閑話83・『この乳首を言い値で買おう』
知らない街での買い出しは旅の楽しみの一つだ、その土地でしか買えない物も多いし材料を見て献立を組み立てるのも楽しい。
シスター二人が歩いていると皆が気を使う、俺はそれが嫌なのだけどグロリアは当たり前つー表情で街を闊歩する、他人に崇められる事に慣れている。
俺はその背中に隠れて申し訳無さそうに歩く、目抜き通りは予想外の活気で盛り上がっている、近々に祭りもあるらしい、俺とグロリアは左右に分かれる人混みの中央を歩く。
そんなにシスターって畏れ多いか?
「グロリアぁ、熱気が凄いなココ」
「そうですねェ、シスター様様ですね」
「グロリアは使える権力や威光は惜しみなく使うよな」
「当たり前です」
ここら辺一帯は元々は闇市があったらしい、その闇市の名残だろうか入り組んだ細い路地の中に小さな商店が幾つも混沌と立ち並んでいる、人々の顔は活気に溢れていて何だか申し訳無いような気持ちになる。
今日はクエストも無く宿でダラダラした後の買い出しだからな、俺は宿の外で鍛錬してたけどグロリアはずーっと寝ていた、なのにあれだけ強いって卑怯じゃね??いつかグロリアを護れる男になりたいのに先は遠そうだ。
牛の心臓(ハツ)を手早く処理している店の前で足を止める、ある程度のサイズに切り分けたハツを牛乳に漬け込んでいる………その横には大量の香辛料が混ぜ込まれた容器、牛乳で臭みを消した後に香辛料に漬け込むのか?
俺が立ち止まっているとグロリアが足早になって近付いて来る、何だか親鳥から逸れた雛を連想させる、いやいや、どちらかと言えばグロリアが親鳥だろう?最近の俺は少しおかしい、俺の肩に顎を当ててグロリアが覆い被さって来る。
「どうしました?」
「コレ、買おうぜ」
「良いですよ」
周囲のどよめきも気にならない、シスターが砕けた感じでイチャイチャしているのだから当たり前だ、昔はグロリアも人前では気を使っていたようだが最近ではこの有様だ、本当なら率先して俺を指導しないと駄目なポジションなのになぁ。
保護者では無く同世代の恋人、串にハツを刺して炭火で焼いている、その先端にはジャガイモとトウモロコシの一種であるチョクロを輪切りにして刺している、値段は同じで自由に選んで良いらしい、サービス精神溢れる店だな。
ここら辺の地域では食事に唐辛子は欠かせないらしい、生のまま齧って酒を飲んでいるオッサン達が楽しそうに仕事の愚痴を吐き出している、仕事終わりに生の唐辛子で一杯とは恐れ入る、もしかして俺が普段食べていた品種と違うのかな?
唐辛子の栄養価は高い、ビタミンが豊富で発汗作用もある事から暑い地域で好まれる、除虫の効果も絶大で農家にとってはありがたい存在だ、他の作物と一緒に植えて虫害を減らす理由で栽培したりする、食糧の保存にも使えるので用途は様々だ。
しかしサルモネラ菌や大腸菌を含めた食中毒の原因菌を殺菌する効果は無い、なので酢漬けにしてその弱点を補ったりする……………祟木を含めインテリ組の知識は役立つぜ、そんな俺を横目にグロリアは串焼きを二十本頼む、ん?
「多くね?いや、多いよな、太るぜ?」
「一度太るのが夢なんですよ私、晩酌用でもありますからそんなに怖い顔しないで下さい」
太るのが夢って世界中の女性を敵に回したな、神に創造された完璧な美貌は人間の常識では縛れない、グロリアみたいに不摂生なシスターに出会った事が無いからわかんねぇけどシスターってみんなこんな体質なのか?手頃な所だと自分の体で試しても良い。
だけど太るのはやっぱりなぁ、そして唐辛子も畑で育てていたので愛着がある、俺の家で栽培していたのは薬用種で湿布に配合する為のモノだ、筋肉痛や凍傷に使われるもので意外な所では養毛にも使われる、昔を懐かしみながら遠くまで来たなと実感する。
今でも俺の畑ってあるのだろうか?
「はい、歩きながら食べるでしょう?」
串を渡される、オッチャンに何て料理だと聞くとアンティクーチョだと答える、まったく聞いた事の無い料理だ、基本的に牛のハツを辛いソースで食べるのものらしい、青唐辛子を使ったモノやパセリのソースを使ったモノもあるらしい、簡単に言えばハツを串焼きにした料理か。
グロリアは俺が何かを言う前に既に二本食べ終えている、晩酌用にちゃんと残しておけよ?歩きながら俺も一口食べる、刺激的な香辛料の辛みとハツ特有の淡泊さが良い、美味い、中心が少し生っぽいのも触感が楽しい、刺している櫛が竹で出来ているので余熱で完全に中まで火が入る仕組みか。
シスター二人が買い食いしている様子を街の人間が不思議そうに見ている、前代未聞、だけど俺達は毎度の事なので平然として歩く、中には勇気を振り絞って自分の店の商品を勧める店主もいる、グロリアは笑顔で対応して購入する、食い物ばっかり!
「もぐもぐもぐもぐもぐ」
「おーい、良いカモにされてるぜ?シスターってだけでお金があると思われてるんだから」
「お金は腐る程ありますよ、あっ、クエストの報酬は全てキョウさんの貯金に回しているので安心して下さい」
「そ、そうか」
お金も美貌も頭脳も望むがままかよ、買い込んだ分だけ荷物が多くなると思いきやそれを凌ぐスピードで食べているので一向に荷物が増えない、お金をそこら辺にばら撒いて捨てているイメージ。
グロリアは決して無駄遣いをする女性では無い、節約するべき所では節約する……しかし食事に関しては仕方無い、この細い体の何処にこれだけの食料が消えてゆくのだろうか?疑うように見詰めてしまう。
炎水はそんなに食べないしな、クロリアはグロリアと同じように大食い、やっぱりこの細胞に問題があるのか?自分の掌を見詰めて唖然とする、もしも俺まで大食い細胞に汚染されたら見るも無残な状況に陥ってしまう。
こわっ。
「あ」
そんな下らない事を考えていると食べかけのアンティクーチョを一欠片落としてしまう、胸の所にソースのシミがべっちょり、狼狽える、最近では家から持って来た農民服を着る機会は少ない。
グロリアの修道服を貰ってからはそれを着ている、胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服は一切の穢れの無い純白、つまりは汚れが目立つ、ど、どうしようか?そんな俺の手をグロリアが強引に引っ張る。
見られてた、こんな事で怒るとは思わないが小言の一つぐらい言われそう、だけどどうして路地裏の方に移動するのだろうか?申し訳無さで何も言えない、されるがまま路地裏に連れ込まれる、わはは、しかしどうして路地裏?
鮮やかな手付きで服を脱がされてサラシが奪われる、ん?
「はむ」
「…………あの、グロリアさん?」
「?」
どうして俺は服を脱がされた挙句に胸を舐められているのだろう、そして揉まれているのだろう、それが理解出来ないのは俺が馬鹿なのかグロリアが頭が良過ぎるのかそのどちらかだろう、汗ばんた胸、その表面が少し泡立っている。
グロリアの細い指が外側から寄せるように揉む度に自然と声が出る、何だか恥ずかしいので口元を手で押さえる、そんな俺の努力を打ち砕くようにグロリアの舌が蠢く、桃色の乳首と桃色の舌が触れ合って境目を失う、唾液が広がる感触に呼吸が乱れる。
「こ、これはどんな状況なのかな?」
「ああ、キョウさんのオッパイにソースが……刺激的なソースだったので大丈夫かなと」
「お、オッパイって言わないで」
それ以上の刺激を現在進行形で与えられているのは何故だろう?理由にもならない理由を呟きながらグロリアの舌が抉るように乳首を虐める、俺の好きな動き、宿に帰ってからと口にしても言う事を聞いてくれない。
スイッチが入ったグロリアは自分が満足するまで甘え尽くす、銀色の髪が手で梳きながらなるようになれと溜息、青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる美しい瞳が欲情で潤んでいる、子供なのか大人なのかはっきりしろ。
「は、早く済ませなさい」
口調がおかしな事に、子供に対して注意するように。
「ふぁい」
グロリアの返事は聞いた事の無い様な間抜けなもので俺は少し笑ってしまった。
乳首が痛い。
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