第73話・『貴方を護る為に生まれた』
グロリアの言葉は衝撃的だった、最初は叱られるのかと思った、それはキスをされた事よりも容易に唇を奪われた俺の怠慢に対してだ。
だけどグロリアの凜とした声が地下に木霊した瞬間にシスター・炎水は呆けた顔で立ち尽くし俺は床の上を笑い転げる事になった、グロリアも薄く微笑んでいる。
邪笑、出会った頃を思い出すグロリアの他者を見下した独特の笑み、呟いた言葉を何度も脳裏に反芻して立ち上がる、口元を乱暴に拭ってファルシオンを構える……他の女の唾液なんで俺にはいらねぇわな。
『キョウさんがシスター・炎水に勝ったらSEXしましょう』
恥じもせずにグロリアはそう呟いた、良い女だ、最高の女だ、シスターだからグロリアが好きなんじゃない、グロリアだから大好きなんだ、恥じもしないで腕を組んだまま鋭利な声でそう口にした、どんな甘い言葉よりも俺には嬉しい。
シスター・炎水、俺の教育係と名乗る幼女、一般的なシスターよりやや垂れ目がちで目尻が優しいのが印象的、その印象を覆す圧倒的な戦闘力、俺の中の一部達が一斉に稼働して情報を収集している、結論は出ている。
突然消えたり現れたりする能力はクロリアの知識で解決しそうだ、こいつに勝ったらグロリアと初夜、圧倒的な存在感で俺の前に立ち塞がるシスターは童貞を捨てる為の課題に成り下がった、ぐへへ、今なら何でも出来そうだぜ。
シスター・炎水は口の周りを俺の唾液で塗らせたまま愛らしく首を傾げている……グロリアの言葉も俺とグロリアの関係も何もかもが彼女にとってイレギュラーなのだろう、地面を蹴る、妖精の力で靴を浮かせて地面を流れるように移動する。
「オラァ、童貞捨てさせろやァァ!」
「あの、な、何ですかそれ、うわぁ」
武器を持っていない彼女は狼狽えながら後退する、空を切ったファルシオンが不機嫌な音を奏でる、咄嗟に避けたか?クロリアの出した答えが確かなら消え去る瞬間にアレを合わせてやれば良い、一瞬の思考を奪うようにシスター・炎水の姿が消える。
腹が捩じれるように抉られる感触、血反吐を撒き散らしながら無造作にファルシオンを振り回す、外の世界と違って地下の世界では音が極端に少ない、攻撃のタイミングを掴むためにシスター・炎水の音を捉えようとしたがそれも無駄な抵抗、音すらしない。
本来なら危機感が高まるその現実も俺にとっては好都合、組み立てた理論が証明されていく事に快楽を感じてしまう、姿も消える、音もしない、攻撃された時も衝撃だけでそこには何も無い、そして魔力すら感じない……それってアレに似ているよな?なあ、クロリア。
「無色器官ッ、このドジッ娘、自分自身を無色器官にしてやがるっ」
使徒と使徒の細胞を持つ特殊なシスターだけに扱える無敵の器官、無色透明で世界の理から外れた攻撃器官、一方的に相手を蹂躙する為に生み出されたソレはこの世界の物質では触れる事が出来ない、反対に無色器官は対象に一方的に干渉する事が出来る。
クロリアの件で勇魔とルークルットに何かしらの繋がりがある事はわかっていたがシスター・炎水までそうだとは思わなかった、シスター・炎水もクロリアも俺の教育係と伴侶として生み出された、どうして俺に関係のあるシスターだけ使徒の細胞を付加している?
勇魔やルークルットは何を企んでそんな事をしているんだ、世界の怨敵である勇魔と世界を統べる宗教団体、共通点を見つける方が難しいが俺は知っている、ルークルット神の魂から生まれた天命職って特殊な職業を!つまりはどちらもルークルット神が生みの親なのだ。
「自分自身を無色器官に出来るのはすげぇけどな、女風呂も覗き放題だろうしよォ」
「キョウさん、SEX無しにしますよ?」
「え、SEX無しだと何処まで許してくれんの?手は?手でしてくれんの?」
「手でぶん殴れば良いんですか?」
「違うぜっ!手で上下にだな」
「手で上下に締め上げれば良いんですか?」
駄目だ、このままでは折角のご褒美が取り上げられてしまう、クロリアの無色器官を展開させる、体が使徒化する感覚、使徒化する感覚と表現したが俺がそう感じているだけで実際には違うかもな?体が妙に軽い、アレ?目線が下がるような?
異常を感じているのに体は軽い、使徒化したお陰でシスター・炎水を視認出来る、ファルシオンによる攻撃は当たらないが無色器官による攻撃は通用するはずだ……尻尾のように細く伸ばして迫り来るシスター・炎水を牽制する、オラァ、クロリア舐めるな。
「キョウさん、姿がクロリアになってますよ?」
「マジか?道理でロリくせぇと思った!俺の匂いか!」
「目線が下がったとかもっと他にも判断出来る材料があるでしょうに」
「ロリくせぇ、ありがてぇ」
「ありがたい?」
「ごめん、ありがたくは無いぜ!」
声まですっかりクロリアだ、使徒の力を全力で行使するにはクロリアの肉体が一番ってか!俺の姿が変貌した事にシスター・炎水は狼狽えているようだ、クロリアの体の性能を実感する、地面を蹴る感触も無色器官を展開する感覚も何もかもが素晴らしい。
伸びた尾がシスター・炎水を乱暴に弾き飛ばす、童貞を捨て去る為にロリになった俺、とにかく字面が酷いなオイ、少しだけ変えて見るか?ロリになって童貞を捨てようとする俺、その場合は処女になるのか?悩めば悩むほどに問題は山積みにされてゆく。
「グロリアっ!ロリッ娘で童貞を捨てようとしている俺って客観的に見てどう思う」
「すこぶるキモいですね」
「グロリアっ!お前の幼少期の姿なのにキモいって酷くねぇか!」
「よりキモいと感じますね」
「泣いちゃいそうだから何か褒めてくれっ!」
「容姿だけは素晴らしい、流石は幼少期の私」
「中身で頼むぜっ!?」
駄目だ、会話を続けても精神的なダメージが酷くなる一方だ、フフフフ、最初はビビったけど無色器官同士の戦いなら俺に分がある、クロリアの知識と能力を最大限に活用して戦ってやるっ、そして美味しく頂いてやる、エルフの耳を持つシスターめっ。
エルフエルフエルフ、耳までエルフなのは久しぶりだ、舌なめずり、捕食する様を想像して性的な快楽を意識する、どんなに気持ちが良いのだろうか?どんな味がするのだろうか?本来のクロリアなら絶対にしない卑しい表情を浮かべて俺は夢想する、そして無双する。
「エルフライダー、まさかクロリアの力をここまで」
「お前の力も有効活用してやんよォ、教育係とかどうでも良いから餌になれ、お腹が空いてるんだ」
「キョウさんは腹ペコキャラですね」
「え」
お前に言われたくねぇ、クロリアの力を使う事が意外なのか?だとしたらエルフ以外の存在を取り込む事は知っていてもその力まで行使出来る事は知らない?俺の能力の全てを把握しているわけでは無いのか?エルフライダーの能力を知っているのでは無く予想している?
勇魔の能力はエルフライダーに近いものだ、勇魔の過去の資料から類似したエルフライダーの能力を予想しているとか、当たってはいないかも知れないが外れても無さそうだ、少しずつパズルの破片が組み合わさる、俺ですらここまで予想出来るのだからグロリアは?
取り敢えず、いただきますだ。
「シスター・炎水、俺の―――――――――――」
「エルフライダーッッ!」
このまま蹂躙してやる、無色器官を部屋中に展開させて襲い掛かろうとした瞬間に寒気がする、グロリアが剣を抜くよりも俺が展開させた無色器官を体に纏わせるよりも速くシスター・炎水が俺の前に立ち塞がる、言葉のままに俺の前を塞ぐように立ち尽くす。
血が舞う、赤い血、シスターと使徒とエルフの血が混じった真っ赤な血、シスターは大好き、エルフも大好き、使徒はわからない、そんな素敵な赤い血が俺の視界を覆う、シスター・炎水の小さな体が気が狂ったように大きく震える、吹き飛ぶ腕が生々しい。
シスター・炎水?
「え、るふ、きょうさま……おけがは?」
「な、い、炎水?」
「よかっ……た」
軽い体が音もせずに地面に沈む、血が地面に花開く、血華、俺はそれを呆然と見詰める、シスター・炎水、俺の餌になるはずだったシスターがその命を散らそうとしている、え、散った?
――――――――――――――――――――俺の前で、俺になるはずだった、俺の一部。
「シスター・炎水、お前はエルフライダーの餌としては不適切だ」
誰かの声か鳴り響いた。
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