る、キョウにしか興味が無いのか私を追う事もしない、んふふふ、別に良いけどね、この女が私よりキョウを理解している?


焚火のオレンジ色の光で染まった世界、私はぷくーと頬を膨らましながらグロリアを睨む、まったく気にしないで焚火に古木を足すグロリア、この街にはそこら中に薪の代わりになるモノが落ちている、倒壊した小屋はそのまま全て薪代わり。


この女が私からキョウを奪う、ここで殺すか?……一部の連中は身を潜めて震えている、どいつもこいつも役に立たない奴だねェ、炎水だけが私の意思に賛同している、んふふふ、やっぱりこいつは手駒に丁度良いねェ、他の奴らはキョウの意思を尊重している。


特に魔王軍の元幹部でキョウが直々に出産したあの二人、反抗的過ぎるかな?グロリアに対抗するにはクロリアかこいつ等が確実に必要だ、しかしクロリアは呼び掛けには応じ無いしキョウの娘たちは激しい敵意を持って私の細胞を壊す、肌に蚯蚓腫れが広がる。


キョウの娘だねェ、キョウである私を認めていないのかな?んふふ、別に良いけどね、様々な優れた細胞で構築されたこの体なら少しは戦えると思うしィ、私の殺意を気にしないでグロリアは干し肉を炙っている、相手にされていないって事で良いのかなァ?


「どうしてキョウが傷付いてるってわかったのォ」


「泣いていたら誰でも気付くでしょう、バカですか」


「んふふ、どうだろう?最近のキョウの精神崩壊は凄まじいからねェ、まともな人間の感性としてそれが理解出来る?泣いてても狂ったのかァで終わりじゃない?」


「キョウさんが泣いているんですよ?それで終わりにするわけ無いじゃありませんか、バカですか貴方」


「ぐ」


「ああ、貴方もキョウさんだからおバカさんには違いありませんね」


ニヤニヤと吊りあがった唇の端が意地の悪さを含んでいる事に気付く、キョウには優しいけど私には冷たい、自分からキョウを奪おうとした憎い女、そんな風に思っているのかな?でもでも、それは間違いじゃない、キョウの望む理想の女性、それが私ィ。


遠くで聞こえる悲鳴が小さくなっている、そろそろ死ぬのかな?それをキョウ自身に選択させたこの女の腹黒さは危険だ、罪を共有する事で自分に依存させようとしている、どうしてわかるかって??んふふ、私もキョウに同じ事をしたからねェ、だけど自分同士だから大丈夫。


グロリアの場合は他人だからね、許せる事では無い。


「死んじゃってるじゃん、アレ」


「そうですね、キョウさんを化け物と罵ったのだから当然の報いでしょう、断末魔がしつこいのは悪い女の特徴です」


「ねえ、グロリアの断末魔も聞いてみたいな、きっとしつこいよ?」


笑いながらファルシオンの位置を確認する、グロリアも剣を置いている、条件は同じだが彼女には敵意が無い、私にはある、この差は大きい、笑みを深めれば深めるほどに殺意を隠せなくなる。


キョウが傷付いている事を理解して利用して癒したグロリア、本来ならそれは私の役目のはずなのに何て酷い事をするんだ、キョウを癒して虜にするのは私なのにさらに生贄を利用する事でキョウを雁字搦めにする。


それをキョウだけにするのなら許してやっても良い、でもお前はソレを他の女にもしてるだろ?人心を掌握するのは得意だもんねェグロリアァ、田舎で育った無垢な若者を恋の奴隷にする事なんて造作も無いよねェ。


こいつきらーい。


「貴方がキョウさんの中から消え去る時の声もしつこそうですね」


「はぁ!?私がキョウの中から消えるわけ無いじゃない!私とキョウの事を何も知らない癖に適当な事を言わないでよねェ」


「邪魔ですからね、その内に消そうとは思っています」


「お前、少し黙れ」


「ファルシオンは重量がありますからね、同時に剣を握っても私の方が速いですよ、せめて私の視線が外れた時に距離を確認しましょう」


もぐもぐ、干し肉を食べながら何でも無いように呟く、断末魔は消えた、キョウに聞かせるには些か過激な声、私が出て来て良かった。


とくんとくん、キョウの鼓動がする、ちゃんと寝れているようだ、最近は取り込んだ存在が巨大すぎて精神が敏感になっている、こうやって私が表に出て情報を全て遮断しないと眠れないでしょう?


「グロリアにはわからないでしょう、んふふ、キョウは私の中で気持ち良さそうに眠っているよ、お前にエルフじゃない餌を与えられてどんどん心が擦り減っているよ」


「そう、ですか」


「お前、もう死ねよォ」


どうしてここまで悪気無く邪気無くキョウに接する事が出来るの?貴方は愛していると言いながらキョウを壊しているんだよ?


「そうですね、死ぬとしたらキョウさんは連れて行きます、あんなに弱い子をこの世界に一人にさせたく無いので」


「ふーん」


嘘だァ、一人になりたくないのはお前の癖に。


キョウ以外の手駒を信用していない癖に。


嘘ばっか。

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