第81話・『主人公とヒロインが互いの無乳を揉むだけの小説』

鐘楼に据えられた様々な彫刻が妙に緊張感を高める、自然主義と抽象主義が入り混じった独特の外観、山の頂上に聳え立つ塔は古代の遺跡だ、お金になりそうな物が幾つも見えるがどうして荒らされていない?


グロリアと想いを伝えあった事で心が安定している、自分では安定していると思っているだけで実はぶっ壊れてるのかも知れないがな!私に切り替わる兆候が見えない、何かを企んでいるのか沈黙したまま。


グロリアを愛しいと思うと同時に私に対しても愛しいと思う、俺を守る為に生まれた姉のような私、お前がどんな風に俺を染めようとしても俺はお前を愛している、グロリアを嫌うように仕向けてもそこは変わらねぇ。


巨大な岩を加工してそのまま壁にしている、繋ぎ目は無い、これ程のサイズの岩をどうやって山頂に移動させたのだろうか?周囲には綺麗な切断面をした岩が幾つも放置され石切場を連想させる、試行錯誤の末に完成させた?


完成品と言えないまま遺跡になった遺物、直線部分が無い外観は見る者に不思議な感覚を与える、まるで自然物、人工物では無く自然物として捉えてしまう、魔王軍の幹部が住み付くにしては人類の英知に溢れた建物、少し笑えるぜ。


「この中に魔王軍の幹部がいるのか?」


「そのようですね、ぶっ殺しましょう」


「グロリアってそんなに好戦的だったっけ?」


SEXまでは行かないけど、うん、色々しちゃったぜ。


酒に流されたのか気持ちを確認しあってテンションが上がったからなのかそれは不明だ、不思議な程に俺は落ち着いている、しかしグロリアはおかしい、ピンク色の頬と潤んだ瞳、意外に初心なんだな。


好戦的になったグロリア、この場所に辿り着くまで数匹の魔物と遭遇したが全て一刀両断、断末魔さえ許さぬ神速の居合いに少し引き気味の俺、だけどテンションが高いグロリアって面白い、見てて楽しい。


私との件が落ち着いたら、せ、SEXしたい、うぐぐ、言い出すのは至難の技なのでその場の流れに期待しよう、花崗岩(かこうがん)が豊富な地域らしく地面の舗装材として用いている、その上を歩きながら入り口の前に立つ。


巨大な扉が目の前に佇んでいる、この扉から生きて出られた者はいるのだろうか?様々な一部を持つ俺でも魔王軍の幹部はしんどくね?しかしクロリアの細胞が激しく脈動する、大丈夫だ、お前はクロリアでグロリアだと俺を奮起させる。


グロリアが昨夜の事が原因でテンションがおかしいように俺もクロリアに促されて少しテンションがおかしい、クロリアは他の一部とは違う、何せ私を力でねじ伏せて封印している、力は拮抗しているが俺がクロリアに味方しているのがデカい。


鉄製の扉を開ける、澱んだ空気と激しい魔力の奔流に少しだけ翻弄される、どうして怖くねぇんだろ、一部がいるからかな?クロリアがいるから?グロリアがいるから?違うよな、矛盾しているけど封印されている私がいるからだ、お前は絶対に俺を守ってくれる。


封印されていても、何か暗躍していても、グロリアを切り捨てようとしても、そこは信用出来る、私は俺なのだから、私は俺の為にあるのだから。


「油のランプか、眩しいぜ」


「そうですね、これでは殺せません」


会話になってねぇ、グロリアがここまで初心だったとは!オッパイ吸っただけなのにこの有様、思い出したら興奮して来た、ほぼ無いと思っていたチッパイだったが少しは揉めた、頑張ったら揉めた、努力をすれば揉めた。


口にしたら殺されるので言わない、分厚い赤絨毯の上を歩きながら塔の中へと踏み込む、扉を閉めたのに何処かから風が吹き込んで来る、窓は平坦な柱の間の窪んだ羽目板に付けらている、換気までしているとは恐れ入るぜ。


「清潔好きか」


「殺して血と臓物を垂れ流しましょう、自分の汚物を見て己自身が薄汚れた魔物だと再認識させるのです」


グロリアが怖い、チッパイを揉んだだけで興奮鳴り止まぬ感じだ、それって普通は男の方じゃないか?悲しい事に俺にも少し胸があるのでグロリアに揉んで貰ったがこんなもんかーって感じで終わった、しかし夢中になったグロリアに一時間ぐらい揉まれてた。


魔王軍の元幹部と戦う前に何をしているんだ俺達、塔の中は無駄に広い、何とかは高い所が好き、頂上に行けば良いのか?妖精の力で周囲の気配を探る、多数の魔物の気配、おー、凄いのが一体いるな、こいつか?実に美味しそう、勇魔の情報を吐かせよう。


そして食べよう。


「グロリア、落ち着け」


「ああ、すいません………昨夜は良かったですね」


だから女が言う事か?私が騒いでいる、激しい感情が俺に流れ込んで来る、お前を無視して全裸でイチャイチャしたのは悪かったよ、しかしお前と約束したSEXはしないって言葉は守ったぜ?だからお前に俺を糾弾する権利はねぇ、そうだろ?


天井の鍾乳石の緻密さに感動しながら階段を上る………二重螺旋階段は何処までも続く、建物の中なので大型の魔物はいない、襲い掛かって来るタイミングに合わせてファルシオンで迎撃する、良し、俺は何処まで強くなったのだろうか?一緒にいるのがグロリアなので比較出来ない。


クロリアや姉さんの力でもグロリアには届かない、勝てるビジョンが浮かばない、蝙蝠型の魔物が何匹も飛来するがグロリアは鼻歌をしながら一振りで迎撃する……刀身が宙を幾何学模様のように複雑に走る、どうしてそれだけ力を分散させながら肉を断てる?


「キョウさんの胸はアレですね、小さいけど綺麗でした」


「自分の胸に問い掛けてみ、きっと同じ答えが返って来る」


皮肉、そもそも男なのに胸を期待されても困る、私が何度も何度も入れ替わろうと脳味噌を刺激する、口の中が渇いて皮膚の上を何かが這うような不気味な感触……全ては幻、グロリアを傷付けようとする私は俺が許さない、しかし本当に力を得たな。


強制的に入れ替わろうとするなんて悪い子だ、ここのエサを俺にしたらより強固な自我を得て干渉するだろう、いいぜ、どんどん強くなれ、それでも俺はお前を愛している、お前が何を企んでも全ては無駄、俺とグロリアの関係は続く、だけど俺と私は完結している。


よりにもよってどうして自分自身に恋をした?


「はて、キョウさんが夢中になっていた私の胸に?」


「グロリアこそ、お、俺の胸なんて楽しくねぇだろ」


「実に楽しい」


即答されて言葉に詰まる、俺とグロリアがイチャイチャすればする程に私が力を増す、頑張れクロリア、その怒りを利用する算段だ、取り敢えずボス戦で入れ替わるとするか、キョウ、好きに暴れてストレス発散しても良いんだぜ?


上りと下りが一体化された螺旋階段で薄く微笑む、キョウがどんな風に成長するのか見守りたいぜ、グロリアを切り捨てる?やれるならやってみろ、やれるもんならやってみろ、アハァァ、グロリアから俺を奪い去ってみろ、お前は俺なんだから出来るって。


フフ、あは、グロリアの背中に問う。


「女寄りの俺が、グロリアから俺を奪うんだってさ」


「へえ」


「戦う時に入れ替わるけど、何か伝えとこうか?」


「そうですね………では一言だけ」


「おう」


「キョウさんの胸は私のものです」


どうしよう、ここ最近は俺が壊れまくってヤバかったけど。


グロリアがもっと壊れた。


そして伝えなかったぜ。

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