閑話78・『自己洗脳』

キョウはどんどん孤独になっている、ンフフ、どれだけグロリアが愛情を与えようが一部が愛情を与えようが愛の究極の形は自己愛、そこで完結する、そこには後も先も無い。


なんてエコな愛情、そしてエゴな愛情、他人に傷付けられるのがそんなに怖いのかなァ?キョウは違うよねェ、自分が愛した人に裏切られたり消えたりされるのが怖いんだよね?


裏切ったクロカナは一生許さないと心の奥底に刻んだものね、吸収したアクは対象に向ける愛情が多過ぎて精神が壊れちゃった、どうでも良い奴を一部にすると丁度良い塩梅なんだけどねェ。


愛する存在を一部にするとどうしてこんなに壊れちゃうんだろうねェ、何処かで無意識に制御しているエルフライダーの力を全開にしちゃうのかな?多分それだよねェ、今の一部はそこまで全力で取り込んで無いもんねェ。


だからキクタは壊れたんだねェ、正当に壊れた、あの子は特別だもんね、アクの壊れ方は本当に酷いね、人格も記憶も全て失って私や俺を愛するだけの人形に成り下がったんだもん、だったらその姉はどうなんだろう?


「怖くてまだ出してないもんね、キョウ」


「キョウか?」


「そうだよォ、キョウだけのキョウだよォ、ふふ、グロリアとのセックス断っちゃったねェ、怒る?」


「いや、お前がいてくれたら、来いよ」


「あん、引っ張ったら痛いよォ」


湖畔の街の見知らぬ民家、今日は外では遊べないかなァ?キョウの心象風景をそのまま映し出す世界は大荒れだ、雨が降り注ぎ風が吹き荒れる、窓には鎧戸が付けられていて雨風から私達を守ってくれる、ありがたいねェ。


ベッドの上で丸まっていたキョウに話し掛けられると乱暴に腕を掴まれて毛布の中に引き込まれる、んふふ、あったかいねぇ、身長も一緒なので目線が絡み合って最高だよ、綺麗な色違いのお星様、キラキラしているね。


これ、私のォ。


「ねえねえ、グロリアとのセックス、本当に良いのォ?」


「二度も聞くなよ、ウゼェな」


「グロリアより私を優先して良いのォ」


「優先も何も俺が私を優先するのは当たり前じゃなかったっけ?あれ、間違っているか?」


「んふふ、せいかーい」


油や蝋を染み込ませた紙や布が壁に貼り付けられている、外から差し込む光を利用して部屋の中を明るくする仕組み、中央では見られない辺境の民家の独特の仕様、ここまでリアルじゃなくて良いのにねェ。


干草を箱に詰めて出来たベッドの寝心地は何処か懐かしい、キョウと手を繋いで距離を無くす、ん、もっとくっ付きたい、だって私は俺だもんねェ、この世界ではこうやって分離しているけどそれってやっぱり寂しい。


キョウは仏頂面になって黙ってそれを受け入れる、んふふ、グロリアは今日は一人で寂しく寝るのかなァ?私も一人っきりだよ、キョウと一緒だけど一人っきり……でもでも、グロリアからキョウを取り上げちゃった、ごめんねェ。


油を染み込ませた麻布を窓に張る事で採光しようとしているのだけどこの雨では意味が無いねェ、んふふふ、グロリアからキョウを取り上げた♪グロリアから俺を取り上げた♪グロリアから私を取り上げた♪


あはぁ、ざまぁみろ。


キョウは何も知らないまま私に抱かれているよォ。


「キョウはねェ、いい子だね、こうやって私と遊んでくれるもん」


「頬を擦り付けるな、同じ顔が寄っても嬉しくねぇぜ」


「そりゃそうだよね、でも、同じ顔で寄り添っている方がセックスより深く繋がれるねェ」


「そう、か」


「クロカナよりもアクよりもグロリアよりも深く繋がれるよォ、ほらほら、こうやってくっ付くと心臓の音が聞こえるでしょう?」


キョウの心臓の音も聞こえるよ、まったく同じリズムでまったく同じ力強さ、残念な事に二人ともちっぱいだからね、くっ付けてもちっぱいのままだね、塵も積もれば何とやらだよキョウ!


だから落ち込まないでねェ、ちっぱいが大きくなる時も二人は一緒だよォ、あっ、一人だ、えへへ。


「肉と肉が絡み合うよりよっぽど健全で綺麗だと思わない?」


「キョウが言うならそうなのか?た、確かに気持ち良いけどな、くっ付く意味あるのか?一つだろ?」


「でもね、こうでもしないとグロリアとセックスしちゃうから、逃がさないよ」


無垢なキョウ、どうしても邪悪な部分は私に偏るんだねェ、こうやってここに匿って色々と洗脳してあげないとねェ、自己暗示は人間だけが持つ歪みだからね。


だから私しか興味が無いように仕立て上げる、だって、私は俺が大好きだもん……なのにどうして他人を求めちゃうのかなァ?最近の私っておかしい?私も汚染で壊れてる?


俺と私は同じだから、俺が壊れてるから私も壊れたんだ、んふふ、納得、干草の感触を楽しみながらキョウの首筋を舐める、どうにでもしろって顔をして、もっとこうさあ。


素直なキョウはそれでも私の言葉に従ってグロリアを無視してくれた、ああ、嬉しいよォ、大好きィ。


もっとグロリアを邪険にして。


「あ、炎水が騒いでる、取り込んで日が浅いからなぁ」


「他の女の話しないで」


「女って……どうした、キョウ?大丈夫か?」


心配そうな瞳、自分もぶっ壊れているのに心配ですかァ?んふふ♪


これからもグロリアを無視して、私と一緒に抱き締め合いましょうねェ。


「大丈夫だよ、大丈夫じゃ無いのは私達以外の人間だもん」


「そう、か」


「大丈夫じゃないのはキョウ以外の他人、はい、復唱♪」


もっともっと私に自分に夢中になろうねェ。


ねえ?

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