閑話89・『臍の尾の正しい使い方を教わる』
自分が切り替わる瞬間がわからない、自分と私が激しく切り替わると異常に疲れる。
舌先が回らない、食欲が失せる、妙に男性の視線が気になる、その全てがキョウの仕業なのだが責める事は出来ない。
久しぶりに訪れた湖畔の街、ああ、封印が解かれてるからここまで顔を出しているのかな?
俺のキョウ、まさかここにまた呼び出されるとはなァ。
「キョウ!」
「ぐえ」
いきなりの突進はキツイぜ、涼しげな青い湖面、その周りを囲むような小さな建物が幾つも並んでいる、風光明媚な街、自然と人工が仲良く調和している。
そんな街の真ん中で俺はもう一人のキョウに抱き着かれる、凄まじい速度と勢い、潰れた蛙のように情けない声を上げて地面に倒れ込む、俺の腹の上に跨ってケラケラと笑うキョウ。
おいおい、俺はエルフライダーで将来の夢はドラゴンライダーだぞ?人様に跨られる趣味なんてねぇぜ?上半身だけ持ち上げてキョウと向かい合う、封印が解かれてからは異常に元気だ。
キョウの後ろには岩塩鉱山が聳え立っている、街を囲むように聳え立つその景色は中々に圧巻だ、海の無い地域では白い金と言われる程に塩は重宝される、あそこに広がる山々の全てが岩塩鉱山なのだ、街の発展具合も納得出来るぜ。
俺とこいつだけの一人っきりの街だけどよォ。
「お前な、妊婦に対してこのタックルは犯罪だぜ?」
「え、もう産んだじゃん」
「産んだけどよォ、産後の疲れがあるんだぜ」
「あはは、一人いなくなって体調崩しちゃったんだァ」
「そうだぜ」
「だったらもう一人子宮に入れたら良いじゃん、んふふ、子宮が寂しいのは嫌だよねェ」
「あ、そうか、産んだからまた入るんだ、キョウは頭が良いぜ、そうだ、頭を撫でてやるぜ」
「やぁ、キョウの撫で方は最近ざつー」
嫌がられる、割とショック、癖ッ毛の髪を撫でていると妙な気持ちになってつい激しく撫でてしまう、自分の髪に手を伸ばす、同じような癖ッ毛だが撫でようとは思わない、不思議だ、キョウも俺も同じキョウなのに。
少しずつ差別化されているのか?腹の上に跨ったキョウの太腿の感触を喜びつつ注意深く観察、何時ものキョウ、俺と同じ姿をした女性寄りの人格のキョウ、ケラケラと笑う姿は何処までも無邪気で幼くて無垢だ、俺のキョウ。
提案について考える、やはり計画通り、あの魔物は俺の赤ちゃん恋人にしよう……ササと此処野花しか認めないあの誇り高い人格を俺にメロメロな赤ちゃん恋人に変化させる、それは考えるだけで実に楽しい、とてもとても楽しい、太腿の感触は気持ちいい。
「撫でさせろ、おらぁ」
「やぁ、もぉ、我儘なんだから」
「相変わらずの癖ッ毛だな、陰毛みてぇ」
「そっくりそのままお返ししますー、私達ってあそこの毛も金と銀なのかな?生えたらわかるかなァ?」
「そりゃまあ、そうだろう」
「そうかァ」
「貴方が落としたのは金の陰毛ですか銀の陰毛ですか?」
「キョウったら、私じゃ無かったらセクハラだからねェ」
「良いから答えろよ」
「キョウと同じのだよォ、もぉ、ばかばか」
胸をポコポコと叩かれる、グロリアの平坦な胸とは違って少しは楽しい触感だろ?やられっぱなしは性に合わないのでキョウの胸を揉む、おお、俺の胸もこんな感じなのか、意外にあるじゃねぇーか。
何だか少し楽しい、暫くそうやって互いの胸を楽しむ、ん?一瞬だが視界の隅を何かが横切った、それは天空から垂れ下がっている、ゆらゆら、見上げると雲の中にまで伸びている、臍帯(さいたい)だ、つまりは臍の尾だ。
血をツーと地面に垂れ流しながら揺れている、まるで何かを探しているように揺らいでいる、俺とキョウの世界に存在するって事は俺の臍の尾だよなァ?掴もうと思ったが何だかグロイので止めとく、もしかして此処野花(ここのか)のか?
正しくは俺と此処野花のか、訂正しつつ首を傾げる。
「キョウ、これ何だぜ?」
「臍の尾だォ、んふふ、使い方を知らないんだァ?」
胎児は胎盤を通して母親から栄養分や酸素を受給する、そして自分に不必要な老廃物は母体に処理して貰う、そんな胎児と胎盤を繋げているのが臍帯だ、それが使い方なのか?
キョウは俺の上に乗ったまま服を捲し上げる、綺麗な臍の穴が見える、指で突きたくなる衝動を我慢しながら黙ってササの説明を受ける。
「キョウの股間から飛び出たこいつでェ、赤ちゃんにしたい生き物のヘソを突き刺すんだよォ、ここだね」
「それが正しい臍の尾の使い方なのか?」
「そうだよォ、そして子宮に引きずり込んでお終い、触手のように動くでしょう?」
「あはぁ、ホントだァ」
びちびち、俺の臍の尾は俺の意思のままに脈動する、天にまで届く長さ、これを赤ちゃんにしたい奴の臍の穴にぶち込んで融合して子宮に引きずり込めば良いのか!
そうか、だから穴と紐なんだ、形がそうだもんな、俺はこの年齢になるまでそんな事も知らなかった、は、恥ずかしいぜ。
「これでみんな赤ちゃん作ってるのかぁ、お、大人になったぜ」
「んふふ、これでキョウも立派な大人のレディだねェ」
臍の尾の正しい使い方を教わったぜ。
んふふ、よぉし。
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