閑話88・『もっと壊れて性にゆるゆるになればグロリアも嫉妬でちゃあんと、ちゃあんとあたまがおバカになるよ』

ふと意識が飛ぶ時がある、気付いた時にはエルフの少女やエルフに関わりのある少女と全裸で一夜を過ごしている。


餌を求めているのだろうか?一部の皆は口を閉ざしているし無理矢理聞く程の事でも無い、草食動物が草を食らうように、肉食動物が肉を食らうように、エルフライダーがエルフを食らうのは当たり前だ。


つい先日もそのような事があり、生理的なモノだと諦めつつキョウの存在を意識する、封印された場所から少しずつ顔を出すようになった、んふふ、私の事ォ?それなのに俺はそれを当たり前の事としか認識出来ない。


童貞も処女も軽々しく捨てるつもりは無い、処女?俺は男だぞ、夜の街をフラフラと彷徨いながら苦笑する、自分が女だなんてとうとう壊れたか?キョウ、こんな夜中に一人で出歩いてると危ないよ?ほら、みんな見てるよォ。


「みんな見てる、か、ふふ、痕を付けてグロリアを嫉妬させたいぜェ」


「んふふ、キョウの目的はそれェ?あの涼しい顔が嫉妬で歪むのは見物かもねぇ?でもでも、危ない事は駄目だよォ」


「俺と私の体でエルフを抱いている癖に偉そうに説教するんじゃねぇぜ」


「でも最後の一線は守ってるから安心してねェ、キョウの初めては私が貰うからねェ」


「あほくさ」


誰と会話しているのかわからない、だけど言葉が溢れて来るし言葉が紡がれる……そうだ、グロリアを嫉妬させたいんだ!でもそれはどうしてだろうか?ああ、胸を触るだけでグロリアは処女も童貞も奪ってくれない。


ヘタレめ、違う女か男のキスマークの一つでもあれば良い刺激になるだろう、あ、あれ、そんなのやだ、グロリア以外の人と肌を重なるのは気持ち悪い、嫌だ、そんな事はしたくねぇぜ、気持ち悪い、俺の肌はグロリアの物だもん。


グロリアの所有物、グロリアが自分の分身であるクロリアを与えてこの白磁の肌になった、それってつまりグロリアが俺の設計者、創造主、グロリアが決めた餌を与えられる事でグロリア好みのグロリアの為だけのキョウになる。


キョウったら、私が眠っている間にグロリアにまた強く洗脳されたんだ、ホントに酷い女、外見が良くても中身が最悪だと意味無いよ?キョウは純粋過ぎて女性を見る目が無いんだから、ほら、嫌悪感で泣き出しそうな顔をしていると変な男が寄って来るよォ


でもねェ、キョウは色んな人にもう触られてるよォ、私が遊んだもの、あはぁ、大丈夫大丈夫、下は大丈夫、上は大丈夫じゃないよ?初キスがグロリアで満足してるんだから少しぐらい良いよねェ、こうした方がキョウが壊れるのが進むでしょう?


「おェ」


歓楽街の賑わいを避けるように裏路地に入る、吐瀉する、吐き出す苦しみより嫌悪感で涙が出る、自分の思考が定まら無い、グロリアを嫉妬させる為に他人に抱かれる?そんな恐ろしい発想何処から出て来た?そもそもそれを違和感なく受け入れたのは俺だ。


奥歯がガチガチトと不規則に鳴る、よ、汚れているのか、知らない内に俺は汚れている?神が創造した美しいグロリア、その体の全てが聖域で触れる事は許されない、そんな穢れの無いグロリアの体に穢れに塗れた俺が触れる?背筋が凍る、い、嫌だ、グロリアは汚したく無い。


赤い月が俺を見下ろしている、赤い月の光が過敏になった俺の神経を刺激する、舌打ちしながら蹲る、吐瀉物の隣に座り込む時点で頭がおかしくなっている、頭の奥の奥の奥の方が凄く冷たい、死を意識する冷たさ、何もかもを凍らせる絶対零度のソレが俺の熱を奪う。


「おェ、ふぅ、私も吐いちゃった、キョウからの貰い吐瀉だ、んへへ、ニガニガするよぉ、あはは、キョウったら、他人と寝たぐらいで酷い有様だねェ、他人なんてどうでも良いじゃん、私がいるよォ?」


「き、汚らしい」


「あはは、何時もは軽々とエッチな言葉を吐き出してるのに初心なんだからァ」


「汚らわしい汚らわしい、お前のせいだ!ぐ、グロリアに触れなく……うあ」


「あいつの方が汚いよォ、キョウ、落ち着いて、俺と私の入れ替わりが激しくて精神も肉体も疲弊してるよ?私の事を嫌っても良いから自分の体を労わって」


思い出せない、どれだけの人間と肌を触れ合った?お、お腹が減ると全てが狂う、俺が俺じゃなくなって軽々しく股を開く化け物に成り下がる、淫靡で陰湿で因果な化け物。


下は大丈夫とキョウは言った、だから、だから吐き出してしまう、自分の口内が気持ち悪い、誰の舌を迎え入れたと自分を激しく責める、キョウの甲高い笑い声が聞こえる、俺の声なのにどうしてこうも違う?


冗談では無く強い意志で舌を噛もうとする、エルフライダーだ、死ねない、勝手に妖精の力か錬金術が発動して死を回避する、だけどこの他人と絡めたかもわからない舌はいらない、切り捨てる、噛もうとすると視界で火花が散る。


「だめだめ、潔癖なんだから、痛い事はしたら駄目だよ」


「ハァハァ」


「ほら、適当な男の子か女の子を見付けて絡み合おうよ?グロリアを嫉妬させて遊ぶんでしょう?んふふ、どうしたどうした」


「や、やめて、お願いだから……ぐ、グロリアに会いたいよォ」


「キョウ、女の子みたぁい、可愛いー♪そのグロリアを嫉妬させないと、飽きられて捨てられない為に工夫をしないとねェ、夜の生活でもね」


「お、おっぱいだけじゃダメなのか?」


グロリアはおっぱいが好きだもん、少し大きくなったもん。


キョウ?


「んー、どぉだろ?安易に触らせて舐めさせるのも良くないと思うけどォ、まあ、あの強欲シスターはそれで満足だろうしねェ、普段はキョウの母親ぶっているのに夜は逆転しちゃってるしねェ」


「俺がグロリアのお母さん?」


「感じないかなァ?母性に飢えてるんだよォ、私達は悲しい別れはあったけどお母さんには恵まれてるからね」


「おかあさん」


故郷の母でも灰色狐でも炎水でも無いような響き、深く考えたら頭痛がより激しくなる、両腕で自分を抱き締めながら呼吸を整える、グロリアがどのような考えで俺を弄んでいるのかそれはわからない。


どうしてこんなにも俺に甘えるようになったのか、しかし無いはずの母性が刺激されてついつい体を許してしまう、男と女の関係では無くて女と女の関係、母と子供の関係、授乳するグロリアの髪を手で梳くのが幸せだ。


そんなグロリアを嫉妬させたいだなんて、汚い自分の発想に嫌気が差す、俺と私の境目が無くなって私の思考に俺が染まる、グロリアに嫌われたく無いのに、グロリアを悲しませたく無いのに、キョウのせいでキョウは変わる。


闇の深い路地裏の世界で俺は私と自問自答する。


「舌が痛い、キョウ、もう帰りたい、グロリアの所に帰りたい」


「んふふ、俺と私で続けて喋ってるから体が悲鳴を上げているのかな?そうだね、じゃあ、一人だけ抱いて帰ろうか」


悪魔だ。


「い、嫌だ、嫌だ」


「そうだね、嫌だねぇ、でもグロリアは抱いてるよォ、んふふふ、他のシスターを抱いて洗脳して支配してる、見た事があるでしょう?アラハンドラ・ラクタルの門番」


「ぐろりあを、そんけいしてた、よね」


「自分に嘘つきしちゃうのは苦しいよ?キョウはわかってたでしょう?あの女の目は支配されたメスの目だ、グロリアは抱いてるんだよォ、キョウに内緒で」


「おれに、うそだ」


駄目だ、頭痛は激しくなる一方だし、現実は何処までも無慈悲に俺を苛む。


わ、忘れないと、エルフライダーの能力を行使してもっともっとバカにならないと、ぐ、グロリアは俺が一番だって言ってくれた、好きだって、考えるな――――考えようよ、キョウ。


「ぐろりあ、おれ」


「そう、計画の為に私達の他に駒がいるんだよォ、だからキョウと同じように抱いている、キョウはグロリアの特別じゃないから」


「うそ」


罅割れたガラスが地面に落ちている、売れば少しは金になるのに、月の光で照らされた俺の顔は酷いものだ、引き攣っている、痙攣する口元が忌々しい。


あまぁい言葉が俺を誘惑する、おれ、ぐろりあ、わたし。


「キョウ、どうする?グロリアがたまにいなくなるのも女を抱いているから、シスターを抱いているからだよォ」


「お、おれ」


「んふふ、はぁい、ちゃんと聞いててあげるね」


「おれ、その、ぐろりあに、あきられないために、やる」


「なにをやるのかなァ?」


「ほかのひとに、だ、かれる?」


「せいかぁい」


すてられるのはいやだからわたしのことばにしたがった。


すてられるのはきらいだ。


むかしからきらいだ。

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