第92話・『あかちゃんこいびと、こいびとあかちゃん、あかさん、あかさま』

難無く突破出来た、魔物による抵抗も無い、最初から歓迎しているような違和感、不法侵入だぜ?最上階の開けた場所に一人の少女が玉座に腰掛けながら柔和な笑みを浮かべていた。


絹の法衣を纏った煌びやかな格好をした少女、宝剣に王笏、王杖、指輪、細かい刺繍の入った手袋、様々な情報が視覚から一気に流れ込んで来る、絵物語の王女のようだと心の中で思う。


錬金術師と聞いていたが何処かの王族の方ですか?もしグロリアの予想が当たっているのなら魔王軍の元幹部、一つの城を任されるような存在、その時の名残なのだとしたら納得してしまう。


「あら、ササ、妙な気配を纏っていますね」


ゆるやかで幅広な広袖のチュニック、十字に切り取った布地の中央に頭を通す為の穴を開けてさらにそれを二つ折りにして脇と袖下を丁寧に縫ったものだ、肩から裾に向かって二本の金色の筋飾りが入っているな。


筋状に裁断した別布を縫い付けているのだ、袖口にも同じ色彩の筋飾りが縫い付けられている、本繻子(さてん)と呼ばれる繻子織(しゅすおり)で編まれた素材、物珍しさに目を瞬かせる、建物にも服にもお金を掛けているな。


経糸(たていと)と緯糸(よこいと)の五本以上の糸で構築される織物組織の一種だ、経糸と緯糸のどちらかの糸の浮きが極端に少ないのが特徴的だ、経糸か緯糸のどちらかだけが表面に見えるのだがその職人技には素直に感嘆する。


密度が濃く層も厚い、さらに柔軟性もある、中央では高値で買い取りされると聞いている、光沢が恐ろしい程に強く服の形をした宝石のようだ、唯一の欠点は摩擦や引っかかりに弱い所だ、欠点と言える欠点はそれだけで非常に優秀な衣服なのだ。


「いや、俺、ササじゃねぇぜ」


「嘘を言わないで下さいますか?私(わたくし)が最愛の弟子を間違うわけがありませんわ」


「ササは俺が食った、容姿も技術も心も感性も全て俺のモノになった、お前のササじゃない、俺の最愛のササだ」


「……勇魔、勇魔を見ているようですわ」


青色のサテンは鮮やかな光沢を放ちながら彼女の幼い体を包み込んでいる、裾の隙間から紅色のサテンが見える、裏地に付けて作られているようだ、薔薇の縁飾りを付けて三日月の紋章が刺繍されている、それ以外にも多くの箇所に金糸刺繍がされている。


首を傾げると頭部にある小さな王冠が僅かに傾く、アーチやキャップが無い、内部被覆が皆無な独特の形状、サークレットと呼ばれる王冠だ、素材は銀だろうか?幼い少女がするには不相応だと思うが何故か自然と馴染んでいるようにも思える、しかし美味しそう。


美味しそうなガキだな、色々な副菜で自分を着飾った幼くも柔らかそうな肉、肌は雪のように白い、いや、氷のように透明度のある白さだ、不純物を一切含まない水を凍らせる事で出来た氷、産毛すら見えないきめ細かいその肌は透明度が在り過ぎて生物のものとは思えない。


明るい薄青色の瞳はやや切れ長で抉るのが難しそうだ、まぁるい瞳なら何度も抉った事があるから自信がある、露草色(つゆくさいろ)のその瞳に興味が集中する、路傍や小川の近くに生える可憐な露草(つゆくさ)と同じ色合いをしていて実に良い、実に素晴らしい。


形状的に抉る時は横から指を差し込んだ方が上手に出来そうだ、露草はその花や葉の汁に布を漬ける事で素晴らしい色彩に染める事が出来る、古名も様々あり、着き草や月草や鴨頭草とも呼ばれる、『うつろう』や『消え去る』の意味合いを持つその花の色彩は健気で実に愛らしい。


抉って食べたい瞳だ、つるんと吸い込んだら喉越しが良さそうだ。


「ああ、隠しても仕方ねぇぜ、俺はエルフライダー、エルフに跨って支配するのがお仕事だ」


「ササの意識はありますの?」


「あるぜぇ、昔は研究しか興味が無かったが今は俺を讃える事に人生を捧げている、ササだけに!」


「あら、面白い方ね、魔物の感性で発言してごめんなさいね、ササは愛弟子だけれども、あの娘がどのような形であれ幸せなら私は全て納得してしまうのですわ」


「恨まないのか?」


「恨む?ササは貴方になって幸せなのでしょう?幸せを受け入れるのは人間も魔物も変わら無いでしょうに?」


「ヤベェ、グロリア、こいつ魔物とか隠してねぇ」


「ヤバく無いですよ、ボコボコにしちゃえば素直だろうが嘘つきだろうが魔物の死骸です」


グロリア怖いぜ、俺達の危険な発言にも幼い姿をした魔物は臆する事無く佇んでいる、やはりかなり高位の魔物、魔王軍の元幹部、俺の子宮で育っている可愛い胎児と同じっ、擦る、疼く、まだ余裕があるよな?まだ埋めれるよな?そして産めるよなァ。


おかぁさんにならせてぇ、俺は笑みを深くする、子供は生まれる場所を選べない、でも親は子供を選べるな、俺は子供を選べる、だからこいつを俺の赤ちゃんにしたいです、子育てしたぁい、おかしい、私じゃないのに口調が乱れているような?そんなバカな。


キョウ、大丈夫だよォ、だって境目なんて無いんだから封印が緩くなったらキョウはキョウのままで女性寄りの私になる事もあるから、怖がらないでねェ、いい子いい子してあげるから不安にならないでねェ、んふふ、そうか、だったら良いぜ、男のままでお母さんか。


700年前の魔王の雷皇帝(らいこうてい)の幹部である此処野花(ここのか)は俺の子宮で順調に育っている、スペースはまだまだあるぞ、実に良い子宮だと好評です、この子宮は良いものだ、入れたい、入れたいよぉ、目の前で踏ん反り返っている幼女を子宮に入れたいよォ。


「おいしそ」


「素が出てますよ、キョウさん」


「勇魔と同じように精神の崩壊が激しいようですわね」


「おいしそ」


その髪の色合いも草花に由来している、可憐で明るい青色、勿忘草(わすれなぐさ)の色彩、瞳の色も髪の色も清楚で可憐だなと感心する、勿忘草の花は恋人達の花とも言われているが強制的に恋人にするのも良いかなぁと思う、恋人で子供か、精神汚染したいなァァ。


したいしたいしたいしたいしたいしたい、死体にしたい、そして俺の血肉で新たな生体にしたい、ンフフ、キョウ、めっ!だよ!!焦りは禁物でしょう?私は大嫌いだけどグロリアの合図があるまで動いたらだぁめ、あの女は物事の流れがしっかりと見えているから、利用しようねェ。


口調に反したクールなショートヘアーも愛らしい、毛先に遊びが出るように左右に振っているのも好みだぜ、赤ちゃん恋人だ、赤ちゃん恋人にしよう、俺はそう決めたのでお腹がグルルルと鳴る、今日のご飯が決定したので体が反応しているのだ、恥ずかしい。


卑しい化け物。


「おいしそ」


「キョウさん、もう限界ですか?」


「おいしそ」


「だそうです、貴方、魔王軍の元幹部でしょう?素晴らしい経歴ですね、なのでこの子の餌になって下さい……私、この子が幸せそうにご飯を食べるのを見るのが大好きなんです」


「――――狂人が二人とは珍しいですわね、よろしい、ササの技術も必要ですし屈服させて寄生虫を埋め込むとしましょう」


「おいしそ」


赤ちゃん恋人。


おいしそ。

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