第100話・『二人で成長、互いに悪影響、でも愛』

魔王の眷属は美味しい、エルフしか食べては駄目なのにグロリアの教育のせいでシスターも高位の魔物を食える事を知った。


魔王軍の元幹部を吸収した割に体に変化は無い、莫大な魔力を得た事と母乳が出るようになった事、二人の赤ちゃんに母乳をやるのは良いけどグロリアは駄目。


駄目と言いながら既に三日連続で吸われている、生気が吸われるような錯覚、気のせいかグロリアの肌がテカテカしている、今晩どうですか?と問われると断る術が無い。


新たな餌の居場所も見付けて目標も出来た、植物の属性か、食べれば野菜のような味がするのだろうか?現時点ではそんな想像しか出来ない、お腹空いた、母乳を吸われるだけでお母さんって良い所ねぇ!


「うがあ、肉を食いてぇ!」


「おや、キョウさんが食べたいモノを口にするなんて珍しいですね」


「最近色々と栄養を奪われるからな!!主にグロリアのせいだけど!」


「へえ、まだ遠慮しているのですが今夜は全力で行きましょうか」


「ひぃ」


蛇に睨まれた蛙のように硬直する、乳首が服の裏地に擦れて少し痛い、あれで全力じゃ無いとかどんだけだよ、二人の子供は吸い方も優しいしくすぐったい程度だ。


しかしグロリアのソレは別物だ、しつこく何時間も乳房で遊ぶのだ、怒ろうとしても蕩けた顔であぐあぐしているグロリアを見ると母性が刺激されて何も言えなくなる、物凄く卑怯だぜこのシスター。


こめかみを指で押しながら唸る、隣を歩くグロリアの表情は何処までも明るい、出会った時は常に邪笑を浮かべながら心を抉るような台詞を吐き出す悪魔のようなシスターだったのに、今では毎晩チッパイに顔を埋めて寝ている。


前者の方がマシなのか後者の方がマシなのか悩み所である、胸に触れる、グロリアよりは大きいよな?ふにふに、確認する、グロリアのはこう、うーん、いまいちよくわからん!目的の場所までは馬車を乗り継いでも二週間は必要だ。


「次の幹部も美味しいかなー、ふふ、どんな味なのか想像しただけで涎が出るぜ」


「私は今晩のキョウさんはどんな味だろうと考えると涎が出ます」


「ひぃ」


グロリアから距離を取る、ベールの下から覗く艶やかな銀髪を片手で遊びながらグロリアはもう片方の手で腰の辺りを弄る、胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服は一切の穢れの無い純白、お揃いの衣装って何か恥ずかしい。


あまりに完成された『美』は人形のような無機質さを備えている、グロリアと一緒にいるとその事を忘れがちだが時折見せる冷たい表情がそれを強く意識させる……グロリア以外に母乳を飲ませている事が不満なのかな?でも俺の娘だから勘弁してくれ。


凜とした姿勢で前を歩くグロリアの姿は誰が見ても清らかなシスターそのもので、周囲の人間は呆けたようにソレを見つめるしか無い、高嶺の花過ぎて野に一輪咲いた所で誰もが周囲をグルグルと回って花見をするだけで手一杯。


生きた富貴蘭(ふうきらん)のような存在。


「しかし変な場所だな、ここを通らないと駄目なのか?面倒だぜ、近道は無いのか?」


「ええ、高位の魔物の味を覚えてしまったのですから少しは我慢する事を覚えなさい」


「グロリアも夜の授乳を我慢しろよ、胸がいてぇから!」


「舐めて看病して上げないと」


「ひぃ」


履き口に折り返しのある個性的なキャバリエブーツで地面を軽やかに踏み締めながらグロリアが笑う、天使のような邪気の無い爽やかな表情、この顔で乳首が取れるんじゃないかってぐらい吸い付くのだ、冗談抜きに栄養のあるものを食わないと!


少し眩暈がしてコケる、ずしゃああ、停止したグロリア、これは別に栄養不足とかそんなわけでは無く取り込んだ一部の情報量に脳がパンクしちまった、ダメだぜ、娘二人の情報量が多過ぎる、俺の体の中で蠢く二人の魔王軍の元幹部、流石だぜ。


コケたお陰で良いものが見えた、金糸の十字架の刺繍が黒地に映えて素敵なニーハイソックスだ、グロリアは相変わらず良い趣味をしている、コレを俺に履かせようとするのはマジで勘弁、俺は男だぜっ、本当に困った奴だ、グロリアの変態性癖!


「ありがてぇ」


「ほぅ」


「ありがてぇありがてぇ」


「踏みやすい位置に頭を寄せてどうしたんですか?踏まれたいんですか?」


「踏ませてやっても良いぜ!」


「地面に這い蹲っているのに上から目線とは何事ですか」


「ニーハイソックスとは何事だ、匂いを嗅がせてください」


「それで?」


「良い匂いなら興奮する、臭かったら興奮する、天国と天国の二択だぜ!やったー!」


「やったー!」


両手を天に掲げたグロリアが俺の頭部を踏み付ける、チッ、もう少しで夢の三角形が見れたのに非常に残念だ、口に入った砂利を吐き出しながらゆっくりと立ち上がる、肉を食いたいとは言ったけど砂を食いたいとは言って無いぜ。


口元を拭いながらグロリアを睨む、頭痛いっ!


「痛いぞっ!」


「見て下さいキョウさん、ダンゴムシが死んでいます」


「どうでも良いぜ!ふん、グロリアに授乳しねぇからな!こちとら育ち盛りのガキが二人もいるんだ!グロリアの分なんて最初から無いんだぜ!」


「一人減らせば片方が余りますよね?右ですか?左ですか?」


「ひぃ、片方だけ色変わっちゃうからやめてっ!」


グロリアの責めはキツイ、森の中を歩きながら夜の事を想像して震える、この森は多くの魔物が生息している、どれのどれもこれもが何かの死体に寄生した魔物だ、死臭と腐敗臭、俺は錬金術で臭いを遮断しているしグロリアも魔法で防いでいる。


危険な場所らしいがここを通らないと件の元幹部には会えないらしい、どんな娘なのだろうか、どんな俺の娘になるのだろうか?考えただけで笑みが深くなる、ズキズキ疼く、子宮が疼く、二人も産んじゃったからもう二人いれないと、減らしたら増やさないと。


「減らしたら増やさないと」


「そうですね、それがわかっているキョウさんは賢いですね、おいで、撫でましょう」


「は、恥ずかしい」


「私のキョウ、おいで」


「あほぅ」


ベールを脱がされて頭を撫でられる、癖っ毛だし撫でても楽しく無いぜ?寄生された動物の動きは本来では有り得ないもの、その不気味な仕草も見ている内に可愛いものに見えて来る。


しかしこの森は本当に愉快だな、どれもこれも死体でどれもこれも寄生虫、薄気味悪い森だけど何故が居心地が良い、墓の氷の錬金術で鉄のヘビを生成して森に放つかな?魔物でも人間でも好きに寄生すれば良い。


はは、駄目だ、魔物を食ったせいで人間の感性が薄れている、グロリアはそれで良いですよと甘く呟く、俺を壊して壊してそれでも受け入れてくれる、だから俺は甘んじて現状を受け入れる、あ、何か声がするぜ。


「魔物に襲われている人間がいますね、同業者ですかね?」


「あ、そう」


素っ気ない返事、ああ、でも助けないと駄目か。


「どうしますキョウさん?」


「あは、美味しそうな奴は食う、まずそうな奴は食う、両方食う!人間も魔物も同じお肉!」


「ふふ、もう一度撫でてあげます、私の可愛いキョウ」


俺の可愛いグロリア。

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