第91話・『師匠です、そして師匠キャラで一番好きなのは亀仙人、老師様大好き』

墓の氷は人間の世界では錬金術師として生活している…………人間の世界は広くて大きい、自分の知識や研究を受け入れてさらに発展させる土壌がある。


魔物には無い特性だ、その特性を勇魔が魔物に与えた時は呆れてしまった、パクりですわ!何処からどう見ても人類のパクり、最初から胡散臭い男だと思っていたのでそこで決心した。


こいつは自分の主では無い、生みの親で4代目魔王であるココリアは静止した世界を好んでいた、その絶対零度を凌駕した不可視の能力で時間すらも停止させた永遠の姫、彼女が勇者に滅ぼされてからは真の主を失ってしまった。


今の主である勇魔はイレギュラーだ、神の子として勇者と魔王の能力を備えた化け物、魔王としての特性もあるので魔物も従わないとならない、自分のような魔王の腹心であってもだ!だけど彼は裏切りに寛容だ、理由を説明したら笑顔で去れと言われた。


あれは異様だ、歴代の魔王と比べても異様の一言に尽きる、生まれとしては人間だが種族としては違う、人間でも魔物でも無い存在、天命職は職業では無い、それぞれが単一の生物、その中でも勇魔の異様さと異常さは群を抜いている、魔物を改造し使徒を生み落とす。


始まりと終わりの天命職は命を操る、そして新たな命を誕生させる、勇魔ともう一つは何でしたっけ?この二人には興味が無い、この二匹にはまったく興味が無い、神の使徒は化け物だ、どれも成長したら魔王に並ぶような特殊な生命体、しかしそれだけだ。


「新たな発想がありません、それはつまらないですわ」


結果が見えている、魔王に並ぶ圧倒的な化け物、成長の具合によっては魔王をも凌ぐ化け物、現在の勇魔のように、しかし際限無く成長する化け物と結果が分かっていれば興味も失せる、どうせ勇魔のように人類を滅ぼそうとするのでしょう?興味がありません。


今は新たな魔王の誕生を予感して色々と手を尽くしている、魔物の支配率の書き換えが難点だ、勇魔の能力は強力無比だ、新たな魔王に仕えるべき魔物も支配率が書き変わらずに勇魔の下僕のままだ、勇者の能力であるカリスマ性も影響しているのか?


このままでは魔王が誕生しても魔物は勇魔の下僕のままだ、屈辱的な現実、高位の魔物は下位の魔物を使役する事が出来る、自分のように魔王の幹部ともなれば大体の魔物は使役出来る、しかしそれも勇魔の命令があれば話は別だ、そちらが優先されてしまう。


まずい、流石に新たな魔王が自分で生み出した同属性の魔物なら勇魔も簡単には支配出来ないだろう、しかしそれ以前の主を失った歴代魔王の魔物達は違う、そもそも魔王に魔物が従う仕組みがわからない、それは原理としてそこにあるだけで理由は説明できない。


遺伝子に刻まれた何かの因子によるものだと思うがソレを研究している暇は無い、だから外付けの装置を与える事で魔物を操る術を模索している、勇魔の支配率を書き変えるにはソレしか方法が無い、新たな主の誕生に備えて私(わたくし)は開発を続けるだけ。


「寄生型の魔物に術式を刻んで寄生した対象を操るアイデアは良かったのですが、これでは表面部分が柔らかい魔物しか寄生が出来ませんし」


良い素体に恵まれたものの一人での研究は限界がある、かつての弟子がいればさらに研究が捗るのだが仕方無い、魔力のパターン解析をして近くにいることはわかっている、あの子も人間にしては強欲だった、その研究目的は神の領域に踏み込みつつあった。


無理矢理従わせるのは嫌いだ、魔物を無理矢理従わせるのとは意味合いが違う、彼女は自分が認めた才能に溢れた若き錬金術師、近くに寄れば私の気配に気付いて立ち寄るだろうと屋敷に仕掛けをした、魔力を固定化して屋敷に引き寄せる特殊な仕掛けだ。


魔力を固定化する事で錬金術の要である等価交換を封じるのが目的だ、それを戻すにはこの私の許可がいる、長い時間を掛けたら解除も可能だが彼女なら手っ取り早くここに来るだろう、もしも断られても別に良い、愛弟子に一目会いたいのだ、ササ、私のササ。


「壊れた愛しい人間」


それは母性にも似た感情、私は久方ぶりの再会を予感して薄く微笑んだ。
















「内装は普通だな」


「内装までしっかり変人でいて欲しいですね」


建物の中は意外にも落ち着いたものだ、ササの姿を解除出来ない、他の姿にも変化出来ないし一部を呼び出す事も出来ない。


ササ曰く師匠の仕業らしい、独学で錬金術を極めたササだが一時期身を寄せていた人物がいるようだ、あの破天荒でマッドなササの師匠?


そいつが件の鉄のヘビの製造者か?グロリアに説明すると成程と頷く、ササの事は餌として与えた錬金術師として記憶しているようだ、ひでぇ。


「しかしこの姿は少し歩くと筋肉痛になるぜェ」


「研究職ですからね、仕方無いでしょう?」


ダンジョンとまでは言わないが少し荒んだ雰囲気の内装、魔物は出る気配は無い、そりゃ人間として生活しているんだもんな?ササの記憶を読み取ると疑わしい点が幾つもある。


ササ自身疑っていていたようだしな!人間の社会に適応した高位の魔物、それに気付いていながら身を寄せるササもササだ、しかし腹立たしいな、俺の一部なのに俺以外に頼った過去があるなんてな。


「ササは駄目だな、俺に頼らず魔物に頼るだなんて」


「あら、キョウさん、嫉妬ですか?」


妖精の力で気配を辿る、成程、上手にカモフラージュしているが疑わしい気配だ、ついこの間取り込んだ魔王軍の元幹部に似ている、あれは頭部だけだったけど実に深い味わいがあった、想像しただけで腹が鳴る。


も、もしかしてアレの完全体が食える?カニの足だけ食べてカニ味噌を食べていないような状態、それではあまりにも悲し過ぎる、俺はアレを完全な状態で食したいのだ、ごっくんしたいのだ、美しいササの容姿が崩れる。


溢れる涎が我慢出来ない、腹が卑しく鳴る、だけどそれを止める術を持たない、ぐぅぐぅぐぅ、大好きな女の子がいるのに腹が鳴るのを止められない、赤面しつつ笑う、それを見てグロリアは優しく甘い声で呟く。ああ。


「キョウさん?予想通り良いご飯ですね」


「そ、そうだぜ、んふふ、調子に乗ら無いでよねェ、キョウがお腹を空かせて可哀想でしょう?こんなササの姿で本当に可哀想」


「大人しく私のキョウさんでいて下さい」


「やぁだぁ、グロリアの事なんか嫌い、またエルフの要素の無い存在を与えてホントさいてぇ、どうせ部下に探らせてどのような存在がわかっているんでしょう?」


「キョウさん?」


「最低ェ、いつまでもキョウを自由に出来ると思わない事ねェ、封印が全て解けたらお前を殺すから、んふふ、そしてヒロインになるのは私ィ、お、お腹空いたぜ」


何だか意識が飛び飛びになる、お腹を空くと何時もコレだ。


そして何時もと同じようにグロリアが全肯定をする一言を与えてくれる。


「だったらご飯を食べましょうね、私のお手製ですから」


「う、うん、グロリアのお手製料理は大好きだぜ」


何でも好き嫌いで食べるからちゃんと見ててな?

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