閑話81・『処女はいない、思考回路は女も童貞の世界』

炎水、もしかしたらグロリアでは無くこいつと旅をしていたのかもな。


気紛れに体を与えてやった、話していない事もあるし、話さなくては駄目な事もある。


グロリアがいると色々と面倒なので自分の部屋で話すとするか、具現化した炎水は居心地が悪そうだ。


「キョウ様、お、お久しぶりです」


「ああ」


一つの施設を統べていたとは思えない態度、真っ白な肌に朱が差し込みそそられる、狭い部屋だが自由にしてくれと口にしても直立不動の体勢のまま動かない。


グロリアの前ではアレだけ生意気なのに可愛いものだ、緊張しているのか小刻みにカタカタ震えている、別に意地悪をしているつもりでは無いが自分からは話し掛けない。


無言のまま炎水を観察する、死すらも否定して俺の一部にした特別な存在、裏切る事は無いが些か俺に思い入れが在り過ぎる、勝手な行動をしそうで信用出来ない、俺の為に勝手な行動か。


「炎水ィ」


「え、あ、はい……あ!」


壊れかけの玩具のように憐憫を誘う、仕えるはずだった主、自分が育てるべきだった息子、敬愛と母性、複雑に入り混じった感情が炎水を棒立ちにさせている、少し撫でてやれば嬉ションでも漏らしそうな勢いだ。


ササに近いかな?歪に成長させよう、こいつはまだまだ伸びる、キクタに対抗する一部になるのであれば歓迎するぜ、シスターの血肉を持っているのだ、クロリアやグロリアのような超越者に化ける可能性もある。


一般的なシスターよりやや垂れ目がちで目尻が優しいのが特徴の炎水、最初は管理者として訪問者に圧力を与えない為の容姿だと思ったが俺の母親として調整されたのなら柔らかい容姿も納得だ。


「何かお話しようぜ、そんなに緊張しないでさ」


硬直している炎水とは違って俺はだらしなくベッドに寝転ぶ、足を遊ばせながら微笑むと咄嗟に炎水が視線を逸らす、魅惑の太腿にやられたのか?初心な反応に口元がニヤける、一つの施設を統べていても何も知らねぇんだな。


全てのシスターのトップに立つ一人、胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服はグロリアや他のシスターの物と同じ、しかし生地の色は黒羽色、普通の黒色よりも光沢があり艶のある色合いで見ただけで高級なモノだと理解出来る。


その高級色を見事に着こなしている、ドジッ娘なのに生意気だぜ。


「俺の中はどうだ?他の一部とはどんな感じだ?」


「き、キョウ様、し、下着が見えています」


グロリアと同じ修道服を着込んだ俺、つまりは炎水の服とは色違いのソレ、足を遊ばせると下着が見えてしまう、パタパタと水の上を泳ぐように足を動かすと炎水の顔がより赤く染まる、秋だねェ、紅葉に見立てて心の中で苦笑する。


本人は気付いていないだろうが少し鼻血が出ている、ほぼ同じ姿でほぼ同性の俺に興奮するとは百合の方か?いやいや、俺は男だ、女である事は私に任せて置けば良い、何故か俺の方が動揺してしまう、ここまで初心な反応をされると対応し辛い。


俺の太腿を凝視している、何かを思い出すな、俺の胸を熱心に揉んでいたグロリアを思い出す、頭が沸騰しそうになるので一瞬で切り替える、アレはアレだ、私の干渉が酷すぎたので煮え湯を飲ませるつもりで頑張ったのだ、グロリアが夢中になる事を除けば!


俯いて崩れる表情を立て直す、笑っているのか怒っているのか自分自身でもわからない、は、恥じらっている?乙女のような思考回路、恋をしているのだから当然と言えば当然だがこの考えは女性寄りのモノだろう、私が封印されていてもそこは変わらねぇな。


二人は一人で表裏一体なのだから、封印した所で影響下から逃れられるわけでは無い。


「見せてるんだぜ」


「んなぁ」


ツー、見事な鼻血だ、ワナワナと震えながら赤面している炎水、フフフ、お前の息子は娘っぽくなってさらにビッチに育っていたのだ、小さい頃から教育しなかったお前が悪い、つまりは俺は悪く無い。


深藍(ふかあい)の髪が小刻みに震える、藍染(あいぞめ)で黒色に近い程に濃く染める事でその色合いが完成されるのだが炎水のソレは勿論天然だ……地味な色合いだがとても美しい、何度見ても飽きる事は無いぜ。


手招きすると夢遊病者のようにベッドに寄って来る、濃く深く暗い青色のソレをベールを外してゆっくりと梳くように撫でてやる、恍惚とした表情、涎やら鼻血やら色々と忙しい、そして視線は俺の太腿を捉えて外さないぜ。


この世界はアレか、処女がいなくて童貞ばかりなのか、女も童貞なのか、頭痛くなって来た。


やりたい盛りか。


「き、キョウ様ぁ、修道服ではそんなに動くと下着が……ふ、太腿も」


「エロいか?」


「―――――――」


無言なのか失神したのか判断し難いな、ササは瞳の無い空洞から血涙を垂れ流し炎水は小さな鼻から鼻血を垂れ流す、その血も俺の血だって事を忘れるなよ?こ、今夜はレバーを食べるとするか、苦肉の策だ。


微動だにしない炎水を撫でながら溜息を吐き出す、シスターの正体がわかった……普段は冷静で完璧なシスター達だが中身は思春期のガキだ、処女では無く童貞、鼻血を垂れ流して気絶している炎水を見下ろしながら納得する。


そうだ、今度はグロリアを魅惑の太腿で魅了してみよう、あの冷静な面が崩壊する様をもう一度みてぇ。


「炎水、まだ意識はあるか」


「ふ、太腿が……教育係として」


「教育係として?」


失神しそうになる意識を無理矢理繋げて炎水は朦朧としながら呟く、体から血を失いすぎているのか顔面蒼白状態、ベッドの上に血のシミが広がってゆく、グロリアに見つかる前に処理しねぇとな、赤飯を炊かれる可能性があるからなっ!


炎水の口元に耳を寄せる、何を呟いている。


「教育係として、教育係として、教育係として」


「?」


「キョウ様のストッキングかガーターベルトに生まれ変わりたい」


シスターは処女でも童貞でも無い。


変態だ。

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