第98話・『逆出産ですわぁ』
熱い、お臍の穴が焼けるように熱い、人間を模して作られただけの器官が奇妙な熱を持って私を虐めている、このままではヤバい、両手で掴んで冷気を流し込もうとする。
そのまま本体も氷漬けにしてやる、力の方向性に気を使ってこちらに流れないようにすれば良いのだ、その瞬間、両腕に電光が走る、射抜かれる、炭化した両手が崩壊した壁から流れ込んで来る風に吹かれて散り散りに。
痛みは無い、再生も始まっている、それよりも何よりもショックなのが今の攻撃に一切の情が無かった事実、炭化した両手よりも失った信頼の方が重要だ、私との記憶がある?魔物である自覚があるの?なのにどうしてッ。
声にならない声のまま全てを吐き出す、喉が潰れるのかと思うぐらい全力で、少しでも貴方に私の想いが伝わるように全身全霊を込めて、そしてエルフライダーには口汚い言葉で罵る、どうして、どうして此処野花をこんな風にッ!
「へえ、臍の尾で繋がったお母さんにそんな言葉を吐き出すか、くくっ、どう思う此処野花ァ」
「お母さん、こいつも娘にするのか、お母さんって呼び名は私のモノだからそこは頼むぞ、わ、私だけのお母さん」
「じゃあお前はママって呼べやァ、墓の氷ィ」
「だ、誰がっ、っあ、これを、これを抜きなさいっ!」
「エロォ、なにその物言い、けけっ」
エルフライダーの笑みが深くなる、炭化した両腕の再生に追われて魔力が行使出来ない、高位の魔物には自己再生機能がある、しかしそれは本人のが望んだものでは無く創造主が望んだモノが大半だ、い、今は傷口の再生なんてどうでも良いのにっ。
このニヤけ面に氷柱をぶち込みたいのに魔法を使えない、この悍ましい生物が此処野花の母親?貴方の父は歴代の魔王の中でも最強と誉れ高い雷皇帝でしょう?私が家畜にするはずの人間では無いはず、なのに理不尽にその現実を口にする、後付けの現実を。
臍の尾?から何かが奪われて何かが流れ込んで来る、最初は魔力を奪われているのかと焦ったがそのような形跡は無い、しかし何かわからないモノを奪われる現状はとても気分が悪い、しかしどうして奪われていると理解出来るのだろうか?不思議な感覚だ。
高位の魔物である私は誰かの体内で生成された存在では無い、お臍の穴も人間を模しただけ、お臍の穴も臍の尾も関係が無い生物、そもそも臍の尾は出生した後に自然にあるいは人為的に切断される器官だ、このように攻撃的に対象に突き刺すような器官では決して無い。
胎盤等の胚膜の主要な部位から成る器官が切断される、そして体の方に残った部位も周囲が締め付けられる事で血液循環が失われて壊死して脱落するのだ、この時の瘢痕がお臍の穴、知識としては知っている、人工生物を製造した事も何度もあるからだ、まさか自分がその対象にされるとは!
「きさ、貴様ぁ」
「吠えろ吠えろ」
「お母さん、黙らせようか?墓の氷は見た目は煌びやかだが中身は地味っ娘だぞ、ため込んでいる不満を吐き出すと聞くに堪えないぞ?」
「あはははははは、吠えろ吠えろ、あははははは」
「お母さんが幸せなら私は何もしないよ」
「こ、此処野花、どうして、どうして私を騙したの?正々堂々と勝負する事が貴方の美学だったではありませんか!」
高位の魔物はその全てが緻密に計算された高次元の生き物だ、自己再生機能もその内の一つだし学習能力も人間のソレを遥かに超越している、なのにどうしてこのような原始の生物の特徴であるお臍の穴を?理解出来ないし納得出来ない。
臍の緒の形状を観察する、通常のものより太くて激しく脈動している、そもそもは爬虫類等における胚膜に由来する器官だ、爬虫類の卵は胚が変化する途中で胚の腹面から卵黄のうが卵黄を取り込んでてぶら下がる、そして尿のうが不純物を蓄積する。
その表面部分は卵殻の奥側に浸透してそこに血管が広範囲に広がる事でガス交換をするのです、そしてそれを内包するように外部に漿膜、内部に羊膜が形成される、最終的には胚の腹面の紐一つで外界と接触する事になる、紐一つ?あれ、コレか?コレなのか?
哺乳類よりももっと原始的な意味合いで私を蹂躙しようとしている?
「や、やめなさい、こんな、原始的なっ、気持ち悪い気持ち悪い」
「ママでちゅよー」
「やめろっ!回復が終われば貴方なんかっ、すぐさま氷漬けにしてっ!」
「あっぷぷー、お喋りがお上手でちゅねー」
「き、さまっ」
「お前、今、その自己再生能力を邪魔だと思ったろ?自分の親が子を想って授けてくれた能力を邪魔だと思っただろ?」
「う、あ、それは」
どうしてそれがわかる?ベールの下から見える金糸と銀糸に塗れた美しい髪、崩壊した壁の隙間から差し込む太陽の光を鮮やかに反射する二重色、黄金と白銀が夜空の星のように煌めいている。
瞳の色は右は黒色だがその奥に黄金の螺旋が幾重にも描かれている、黄金と漆黒、左だけが青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる色彩をしている、豪華絢爛な着飾る必要も無い程に整った容姿、まるでお人形のように一切の無駄の無い完全な美しさ。
私と同じ人工の生命体、誰かの意思で生み出された存在、私は魔王に、彼女は神に、二つの人工生命体が一つの尾で繋がっている、そこから何かが流れ込んで来る、そこから何かが奪われるのだ、最初は魔力かと思ったが違う、どうしてそれが理解出来る?
胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服は一切の穢れの無い純白、これ程に醜悪な生き物なのにどうしてそのような格好を?私は奥歯を噛み締めながら睨み付ける、これで私の思考を読んでいるのか?私は貴方の思考が読めないのに何て一方的な器官。
「ふふ、ウザいと、生みの親が授けてくれた能力がウザいならやっぱりお前は俺の子だぁ、今までが嘘だったんだぁ」
「やめろ、やめろ、汚らわしいっ、私は誇り高き魔王の眷属!4代目魔王であるココリアの娘ですわよ!」
「人類に甘い糞魔王だろォ?お前の理想である人類の家畜化まで思い至ら無かった程度の低い魔王」
「私の夢を貴方なんかにっ」
「お前は甘いなぁ、全部を同時に家畜にしなきゃ、魔王も魔物も人間も平等に四肢で地面を踏み締める家畜にしようぜぇ、新しい魔王もだ」
え。
平等に?それは私が考えなかった事、人間と魔物を交互に家畜化してそれを裏で操る、魔王の力で操る、それが私の夢だったのに全てを家畜化して四肢で地面を踏み締める素敵な生き物に変化させる?
あの誇り高い魔王も家畜に?そ、それは考えなかった、考える事を禁じていた……確かに言われてみればそれこそ究極の形と言える、全てが平等に管理される社会、こ、この方、もしかして私に似ている?
「似ているとも、だった俺はお前のママだもん、なぁなぁ」
「は、はい」
「4代目魔王であるココリアも雷皇帝も生きていたらぁ、俺の家畜だ、こんのぉ、可愛くて小さいお尻で跨るんだァ」
「ライダー、エルフライダー」
「お前の理想は俺の中にあるだろ?全部家畜化ぁぁ!すんごいよなぁ、お前の夢、お前の夢さあぁ、すんごくいい、俺の能力にぴったり」
「あ、そ、そう、貴方がいればササがいなくても此処野花がいなくても私の夢は―――」
「俺達の夢だろぉ?お前なにを言ってるんだ、ココリアは家畜だろ?お前、そんな事もわかんねぇのか?家畜の娘じゃねえだろ、俺の可愛い娘、俺の、これ俺のぉ」
「あ、そ、そうですわ、私は貴方の娘ですものね、同じ夢を持っているんだから当然ですわ」
そうだ、4代目魔王であるココリアも雷皇帝も家畜、私の夢は全てを家畜化して平等にする事ですわ、新たに誕生する魔王もエルフライダーの為の家畜にする、私と同じ夢を持っているこの、えっと。
「まぁま、だろ?そしてお前の理想の男だろぉ」
「まぁま、ママ、ああ、ママ、ママの為に私はこの屋敷を建てて研究して!だ、男性としてのママも素敵ですわね、だって私をこんなにボロボロに出来るんですものね!」
「強い雄だもーん、おいで、おいでおいでおいでおいでおいで、んふふ、俺ぇの、墓の氷ィ」
「ママ、屋敷が壊れて」
「んふふ、ここにお前のお部屋があるから大丈夫だよォ、あはぁ、顔を入れるぅ、あそこにいいい、あそこにぃ、子宮に戻りなさいな」
―――――――ああ、引きずり込まれる、お臍の尾が私を引き寄せる、壊れた建物はもういらない、だって、ここにお家があるから。
ずぶり、頭部を捕食されながら思う、ママの中は良い匂いがする、微かなアンモニア臭と人を惑わす蜂蜜のような香り、毒々しさを内包した矛盾した香り。
まぁま、ああ、いっしょにゆめをかなえるのですね。
かちく。
きたならしいまおうはししであるいてままにまたがられる。
家畜ですわぁ。
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