第90話・『チェンジ!ササ!スイッチオン!」

グロリアが部下に連絡して調べた結果、街で暴れる魔物の数がここ半年で急激に増えたらしい、しかも低級の魔物では無くそこそこ高度な魔物ばかり。


あの鉄のヘビの目撃例は無い、氷漬けにされた事で仕方無く外に出たのか?あれが魔物を操る人工生命体として目的は何だろう?物を奪うわけでも無いしな。


冒険者ギルドでも依頼が出ているらしい、原因を探って解決せよ、実にシンプルで分かりやすい依頼だ、グロリアはそれを受けた、このまま無視をして次の魔王軍の元幹部を探すと思っていたのに何故?


「キョウさんのご飯になるかもです」


「成程」


魔物を操る術を手に入れたら勇魔に近付けるかも?一度だけ出会ったあいつ、その力で人類を震撼させている存在、エルフライダーの能力では魔物は操れない、しかしその術を持つ者がいるなら美味しく頂けば良い。


ぐるるるるるー、お腹が鳴る、魔王軍の元幹部は実に良い味だったが一つだけ不満はある、頭部だけだった、再生してやっているがアレでは腹は膨れない、空腹のままだ、全て再生したら長々と虐めてその後にもう一度食べよう。


俺の子供だ、俺の子宮で育つ魔王軍の元幹部、俺のモノだから俺が食べても問題はねぇよな?早く早く生まれて来い、産まれて来い、この世界に誕生しなさい、お前を最初に生み出した魔王もこんな気持ちだったのかな?でも今は俺の娘。


俺だけを愛するようにちゃんと改造してやっているからな、俺の子宮の居心地は最高だろう?ふふん、楽しみだ、楽しみだぜ、テンションが上がって足早になる……グロリアが近隣にいる錬金術師を調べた結果、一番可能性が高い所を選んだ。


「錬金術師の墓の氷?そいつが今回の黒幕か?」


「可能性が高いだけですよ、経歴だけ見れば人類の科学と魔術を向上させた偉大な錬金術師ですけどね」


「俺、錬金術師を前にボコボコにしたぞ、目も抉った!だから上手に戦えると思うぜ!」


「ふふ、血が滾っちゃって少しおかしくなっているキョウさん可愛い」


「お、おかしい?か、可愛い?」


俺は何時ものように振る舞っているのにおかしいと言われる、エルフライダーの能力の影響なのか?無自覚のまま言葉を受け入れる、受け入れても無自覚なままで自覚出来ない。


えっと、俺は俺だよな?私では無い、なのにおかしいと言われる、何だか頭が痛くなって来た、でも錬金術師を上手に殴れるのは確かだ、例え女の子でも殴る、ササの時もちゃんと殴れた。


ササは子供達を使って非道な実験を行っている悪い錬金術師、だから殴れた、今回の錬金術師は魔物達を操って街を襲わせている悪い錬金術師、だから殴れる、殺せる、それなのにグロリアはおかしいと言う。


「俺、おかしいのか?私じゃないぞ?グロリアが村から連れ出してくれたキョウだぞ?」


不安になる、私になって責められるのなら良い、納得出来る、しかし今の俺は俺だと自覚出来ている、グロリアとずっと旅をして来たキョウだ、それなのにそこも変貌してしまっているのか?


俺はちゃんと俺なのか?


「そうですよ、私が連れ出して私が私の為に変えてしまった可愛い男の子です、安心して下さい」


「グロリア」


「キョウさんが何者に成り果てても責任は私にあります、不服ですか?」


青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる美しい瞳が優しく細められる、俺の片目と同じ美しいソレを見て安堵する、大丈夫だ、俺がどんなに変化してもグロリアは黙って受け入れてくれる。


だったら化け物に成り果てようと人格が崩壊しようと関係無い、この気持ちって恋なのかな?それよりも危ういモノのように思えるがきっと気のせいだろう、比較するべき想いが無いから自分自身でも判断出来ない。


ああ、あの地味だけど美しい少女に抱いた想いと比較すれば良いのか?似通っているな、まったく同じと言っても良い、やっぱり浮気心なのか?悩めば悩むほどに答えが遠ざかってしまう、気持ちを切り替えて周囲を見回す。


塩湖(えんこ)と呼ばれる塩水で構成された特殊な湖、塩水湖(えんすいこ)とも呼ばれ一般的な淡水湖と対になっている、そんな巨大な塩湖の中心にある島に件の錬金術師は屋敷を構えているらしい、この塩湖を研究しているのか?


「しかしルークレットの情報網を使えばすぐに場所が割れるのな」


「裏技ですけどねェ、この世界に住む人間の多くはルークレットに監視され管理されています」


それだけの人員と費用は何処から出るのだろうか?まさかと言いたいが現実としてこうやって場所を特定している、空の上から監視しているわけでも無いだろうし本当に不思議だ、旅に出て一番驚いたのはルークレットの情報網だ。


何か事件に巻き込まれる度にその情報網に助けられて来た、もしこれが敵に回るとしたらと考えただけで恐ろしいぜ、陸に閉ざされた湖、そらにその湖に閉ざされた島、普通の人間なら立ち入ら無いような特殊な環境、錬金術師って変わり者ばかりだな。


「俺も可愛い女の子を監視して管理したい」


「だったら今のままで良いじゃないですか」


「ん?」


「キョウさんは可愛いですから、自分で自分をちゃんと管理して下さいね?」


「俺は男だぜ!」


「そうですね、頑張って男の子を維持しましょう」


「維持するって何だぜ!?」


「私より胸を大きくしないとココで誓いなさい」


「グロリアのせいで大きくなったんだぜ!だったら暫く触るの禁止」


「そんな選択肢は最初から無いんですよキョウさん?」


そんな選択肢しか無いのかグロリア、しかし塩湖かァ、濃度によっては生物も生息出来るようだし気になるぜ、ササや祟木や影不意ちゃんの知識を探る、しかし本当にこの三人は便利だな、感謝。


1Lの湖水の塩類の総イオン濃度を確認して 3,000mgが塩湖と認められる基準になっている、最も塩類の中でも塩化ナトリウムが主成分であるものは大体は塩湖と位置付けられるしそこは何故か曖昧だ。


調子に乗って説明しようとしたらグロリアがより詳しく塩湖について丁寧に教えてくれる、戦闘だけでは無く知識でも俺の一部に負けないグロリア、成長すればする程にその差を感じてしまう、心底恐ろしい女だぜ、まったく。


「この建物がそうか?」


「ええ、この中に錬金術師の墓の氷がいるようです」


目の前には捩じれた建物が聳え立っている、捩じれている、銀色の光沢は何の素材だろうか?建物の外壁の曲面が独特だ、無規則性が意図されているようで見ているだけで不安になる、異様な建物から異様な雰囲気が漂っている。


建物の表面部分の曲面、その無規則性が太陽の光を収束するように設計しているのか?近付くと素材がわかる、ガラスとチタニウムと石灰岩、表面の湾曲が不安定であるのと違って素材がそれぞれの箇所に集約されている。


チタニウムの外套は魚の鱗のように輝いている、入り口は何処だろうか?その瞬間、体に違和感、変貌する、変容する、変化する。


「あ、え、あ」


「キョウさん?姿が――――」


「だぁい、じょうぶぅ」


チタニウムの外套に映し出される自分の姿、丸みを帯びた大きな瞳は様々な魔眼を溶かして一つにしたもので黒目の部分は円状に虹色の色彩になっている、カラフルな色彩と異様な興味心を含んだ瞳は他人から見るとかなり不気味らしい。


研究に明け暮れていたせいか肌の色は白色、研究で若さを保っているのでマシュマロのような柔らかな肌だ、小さな鼻と色素の薄い唇は人形のようで生命をあまり感じさせない、急激な肉体の変化で軽く吐瀉する、オイオイ、グロリアが支えてくれる。


髪の色は若芽色(わかめいろ)で植物の新芽を連想させる初々しくも鮮やかな色をしている、それをお団子にしてシニヨンヘアーに!研究に邪魔にならない程度のお洒落だったかな?俺の下僕に成り下がったんだからもう悩まなくて良いぜ?


服装は作業着を兼ねたショートオールに白衣、あちこちに血液が付着しているのはかつての罪の証、再生される服も完璧だ、ショートオールなので膝小僧も出ていて動きやすいぜ、大きめのスリッパとブカブカの白衣を着ている姿はまんま子供だ、10歳ぐらいの見た目。


「マジかよォ、強制的にササになっちまった」


声もササの声、ササ自身も混乱しているのか俺の中で騒いでいる。


ここの錬金術師と知り合いのようだし何か仕掛けられたか?グロリアは不思議そうに俺を見詰めている。


「ああ、これは俺の中にいる錬金術師の姿だぜ?」


「ちゃんと食べていたんですね?ふふ、計画通りです、しかしその姿では楽しくないですね」


胸を見て呟くグロリア、俺のササが穢される!ええい、仕方ねぇ!


「も、元の姿に戻ったら今晩どお?」


赤面しつつ呟く、こ、これじゃあ尻軽じゃん、畜生!


「やったー!」


両手を上げて喜ぶグロリアを横目に安堵する、ササ、お前のチッパイは俺が死守したぜ。


俺のチッパイからオッパイになろうとしている部分を捧げる事でな!


これも錬金術の等価交換だろ?

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