閑話80・『修行してやるが性欲は隠さん・前編』

冒険者ギルドの支部に足を運ぶのは久しぶりだ、面倒な手続きはグロリアに任せているし、宿で寝ていた方が効率的だ。


建物全体を囲む柱廊が印象的だ、多くの冒険者が仲間と陽気に会話をしながら歩いている、入り口から中に入るとヴォールト式の天井が視界に入る。


この建物の中で一日でどれだけのクエストが受理されているのだろうか?立ち寄ったのは単なる暇潰しに過ぎない、グロリアがシスターとして仕事をしている時は暇で暇で仕方無い。


依存し過ぎかな?胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服は一切の穢れの無い純白、俺が着ている服と容姿を確認すると冒険者たちが口笛を吹く、シスターがそんなに珍しいか?


「えーっと、こっちが戦闘訓練部屋か、遊んでくれる人いねぇかなぁ、んふふ、遊びたぁい」


女寄りのキョウが顔を覗かせる、俺もこいつも不満が溜まっている、ここ数日間、グロリアが仕事に追われてて遊んでくれない、抱き着いて強請ってみたが無視された。


頭を擦り付けるとゲンコツ、太腿を揉めばそのまま関節技に持ち込まれる、過度なスキンシップだと自覚しているが寂しい、ベッドに忍び込んだら無言で口と鼻に手を当てられた、恐ろしい女ですよ。


冒険者の戦闘訓練部屋に到着、何だか懐かしい、チラホラと数名が訓練している、実戦に近い形で戦っているのだろうけど動きが遅過ぎるし無駄な動作が多い………そもそも足運びが悪い、視界に入る部位しか意識していない。


足の運び方は工夫が大事、爪先を軽く浮かせて踵を強く踏む事でどのような方向にも重心移動が可能になる、なのに足の裏全体でしっかりと地面を踏み締めているので動作が遅くなっている、それは防御時のみで良いんだぜ?


足使いは臨機応変に使い分ける事が大事、細かく、遅く、速く、どのような状況でも意識して普通に歩く様にするのが大事だ、秘策が無い限りは宙に飛ぶ事や片足を浮かせる事は禁じ手として意識する事、どちらも相手の攻撃に対応出来ない。


カウンターに弱くなるのだ、宙に浮いている場合は防御が成功すれば吹き飛ばされるだけで済む、片足の場合だと着地点がどうしても両足で対応出来ないので転倒しやすい、それなのに相手の攻撃を避ける際についつい片足になってしまっている。


「あー、グロリアに鍛えられてるし優秀な一部が多いからな、見えるわ」


同い年ぐらいの少年と少女が戦っている、片方が剣士でもう片方は何だろう?格闘家に思えるが細分化された職業だとわからない、獲物を持っている剣士の少年の方が圧倒されている、指摘したままに足運びが悪い、視線が上半身に固定されている。


剣の重さで手首はおかしな方向に曲がって体も泳いでしまっている、へ、へっぴり腰だ、まだまだ少年と言って良いそいつは基本が出来ていない、身体能力は決して悪く無さそうなのにあまりにもお粗末過ぎるぜ、見ていてイライラする、か、関係ねぇし。


でもでもォ、あの子けっこー可愛いよォ、んふふ、からかってみようよォ、だぁいじょうぶ、少し夢中にさせて捨てちゃうだけだからねェ、キョウも遊びたいでしょう、ああ、しかし話し掛けるのにかなりの勇気がいるぜ、まったくしらねぇ奴だしな。


「ちょっと!何回やっても剣先が遊んでるわよ!もっと本気でやりなさいよ!」


「し、してるけど、剣が重くて体が引きずられるよー」


「自分で選んだんだからしっかりしなさい、言っておくけど新しい武器を買う余裕なんて無いからねっ」


「わ、わかってるさ」


カップルか?初々しいな、俺には超絶可愛いグロリアがいるから関係ねぇけど、胸無いけど、それもまた関係無いぜ!周りにいる冒険者たちも苦笑しながら見守っている、微笑ましいと思う反面でこれからの冒険者生活で生き抜く事が出来るのかと心配してしまう。


女の子の方は要領が良いな、自分より実力が下の訓練相手、幾つか自分で決まり事を作って難易度を上げている、後退する事と左腕を使う事を禁じているのか?距離を詰められた際に前にしか移動出来ないのは辛いな、後退する事で相手の全体像を捉えられるし俯瞰で見える。


男の方は良く見れば剣では無く刀か?重さで引き千切るのでは無く速度と鋭さで対象を斬る武器だが使い方を間違っている、刀は遊ばせるモノでは無い、一撃で相手を刈り取るのが基本、剣が重くて体が引きずられる?違う、刀は最後まで振り落とさないと駄目だ。


刀の良さは後退や防御を無くした必殺の一撃にある、それなのにそれを自制するとは何たる無学、頭が痛い、村を出る前の俺でもその程度の知識はある、ドラゴンライダーになる為に武器や戦い方については一通り勉強した、畑仕事の合間にな!!涙ぐましいぜ俺。


「おーい、そこの兄ちゃん」


「あ、し、シスターだぁ」


「お、おはようございます」


生憎だがファルシオンを持っていない、シスターの格好には些か不釣り合いかなと宿に置いて来た、トラブルに巻き込まれてもこのままで対処出来る自信があるし、しかし良い装備だなァ、俺が村を出た時なんて本当に酷いもんだったぜ?


畏まっている二人、シスターの威光はあらゆる人種に通用する、しかしそれでは面白く無い、グロリアのように他人を支配して操るのが趣味の腹黒女には都合が良いものかもしれねぇけどな、改めて並べると酷いなホント、美少女で良かった。


見ていて我慢出来なくなったと素直に説明する、ふんすふんす、二人とも鼻息が荒い、女の子の方は結構可愛いな、普段の俺なら挨拶ついででナンパしているけどそんな事はさせないよォ………キョウが好きな女の子は自分自身である私だけで良いよねェ。


地味な女だからキョウの好みじゃないよォ?だからナンパする必要は無いからね?ふふ、私や一部達のようにもっと美しくないとキョウには似合わないよ?んふふ、自分を飾る装飾品だと思えば良いんだよ、一部も女も、キョウは良い子だから私の言う通りに出来るよねェ?


ああ、俺は良い子だから出来るぜ。


ん?


「取り敢えず、あまりにも稚拙なお前たちを見て決心したわけよ、ちょい鍛えてやる」


「し、シスターが直々にですかぁ?」


あまり個性の無い女の子だな、ナンパする価値も無いか、俺の方が可愛いし。


「よ、よろしくお願いします」


こっちの男の子は可愛いな、いや、男を可愛いっておかしいぜ、気持ち悪い。


んふふ、虐めてあげるねェ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る