閑話87・『揉めば揉むほどに成長する仕様』
胸がチクチクする。
お言葉の意味が理解出来ずに首を傾げた、お風呂に入るから体を洗って、軽い感じで口にされたその言葉が脳内に何度も響き渡った。
ハレルヤ、恐ろしい量の鼻血が噴水のように垂れ流し状態に突入、キョウ様は呆れつつ首をトントンしてくれた、フガフガ、これではお風呂に入る事が出来ない。
仕方が無いのでキョウ様が妖精と錬金術師との力を融合させて無限回復状態にしてくれた、長期間は無理だが短期間なら持続する事が可能らしい……私はキョウ様によって一時的に鼻血を克服した。
「うおー、広いなァ」
「そ、そうですねェ」
「炎水のいたアラハンドラ・ラクタルにもこんな温泉無かったろー、外の世界は色々あるんだぞォ」
「そ、そのようですね」
「………何だか声に生気が無いぞ?大丈夫か?」
「ふとも」
「ふとも?取り敢えず体を洗おうぜー、温泉は久しぶりだぜー、楽しみー」
太腿ッッ、保護者としての尊厳を守る為にその一言を無理矢理飲み込む、ダメだ、全裸のキョウ様が眩し過ぎて失明してしまいそうだ、母親として子供をお風呂に入れるのは当然、しかしここに来てキョウ様の美貌が私を魅了する。
鼻血に関しては隠しようが無かった、しかしキョウ様のお心遣いで何とかなった、後はキョウ様の太腿を自然と追ってしまうこの両目が無ければ良い、あ、あれですかね?両目に指を突き刺して失明しますか?そ、それはもうキャラ被りですッ。
温泉と言っても造成温泉(ぞうせいおんせん)の一種だ、地熱や蒸気を利用する事で人工的に作られた温泉、キョウ様があまりに無邪気に喜んでいるのでその言葉を何とか飲み込む、遠くから背中を流してーと元気な声がします、フフフ、視界が涙で滲む。
「こ、このまま死にたいです」
「どうでも良いから背中擦ってくれよ」
「御意」
問答無用で願いが却下される、キョウ様の背中は白くて小さい、タオルで軽く擦って差し上げる、かつての部下たちが見たら卒倒しそうな光景だ、組織のトップである私が誰かに奉仕をする、しかし本来ならこれが私の役割だったはず。
本当ならもっと早くにこのようにお仕えしたかった、運命は思うようにならない、だけど今の幸せは素直に感受出来る、しかし本当に白い肌だ、血管が透ける程に白い肌はガラス細工のように繊細だ、シスターの中でも飛び抜けている。
かつての友であるクロリアの細胞の汚染が完全に広がっている、男性らしい所を探してみるが皆無だ、キョウ様がご自分を男として認識されているが現実はあまりに無慈悲、それを素直にお伝えすると精神の崩壊が始まってしまう。
シスター・グロリアは仕事で別の場所に行っている、私がキョウ様をお護りするのだ、あの女は大嫌いだがある一点だけは信用している、キョウ様を護る事に関する一点のみ、それ以外は全てが生理的にいけ好かない、憎んでいる。
私の可愛いキョウ様と笑い転げていたあの姿が嫉妬心を醜く肥大化させる。
「アラハンドラ・ラクタル、炎水がいなくなったけど大丈夫かな?」
「あ、ええ、新しい管理職のシスターが生成されるはずですよ?脇の下、失礼します」
「ふーん、炎水は寂しく無いのか?自分の代わりが簡単に生成されて」
「さ、寂しいですか?そんな事を考えた事も無いですね………本来の役割はこうしてキョウ様にお仕えする事ですから、アラハンドラ・ラクタルでの仕事は……」
「そうか、だったら今は幸せなんだ」
「はい、幸せです」
「はは、そこは即答するのな」
朗らかに笑うキョウ様、髪を洗って差し上げる、金糸と銀糸に塗れた美しい髪……しかし中々の癖ッ毛ですね、野生の猫を彷彿とさせるソレを優しく指先で洗って差し上げるのは至福の時間だ。
幼い年齢で固定化された私と違って年齢に見合った17歳の瑞々しい肌、これからどのように成長されるのか、それを考えるだけで胸のトキメキが止まらない、鼻血が噴出する感覚、しかし出ない。
ありがとうキョウ様。
「さっきも言ったんだけどよォ、胸がチクチクするぜ、病気じゃねぇよな?」
「え、あ、どうでしょう、シスターは病気にならないはずですが」
「見てくれ、どぉよ」
「――――――――――――――――」
言わないようにしていた、私なりに最大限気を使っていた――――しかしこの現実は認めないといけない。
シスター・グロリア、貴方が現実を直視出来ずに理由をつけて仕事に出掛けたように、私もそんな風に逃げてしまいたい。
せ、成長なされている、胸ェ、貴方が揉んだせいでっ!真っ白い肌にピンク色の乳首、色素が極端に薄い、そしてシスター・グロリアより成長したお胸。
「何かチクチクする、なあ、病気?」
「だ、第二次性徴期がまだ続いてるのだと」
「ふぅん、じゃあグロリアもまだ成長するかもだな!」
キョウ様のお胸が自分のものより成長した現実を直視出来ずに朝一番にシスターの仕事に出掛けたシスター・グロリアにその見込みは無いと思います。
下唇を噛み締めながら蒼褪めた顔で『わ、私が育ててしまったのですか、神よッ』と嘆いてましたし、神も随分と安い存在になったものです、溜息を吐き出しながらはっきりと申し上げる。
「いいえ、それは無いです」
「え……グロリアはもう」
「天井です」
そして今は現実逃避中です。
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