閑話79・『自己初恋』

他人よりも自分が大好きなキョウがだぁいすき、何度も何度も復唱させた、そして部下子やアク、クロカナの映像を思い出させて傷口を抉った。


見た目は女の子だからね、泣いている姿は中々に保護欲を刺激するよ?母性が疼くよ?それが自分自身なら尚更だよねェ、泣いているキョウに他人を信じないように何度も吹き込む。


私と違って物事を疑う事をしないキョウ、無垢なのかバカなのかわからないけどねェ、でもグロリアを捨てさせるのは中々に困難だ、それだけは捨てようとしない、まさかだぁいすきなグロリアが一番の障害になるとはね。


だからキョウと私のもっと奥へと侵入する、この街は階層の上の方、もっと潜らないとキョウの感性を根本的に歪ませる事は不可能らしい、んふふ、がんばるよォ、キョウが私だけを見てくれるなんてこんな幸せは無いからねェ。


キョウの心の奥底は暗闇に包まれている、どのような色合いも侵食する無限の黒、あいつの教育が行き届いているね、勇魔の教えが私達の根底にある、キョウは思い出せないんだっけ?だぁいじょうぶだよ、私がちゃんと良い方向に進めてあげる。


暗闇の向こうに光が見える、球体だ、その領域だけ闇に侵食されていない…………うわぁ、とてもとても綺麗な心だねェ、無垢なキョウの根底だ、私もここから派生したんだと思うと感慨深いかも?でもでも、今はヘドロ塗れの美少女になっちゃったぁ、残念。


そんなに綺麗だと、悪い私が寄って来るよ?キョウ?


「逃げたらダメって言ったのに、ここまで無垢になって、キョウったら」


ふわふわと闇の中を彷徨いながらキョウに説教する、球体の中には小さな少年、所々に穴が開いた農民服を着込んだ褐色の少年、いつものキョウだけどそのもっと奥底にある純粋な部分、あは、これが純粋な部分なら私が一番汚い部分かもねェ。


眠たそうに目蓋を擦りながらキョウは無垢な視線でこちらを見詰める、あは、穢れを知らない黒曜石のような瞳、汚染されて壊れてしまった私が失った美しさをキョウはまだ大事に持っている、やっぱり嫉妬しちゃうねぇ、キョウは私だけを大事にしてれば良いんだよォ?


しかしこの光の球体には抵抗感があるね、触れたらこっちの穢れが浄化されそうな感じ、他人を信じないように教え込んだのにこんな場所に隠れて本当にもう、まだまだ教えたい事は沢山あるんだからねッ、ついさっきグロリアと手を繋いだよね?


断る事が出来たのにどうしてかな。


「キョウ、ほら、いつもの街で遊ぼうよ」


「だぁれ」


ストレスで精神が逆行しているね、幼い俺、幼い私、見た目は単なる演出では無いんだねぇ、これは手強いぞ、私の教育がそれだけキョウにストレスを与えてるって事、んふふ、そのストレスは同一存在である私にもちゃんと流れ込んでるからね、イライラするよね?


その苛立ちは他人には理解出来ないからねェ、ほら、やっぱり俺と私だけの関係で世界は完結している、だからグロリアもいらないのにィ、グロリアに冷たくする事で思った以上に心が疲弊している?うわぁ、繊細な所もあるんだね、それってまるで女の子そのものだよね?


クスクスクス、ここまで無垢な心を自分だからと曝け出すなんてとても愚かだね、壁を取り払うように命じると言葉のままに従う、小さなキョウ、私の事が自分である事しか認識出来ていない?最新の情報を持っていない?汚染し放題だ、うわ、やったね。


漆黒の瞳は無垢なままこちらを捉えている、6歳ぐらいかな?舌足らずで甘えん坊なキョウ、グロリアは知っている?繋がりから問い掛ける、何も隠そうとせずに無言で頷くキョウ、あはぁ、良い子ォ、その情報はあるんだ、都合が良いねェ。


「おねえちゃん、だぁれ?グロリアのしりあい?」


「自分だってわかっているのにそれを聞くの?私の声で聞きたいの?」


「ん」


「そうだよォ、キョウだよ、どうして声で聞きたいのォ?」


「きれいだから、おれなの?ふしぎ」


幼い口調、キラキラとした瞳が眩しいねェ、近付いて抱き上げる、無抵抗、臆する様子も無く私の頬を紅葉のような手で叩いている、痛くは無い、不快でも無い……俺に与えられるモノは全て好意的に受け止めるからね、私にしか出来ないよねェ?


グロリアはこんなキョウを知らないでしょう?一生知る事は無いよね、だってキョウじゃないんだから、キョウの本心はキョウと私しか理解出来ない、んふふ、一人しか理解出来ない、私達は永遠に一人、それが心地よい、グロリアはそこを理解してね。


あれ。


あれれ。


不思議だねェ、どうして私ってここまでグロリアに対抗心を抱いているんだろう?


「どうした、きれいなおれ」


「え、きれいなおれ?」


「うん、きれいだよ、ぐろりあがどうかしたか?」


ふ、踏み込んで来るねェ、自分自身だから遠慮が無い、私の頬に手を当てたまま問い掛ける。


「グロリアと仲良くするのは楽しいィ?」


「ん」


「でもグロリアは裏切るよォ、私達の事なんか自分の計画を進めるだけの駒としか思っていない、クロカナと一緒だよ」


「―――――そうなのかな、えんすいもいってる、おなじこと」


へぇ、あいつ、使えるねェ、内から汚染する奴が私以外にいた事に感謝、灰色狐達は男寄りのキョウの味方だからねェ、んふふ、炎水は手駒に良いねェ。


クロカナの名前を出しただけで涙目になるキョウ、都合の良い名前、耳元で甘い言葉を囁きながら優しく抱擁する、もっともっと自分が大好きになるように、グロリアが必要では無くなるように。


――――他人じゃなくて、グロリアだけ?えーっと、んと、おかしいかな?どうしてキョウからグロリアだけを消そうとするのだろうか、私自身も不思議なんだけどねェ、な、なんだろ、なんだろう。


グロリアのように、キョウの横に立っている自分を想像する、あ、あれ、どうしてそんな事を想像するんだろう、私はキョウで私は俺だからそんな事は物理的に無理なのに、なんでなんで、なんで大好きなグロリアをこんなに敵視するように?


キョウ、キョウ、ああ、落ち着く、グロリア、グロリア、憎い、ニクイ、なんでなんで、こんな風になりたくないのに。


「あ、れ、なんだろ、コレ」


幼いキョウを洗脳しないと、もっともっと私を大好きにしないと。


そもそも何で?


私、完全に壊れた?

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