第79話・『暴走する自己愛は汚染を凌駕する、病んで病んで、いいよねェ、キョウ』

気を失った、図書館であの後に何があったかは知らない、グロリアに問い掛けても優しく微笑むだけで何も答えてくれない。


体の中に炎水を感じる、ちゃんと吸収されたようだ、鏡の前で何度か容姿を確認したが変化は無いように思える、しかし変化してもそれを変化と認識出来なくなるのがエルフライダー。


フフフ、段々と自分の能力がわかって来たぜ?念の為にグロリアにも聞いてみたが大丈夫ですよと優しく微笑んだ、最近のグロリアは優しく微笑み過ぎだ、久しぶりに邪笑をしてくれ。


変わった事といえば興奮すると鼻血が出やすくなったのとドジが多くなったって事ぐらいかな?どうしてそうなったのかは全く不明だぜ、冒険者ギルドの依頼で過去の魔王軍の幹部狩り、既に三桁の冒険者が失敗したらしい。


失敗したって事は死んだって事か、どの時代の魔王なのかそれだけでもわかれば対処の使用があるのだけどなァ、魔王の属性は一つと決まっていてその世代の魔物もその属性に強制的に固定される、勿論、前の魔王の時代の魔物も残っているけどな、しかし何かに似てるなこのシステム。


「魔王の幹部かァ、おもしれぇなぁ」


「キョウさんは何でも面白がりますねェ、恐怖の感情が欠落しているのでは?」


「グロリアには言われたくねぇぜ、グロリアに怖い事なんてねぇだろ?」


「ありますよ、キョウさんが傷付くのは怖いですね」


「う、うん、あんがと」


何でお礼を言った俺?ベールの下から覗く艶やかな銀髪を片手で遊びながらグロリアは俺の顔をジーッと覗き込む、何だかおかしい、しかし炎水がいなくなったけどあの施設は大丈夫なのだろうか?取り込んだ本人が口にするべき事では無いか。


いや、取り込んではいないだろ、炎水は生まれた時から俺の一部だ、手や足があるように炎水もあった、何だかおかしいぞ最近の俺、そんな事も忘れてしまう何てエルフライダーの能力の暴走か?いい加減、勘弁してくれや、ハハハ。


魔王の幹部かァ、強いんだろうなァ、どんな味がしてどんな性格でどんな醜態で俺の一部になるのだろうか?そうだ、魔王はこの世界で最強の生物、その生き残った幹部を狙って食べれば俺も満足出来るはずだぜ、エルフの要素を与える為にエルフを食わせても良い。


それって当たり前だもんな。


「そうだ、お腹が減ってるから強い存在を美味しく食べないとな、そうだろ?」


「キョウさん、病んでますね」


「ンフフフ、そうだァ、エルフの要素が無いと汚染されちゃうからねェ、エルフを贄であげれば良いんだァ」


「望むように、そうですね、手頃な罪人を見繕いましょう」


「ああ、それが良いぜ、人の命は平等じゃ無いからな、んふふ、私はずっとお腹ペコペコなのォ、仕方無いよねェ、グロリアも協力してくれるよな?」


「ええ、キョウさんが正しい、そう、いつだって」


青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる美しい瞳が優しく細められる、何だか故郷のお袋を思い出す、ええい、生暖かい視線を向けるんじゃねぇぜ?!


ドジが多くなったのも事実だし鼻血が多くなったのも事実、しかし優しくされる謂れは無いぜ?男としてそこは意見するっ!!しかしグロリアが妙に優し過ぎるのでやっぱり口に出せない。


昨日は大雨だった、辺境の道路は不便だ、整理されていないので倒木や土砂崩れが多発して既に道路とは言えない状況になっている、しかしこんな田舎に魔王軍の元幹部ねェ、田舎の食い物って新鮮で美味しいよねェ。


んふふ、しかしそれまで待ちきれないかなァ、何処かに野良エルフでもいないかなー、そいつの餌として与える前に半分だけ私が食べちゃうのォ、あー、でも人間って半分だけになったら死ぬな、危ない考えだぜ。


「最近、変な夢を見るんだ」


「へえ、どんな夢ですか」


「夢の中で女の俺と交流してるんだ、不思議だねェ、でもそこはすげぇ安らぐんだぜ?んふふ、グロリアも行きたい?」


「そうですね、連れて行ってくれるのなら」


「んふふ、だぁめェ、あそこはキョウと私の空間だからねェ、だぁいすきなグロリアのお願いでも聞いてあーげない、すまねぇな」


自分から話を振ったのに申し訳ねーぜ、グロリアはそうですかと呟いて足早に先を急ぐ、魔王軍の幹部なら魔王の能力を持つ勇魔の事を知っているかもしれねぇ……あいつがルークレットと関わりを持っているのは炎水の記憶を読めば一目瞭然。


同じ天命職で似通った能力、そしてあいつは一度だけ俺に会いに来た、俺に興味を持っている?あいつが探りを入れているなら次はこっちの番だぜ、んふふ…………キョウったら熱くなったら駄目だよォ、相手が相手だから追い詰め方も神経を使わないとねェ。


集落同士を結ぶ細道は入り組んでいる、こんな人が住んでいる場所に本当にいるのかよ?少しだけ胡散臭くなって来たぜ、でもでも、キョウの誰も信じない疑り深い性格だぁいすきだよォ、それって私しかいないって事だもんねェ、フフ、人間嫌いめェ。


グロリアにもキョウはあーげない、もう決めちゃったんだからねェ、一部にもグロリアにも絶対に渡さないんだからァ、しかし昨日の雨のせいで泥濘がやべぇなぁ、転ばないように気を付けないとなあ、ドジッ子の印象を払拭したいぜ!男として!


キョウが転ぶの見たいかもォ、顔を真っ赤にして誤魔化すんでしょう?んふふ、それ可愛いィ。


「山の奥で一人瞑想でもしてるのか?ったく、でもそいつを倒せば有名になれるんじゃねぇか?」


「キョウさんは有名になりたいんですか?」


「どうだろうねェ、有名になって故郷まで名が届くのは嬉しいかもねェ」


「ああ、それは確かに」


「ねえねえ、グロリアにも俺はあげないからねェ、俺は私のォ、約束のセックスも禁止ィ、んふふ、さっき見たいにキョウさんは正しいって言ってェ」


「―――――」


「言えよ、ホラ」


「言えませんね」


んー、ドジを含めて少し調子が悪いぜ、今日はゆっくり休もう。


明日に備えてな!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る