第87話・『アサシンはへその緒で人を殺す、エコな武器でしょう?手頃だよ』

深夜に目を覚ます、そしてベッドの上を転げ回った、まさか俺をお姫様抱っこして街まで戻るとは!


グロリアの奴め、憎々しく思いながらも感謝する、あーんあーんと泣き続ける俺をあやしながら街まで戻るその体力、やっぱりすげぇ女だわ。


皮肉を言う事で何とか自尊心を崩壊させ無いで済む、でも本当に心の底から感謝している、あれは自分自身ではコントロール出来ない類の衝動だ。


鏡に映った自分の顔を見て酷い顔だなと苦笑する、目尻が腫れていて頬も手で擦ったせいで赤くなっている、この白い肌は繊細で柔らかい、すぐに痕が出来る。


部屋を抜け出す、グロリアは俺を抱えるように眠っていた、すーすーと穏やかな寝息、起こさないように慎重になる……流石にあの距離を人一人抱えて歩くのは大変だっただろう。


魔物もまだまだ残っていたはずだしな、俺をお姫様抱っこしたまま無双していたのか?微かにだが覚えている、俺には心底優しかったけどあの時のグロリアは何かに苛立っていた。


「俺に対してじゃねぇよな」


記憶が曖昧なので何とも言えない、外に出ると満点の星空が広がっている、元魔王軍の幹部である此処野花の再生はどうだろうか?こいつを回復させない事には勇魔の情報が読み取れない。


体の底に沈んだそいつをズブズブと浮上させる、死臭、腐りかけの肉が再生を始めている、新陳代謝が活性化して死肉が生肉へと変わりつつある、まだ死んでるな、腹に浮き出た死人の顔を優しく撫でる。


情報から服も再生する、人間型の魔物の多くは服も自分の魔力で生み出している、仕組みが理解出来れば再生も可能だ、まだ瞼を閉じている、こいつが仕えたかつての魔王も仕方無く仕えた勇魔も仕えようとした新たな魔王も関係ねぇ。


こいつの主は今日から俺になった、しかし過去の遍歴がビッチだわ、色んな奴に仕えたり仕えようとしやがってよ、お前には俺だけいれば良いんだよォ、俺だけを見てれば良いんだよォ、嫉妬する、このクソガキめ、だから改造する。


俺だけに仕えて俺だけに奉仕する存在に変貌させる、ササの歪んだ信仰とクロリアの母性を組み合わせて脳味噌に流し込む、死んでくれたせいで頭が空っぽになったからな、浸透しやすい、沁み込みやすい、フフ、だらしねぇスポンジ。


「ほら、ほらほらほらほら」


「あ、ぎ、あ」


「ふふ、操って声を出せたぞ、ふふ、こいつは愉快だ、実に愉快だ、可愛い声だ……ほら、愛してるって言ってみろ」


「あ、あじ、じてる」


欠損した存在が必死に愛を囁く、血涙を流しながら少女は俺への愛を囁く、単純に操ってるだけだけど楽しいわ、こいつの意思で言わせるにはまだまだ時間が必要かな?高位な魔物だけあって再生にはかなりの時間を有する、個体情報を読み込む。


か、勝てなかったぜェ、クロリアと炎水を融合させた肉体で無色器官を展開させたらギリギリいけるか?スペックがヤバ過ぎる、本気になれば大陸の地形を変える事も可能なようだ、雷属性えげつねぇわ、かつての魔王の懐刀、今は俺の死体人形。


こいつを問答無用で屠った彼女はだったら何者なのだろうか?その恐ろしい実力から勇魔とか勇者とか魔王とかの関係者?うーん、わからねぇな、しかしあの人が助けてくれなかったら死んでいたのは俺だったかもな、苦笑する、ンフフ、俺を殺せる餌かよ。


餌を餌として認識してしまえば自分より実力が上だろうが餌に過ぎない、脇腹から此処野花を外に出す、ぐちゃあ、びしゃあ、粘液を撒き散らして地面に横たわる死体を足蹴にする、再生させている時はこんな感じなのか、自分の肉体の仕組みを知りてぇ。


「あはぁ、赤ちゃんだ、血塗れの赤で赤ちゃん」


体を丸めるようにして眠る死体は既に死体では無い、生意気にも呼吸をしている、新たな生の誕生を祝福しつつもう一度蹴る、反応が無い、違和感に首を傾げる、衝動がそのまま体に伝わるような大きなな違和感、闇夜ではちゃんと観察出来ない。


臍帯?へその尾が此処野花の腹から伸びている、三度目の蹴り上げ、服を捲し上げる、そこから伸びた尾は俺のあそこに続いている、ああ、こうなっているのか……こうなってしまっているのかオイ、具現化させねぇとわからねぇわな、コレ、母性は無いぜ!


「俺のモノになるから俺の赤ちゃんか」


「――――――」


胎児と胎盤を繋ぐ白い管状の特殊な組織、フフ、俺から栄養と感情と愛情と信仰を延々と与えられているのか、死体に抵抗は出来なかったよなァ、ここまで仕上がってしまえばこいつは俺のものだ、過去の魔王と今の魔王から寝取ってやったぞ……いや、こいつは最初から俺?


始まる、記憶の改善に緊張する、だけど、うん、俺だぜ、おかしい事は無い………赤ちゃんって事は俺の細胞から誕生した俺の子供だ、俺の娘、フフ、目を覚ませ、お父さんが可愛がってやるぞォ、色んな事を教えてあげる、お父さんの為に他の生物を殺す方法とかなァ。


胎児は胎盤を通して母親から栄養分や酸素を受給する、そして自分に不必要な老廃物は母体に処理して貰う、そんな胎児と胎盤を繋げているのが臍帯だ、俺はこいつに流し込む、父親として母親として俺だけの生命体に作り替える、細胞を流し込むと弓なりに体が跳ねる。


「あ、ぎ、ががが、ぐえええええええええ」


「あんなに大人びて余裕ぶっていたのに一皮剥がせばこんなもんか、こんなもんで良いんだよ、俺はこんなもんが大好きだ、低俗で」


「ぎが、あい、じて」


「まだ命令を聞いてるのかよ、愛してるって、うるせぇな」


臍帯には二つの臍帯動脈と一つの臍帯静脈がある、循環する血と栄養と呪怨が誇り高い魔物を下卑た存在へと作り替えている、あはぁ、スライム以下の脳味噌でも良いんだけどなァ、俺に対する忠誠心は一途なものにしよう、ここまで事が上手く運ぶのもあの人のお陰だ。


地味だけど美しい少女、あああ、何てお名前なんだろうか?こいつのスポンジ脳味噌の味を伝えて仲良くなりたいです、そうだ!こいつに俺があの人に向ける感情を与えてやろう、俺があの人に向けている感情をこいつが俺に向けるようにしよう、そうしたらこの感情の意味がわかるかも?


頭良いな俺!ササや祟木の助けが無くても出来るんだぜ、ちゃんと出来るんだぜ!流そう、オラ、ありがたく受け取れ。


「ほれ」


「あ」


「どうだろ?ワクワクすんなぁ、俺はあの人に何て感じてるんだろ?ホレ、早く見せろ」


「すき」


「お」


「好き、大好き、愛してる、愛してる、愛してる、ああああああああああああああああああああ、愛してます、捨て無いで、捨て無い、ああああああああああああ、貴方の為ならぁああああああ、何でも、あ」


「ほう」


俺はあの人が好きで大好きで愛してるのか、脈動する此処野花がウザい、へその緒がぷらーんぷらーん、あそこが疼いて衝動でパンツが濡れる、でも良いや、自分の心が理解出来て助かる。


あ、その感情はそのままお前に埋め込むからな、お前のスポンジ頭に埋め込むからなあ、俺があの人に向けている感情を埋め込まれたお前が復活してどのように振る舞うのか見物だぜ、くくっ、あはは、おもしれぇわな。


魔王軍の元幹部から愛情を叫ぶ赤子に化した存在を見下す、見下しながら見下ろすのだ、トップスの内首の根元の部分に帽子となるフードが付随している、北の民族が好んで着る服だ、動物の毛皮で作るソレはパルカと呼ばれ他の地域では高値で買い取りをされている。


そんな可愛らしい服も血塗れにして泥塗れにして泣き叫んでいる、この姿を生みの親である魔王かかつての同僚に見せてやりてぇわ、その幼い体にしては大きめのパルカ、ブカブカで持て余している感が半端無い、あまりに大きいソレのせいで下半身も隠れてしまっている。


畳の材料にもなるイグサを編んだ畳表草履は故郷で見慣れたモノ、それが暴れるせいで脱ぎ捨てられてしまう、手にして匂いを嗅ぐ、くんくんくん、女の足の匂いって感じ、魔物も人間も大して変わらねぇぜ、苦笑する、血涙を流しながら俺への愛情を叫ぶ。


「俺はあの人にこんな感情を抱いているのか、フフ、客観視できる便利な道具だ」


「あいしてる、愛してますからぁぁああああああああ、捨て無いで、見て、私を見てェェ、見てて、もっと喜んで貰えるようにぃいいいいいいいいいい、いい子になるからぁああああああ」


「いい子に?そうかそうか、俺はあの人にそう見られたいのか」


「ぎひぃ」


「それは意味の無い言葉だな、言うな、うざってぇ」


葵の花のように灰色が混じった明るい紫色の瞳が俺を見詰めている…………………葵色(あおいいろ)の瞳を見ているともっと虐めたくなる、だけど今日はここまで。


「さあ、お母さんの子宮に戻ろうね」


「いやぁああああああああああああああああああ、もっとお話するぅぅ」


逃げようとする此処野花をへその緒を引っ張って無理矢理引き寄せる、涙と鼻水で塗れた表情は実に素晴らしい、だけどもうお散歩の時間は終わり。


俺の肉体に沈めてゆく、抵抗しても触れたか所から体内に取り込まれる、ふふん、あまりに抵抗が激しいのでへその緒で首を絞め上げる、臍帯巻絡、これで死ね。


そして新しくまた生んで上げる、産声聞かせて、さあ。


「くふふ、お母さんを愛してね」


「あい、して、るよぉ」


俺の感情で狂い咲けよ?


此処野花(ここのか)ァ。

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