第75話・『死んだまま復活、ゾンビィ、ビィゾン』
奇妙な女だった、死母に跨っている俺が言うのも何だが奇妙な女、姿だけを見れば奇妙なシスターと言っても良いのだがシスターとは何故か思えない。
そいつは俺やグロリアと同じシスターの姿をしていた、しかし修道服では無く東の方で着られている東方服だ、一瞬だけ脳裏に灰色狐の姿が過ぎる、灰色狐は愛しい母親、こいつは憎むべき敵。
青黒色をした特殊な東方服、確か神に仕える僧侶が纏う特別なモノだ、枯れた草木や金属の錆を使用して染め直された端布を縫い合わせた袈裟(けさ)と呼ばれる衣装、法衣(ほうえ)とも呼ばれている。
全身を覆うような形では無く右肩を外に出すような形で着込む、偏袒右肩(へんだんうけん)と呼ばれる特殊な着込み方でこの大陸ではあまり馴染みが無い、大陸外の神が両肩を覆うように着用している袈裟である通肩(つうけん)に反する形。
神への敬意と崇拝を表していると言われている………細かい布を結び合わせた物を条(じょう)と呼ぶ、これを何枚も根気良く結び合わせて作られる、条の数は大体決まっていて五条、七条、九条の三種類に大別される、目の前のこいつのは恐らく九条だろう。
「素晴らしい、死んだシスターを強制的に一部にするとは、これは知らない能力だ」
「テメェ、俺のエサを勝手に殺すんじゃねぇよ、こんなに可愛く美しくなっちゃったじゃねぇか、ンフフ、カカっ」
「は、はおぁ、まおる、わだじのごぉ」
血涙を流しながら起動した炎水の乗り心地は中々に良い、早く広大な地下の空間を走り回って目の前のシスターモドキを蹂躙したい、死母は子供の為に容易く命を奪う存在なのだ、そんな存在に俺が変容させて変化させて進化させた、死体は命ある者を蹂躙する。
シスターモドキの年齢は俺やグロリアと変わらない、17歳程度に思える、袈裟を着込んでいるのが印象的、シスターにしては珍しく黒目で黒髪、濃い色合いでは無く褪せたような黒色、昔見た死んだ鴉を思わせる髪の色、お前も死体なのか?死体で死体と戦うか?
髪の長さは地面にギリギリ届かない程度、奇妙な女だ、こいつもシスターなのか?シスターの顔をしているからシスターなのだろうけど違和感がある、何も言わないグロリアはこいつの正体を知っているのだろうか?知っていようが関係ねぇな……殺すのだから。
死母は生きた息子に証明したいのだ、貴方の為に生まれたと、貴方の役に立つ為に生まれたと、エルフライダーの役に立つために生まれたのならエルフライダーの能力で俺に都合の良い存在に成り下がらないとなっ!可愛いよ、炎水、幼くてドジで死んじゃった俺の母親。
「ハハハハァ、ああ、行こうぜっっ!」
「ど、ァ」
炎水の体が跳ねる、弾丸のようだ、世界が入れ替わり二人の体が宙へと飛び出る、シスターの身体能力は化け物だ、生きている時でも圧倒的な化け物なのだ、死んだ事であらゆる制約が無くなっている、死スター、死母で死スター、いひひひ、ファルシオンを肩に担いで片腕で炎水を操作する。
キクタ、灰色狐、影不意ちゃん、騎乗した事のある一部と比較する、純度の高いエルフの血、キクタが一番近いか?エルフの力が俺に流れ込み互いの肉体を行き来する、二人で一つ、完全に支配下に置いた炎水の全てが心地良い、記憶が流れ込んで来る、炎水の記憶。
俺の映像を見て一喜一憂する炎水、俺に会える事を夢見ながらベッドに眠る炎水、思春期になり恋心のような感情を必死に抑え付けて邪念を消そうと努力する炎水、地面で笑い転げる俺達を見て驚きと嫉妬でどうにかなりそうになる炎水、ああ……だからそのままで良い。
「戻すぞ、死体は死体で良いけどなァ」
「きょう」
「戻すぞ、お前の人格が無ければ」
「きょうさま」
「戻すぞ、帰って来い、こうやって跨っているんだぜ?それはエルフライダー、お前の主が望んだ事なんだぜ?だったらお前も望みを言え」
「あなたの、貴方の母に」
「戻すぞ、死母のまま、帰って来い、死んでた方が無敵っぽくて都合が良いからな?どうだ?こんな息子は嫌いか?」
「貴方の母親に私はなりたかった」
「おかえり、ドジッ娘」
「私は……………貴方を護る為に生まれたッッ」
声が響く、炎水の声だ、心臓は停止したまま体に生気が漲って来る、魂は白くて丸くて死体の奥の奥で縮こまっている、それを強制的に俺と繋げて再起動する………えっと、魂だよな?それなのにこんなにも機械的なプロセスで蘇るのか?
ぞくり、何かダメな事をしたような、これはいけない事なのかな?冷たい炎水の体は俺の熱を奪う、冷静になる思考………復活した炎水は俺の精神と完全に繋がっている、エルフの血を持つ炎水、細胞の汚染も精神の汚染も無いように思える。
一瞬だけ魂が何かって理解出来たような気がする、だけどそれは不確かで恐ろしいものだ、あまり深く理解しては駄目だよな、だって、だってさ、これが出来たら死んだ存在も俺に出来るって事じゃねぇか、それは大丈夫なのか?
死んだ存在も美味しそうだと感じたら一部にして俺にして生死の垣根を無視するのか?ぐるるるるるるる、お腹が鳴る、だから炎水の魂とより融合する、ああああ。
いいね、だってお腹が減ってるんだもん♪
「よっしゃあ、ぶっ殺すぜ、あいつも俺にする、私にするんだもん」
シスターはクロリアも炎水も美味しかったァ、だからね、この目の前の敵も美味しいんじゃないかなァ。
私はいつもお腹が空いている、だからおとうとがごはんをくれる。
おとうと?
「エルフライダー、ご命令を」
蘇生のショックで鼻血を垂れ流している炎水、生気に満ちた表情、それを見下ろしながら私は答える。
「私ね、お腹減ったァ」
「御意」
でもでも、あいつって美味しいシスターなのかな?
食べればわかるよね。
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