閑話72・『あはぁ、お前サイテーだね』

「やぁだぁ」


「き、キョウさん、暴れないでっ!」


お風呂嫌い、本来のキョウさんはお風呂好きだが女性寄りのキョウさんはお風呂を嫌う、正しくはお風呂を嫌うのでは無く水を怖がっている、キョウさんの過去に何かトラウマになるような事があったのだろうか?


火山の多い地域、そこに住み付いた魔物の退治の依頼だったのだが思ったよりも早く片付いた、この状態のキョウさんは一部の事をまったく隠そうとはしない、つまりは取り込んだ一部を全て出現させて戦う、魔物にとっては恐怖だろう。


キョウさんの一部の多くは好戦的で超常の力を行使する、さらにひ弱になったキョウさんを護ろうと過剰な攻撃を繰り出すのだから始末に負えない、山が半壊してもキョウさんが泣き続ける限りは攻撃する、過保護なんですねェ、まったく。


火山が多いって事は火山の地下にあるマグマを熱源とする火山性温泉があるって事です、まさか部屋の外に温泉が備え付けられているとは思いませんでしたが、この宿にして正解でしたね、しかしキョウさんがここまで抵抗するとは思いませんでした。


「髪を洗わないと不潔になっちゃいますよ?」


「そんな事無いもん、私可愛いし」


「可愛いのと清潔なのはまた違います」


「グロリアは可愛くて清潔だから私好きィ!」


両手を万歳させてキョウさんが無邪気に笑う、胸の僅かな膨らみがキョウさんの性別を曖昧にしている、桃色の乳首が実に生意気で視線を外せない、駄目です、そんな事よりもキョウさんの頭を洗ってあげないとっ!


白い肌が温泉の湯気に当てられて赤く染まっている、まるで自分の体を見詰めているような錯覚、クロリアの細胞による汚染、キョウさんのクロリア化、クロリアと私は同一の個体、つまりは私になろうとしているキョウさん。


だけど他の一部の汚染もあるので少しだけ違う、だけどやっぱりその容姿はシスターのものだ、神の美術品、そんな器を持ちながら無垢な心を持っているキョウさん、泡に塗れた裸体を躍らせて私を誘惑する、鼻の奥がツーンとする。


「わ、私もキョウさんの事が大好きですよ」


「何処?体だと何処?」


「え、ちょ、あ、立ち上がら無いでっ!」


「私の何処が一番綺麗?」


容赦無い、キョウさんは裸体を私に見せ付けながらニッコリと笑う、衝撃的な展開に思考が停止する、私はキョウさんを綺麗に洗って上げたいだけなのにどうしてこうなる?まだ毛も生えていないような瑞々しい裸体、目を背ける事は許されない。


引き締まったウエストライン、ああ、魅惑的なくびれ、小さなおへそが愛らしい、私と同一の細胞を持つキョウさんの肉体は性的なアピールには少々欠けるが造形物としての美しさがある、お尻も胸も小振りですしね、わかってますよ、ええまったく。


私の体よりも少しだけ丸みがあるように思える、より女性らしいと言えば良いのでしょうか?にまーと私を見下ろすキョウさんの笑顔があまりに生意気で座るように促す、しかし二マニアと笑うだけで座る気配が無い、困った、実に困りました。


襲いたくなる。


「ねえ、答えてよ、それとも醜い?グロリアのせいでこんな姿になったんだよォ?」


「それは」


「ぜぇんぶ、ぜぇんぶ、グロリアが仕組んだ事なのに卑怯なんだねェ、大好きな男の子が女の子になっちゃって悲しい?汚らわしい?」


口調が厳しい、追求するような追い立てるような台詞、キョウさんの声は甘くて濃い、蜂蜜のような甘さと粘度、聞いているだけで脳味噌の奥が疼く、この雌は良い雌だと本能が告げている。


クスクスクス、かつてはこうやってキョウさんを虐めたものだ、そして今はキョウさんにこうして虐められている、倒錯的で屈折した二人だけの関係、誰もこの間には入る事が出来ない、顎に手を当てられて視線を固定される。


腰を折って私を睨む、侮蔑を含んだ美しい瞳、キョウさんは普通の男の子だった、このような姿にされて不満を感じていないわけが無い、これがキョウさんの本音なのでしょうか?私に対してこれだけ攻撃的になるだなんて。


「私は……」


「でもねェ、私は嬉しいの、だってグロリアになれるんだものっっ!可愛くて賢くて優しくて意地悪で腹黒で、そんなグロリアにグロリアがなれって言うのっ!」


「キョウさん?」


「グロリアは私がグロリアになって嬉しいよねェ、こうやって一緒にお風呂入れるもん、女の子同士だからね!ねえ、ねえ、嬉しいって言えよ」


「あ」


「言えよ」


罪から目を背ける私を彼女は許さない、私と同じ顔をした私の大好きな少年が冷たい一言を吐き捨てる、視線が絡まる、上手に笑えない、頬の筋肉が痙攣している、それはきっと不細工な笑顔でしょう。


キョウさんは泣いている、瞳から涙がポロポロと零れ落ちている、不安定な精神、私が心も体も壊したのにちゃんと向き合わない事に傷付いている、私は何て酷い事をしたのだろうか?どうして綺麗な部分を素直に言えない?


ぎこちない笑顔のまま、キョウさんの頬を優しく撫でて答える、この人の一番綺麗な部分を。


「かお、顔が好きです……私とまったく同じ顔なのにコロコロと表情が変わる顔が好き」


「あはぁ、面食い、最低だ」


そのまま唇を奪われる、反論出来ないように。


キョウさんは泣いている、今夜は優しく抱き締めよう。

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