閑話66・『虐められて鳴いてろ』
自分が誰かの物になるだなんて考えた事も無かった、誰かを自分の物にするのは得意だ、手駒にする為に甘い言葉で囁いて体を弄んでやれば良い。
同性のシスターを下僕に変えるのはとても楽しい、勢力を伸ばして計画を進める、それもまたとても楽しい、手駒が増えれば増える程に計画の幅も広がってゆく。
人を支配する悪癖、自覚はしている、他者を支配して自分の望むようにコントロールする、昔からそうやって生きて来た、この世界の神が偽りだと気付いた時からずっと。
なのに、その支配者である私が支配されるだなんて悪い冗談。
「グロリア」
カーテンで閉ざされた部屋は暗闇に支配されている、女性二人と勘違いされたのだが部屋は中々に上等だ、ベッドの上に横になりながら呟かれた声に頷く、キョウさんの声は無機質で無感情だ。
エルフライダーの能力を酷使させ過ぎたせいでキョウさんの精神は歪に変化している、田舎で育って無垢な青年の心は他の一部の影響で不安定かつ脆くなり常軌を逸した行動をキョウさんに選択させる。
天井の木目を数えながら苦笑する、その変化の兆しが現れ始めてからキョウさんを教育している、新たな神として人間を支配するように、他者を支配する悪癖を持つように、キョウさんにはもう一人の私になって貰う。
「グロリア、声で返事」
「あ、はい」
既に少女の声にしか聞こえない、私にとても良く似た声、他者が聞いたら区別出来ない程に似た声、クロリアの細胞に汚染されてしまったキョウさん、クロリアの事は嫌いだがコレは良い仕込みだった。
あんなに純粋で無垢だったキョウさんがクロリアのお陰で一気に私に近付いた、この世界に誕生して一人で生きて来た私だったが初めて同族と出会えたような不思議な感覚がある、それが大好きなキョウさんなのだから感慨深い。
初めての出会いを思い出す、夢を語って太陽のように笑っていたあのキョウさんが私と同じモノに成り果てている、何とも言えない倒錯的な気分だ、ベッドの上から動かないように命令されている、縛る紐も拘束具も無い、命令が私を縛っている。
「グロリアは口で言わないとわからないのか?俺はグロリアの声が好きだから返事は動作では無く声で」
「ごめんなさい」
「ちゃんと声で伝えられたな、偉いなグロリアは」
「あ」
「出来るよなグロリア?」
「あ、ありがとうございます」
「ちゃんと出来た、だからグロリアは素敵なんだ」
見下ろされている、そして見上げている、中々に斬新な構図だ、しかし問題はそんな所では無い、キョウさんに見下されている現実、私の教育とクロリアの細胞が合わさってキョウさんは時折こうやって我を見失う。
他者を支配する悪癖を抑える事が出来ずに実際に行動に移す、一部は他者では無いのでこの悪癖を満足させる事は出来ない、自分で言うのは少し恥ずかしいが最も好意を持っている私を支配する事でキョウさんは満足するのだ。
以前にエルフの女性を支配して狂わせていたがアレでは空腹は満たされても悪癖は満たされない、キョウさんは命令通りに動く私に満足している、頬を無造作に突かれる、細くて白い指だ、手入れもしていないのに艶やかで滑らかな指。
嬲るように頬を抉る、キョウさんの笑顔は何処までも無邪気だ、自分の所有物を意味も無く弄んで壊す子供のように、私には支配欲を満足させる手駒のシスターが何人もいる、しかしキョウさんには私だけしかいない、私だけしか知らない。
満足させて上げなきゃ、何も知らない初心な少女のような気持ちが芽生える、キョウさんは頬を指で嬲りながら口を三日月のような形にして笑っている、邪笑、何処かで見た事があるような不思議な感覚、ど、何処で見ましたっけ?
「ほら、舐めて」
「あ」
唇の少し横に指を置いてキョウさんが呟く、絶妙な間隔で舌が届かない、必死に舌を伸ばして命令に従おうとするがやはり届かない、キョウさんの瞳がそれをジーッと観察している、瞳の色は右は黒色だがその奥に黄金の螺旋が幾重にも描かれている。
黄金と漆黒、左だけが青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる色彩をしている、私と同じ瞳で私の情けない姿を見詰められている、頬が赤く染まる、しかし命令は命令だ、ここで従わないとキョウさんが他者に手を伸ばすかもしれない。
嫉妬、胸がザワザワと疼く、このような行為を私以外の誰かとする?………それは駄目だ、あのエルフ達のように餌として食われるのならまだしもコレは許せない、舌を伸ばす、鼻息を荒くしながら体を小刻みに震わせながら、舌の付け根が痛い。
れろ、届く、キョウさんの味。
「ふふ、不細工」
「うぅ」
「嘘だよ、可愛いよグロリア、こんなにも芸が出来る何て猫よりは賢いかもな、犬よりはどうだろう?グロリアはどう思う?」
侮蔑、どちらにしろ人間以下、お前は俺の道具なのだと遠回しに言っている、キョウさんは何度も何度もそうやって私を虐める、気丈な私の心を容易く傷付けて塩を擦り付ける、痛みと歓喜で正常な思考が失われてゆく。
「答えろ」
「わ、私はどちらでも良いです……キョウさんが望むように」
「じゃあバカだ、犬よりも猫よりも、だってこんなに俺をおかしくさせて、謝って」
正常さを失ったキョウさんは癇癪持ちで短気だ、思考する暇さえ与えてくれない、私と同じ顔をしたキョウさんがかつての私のように邪笑を浮かべて私を虐めている、私がこんな風にキョウさんを壊してしまった。
「ごめんなさい、キョウさんの仰る通りです」
「そうだよ、俺が正しいんだ、グロリアはすぐに俺を肯定するなぁ、フフ、抱き締めて良い?」
答えを待たずに抱き締められる、細くて華奢なキョウさんの体、しかし確かな温もりと柔らかさを感じられる。
「次はどうやって虐めようか」
「もっと虐めて下さい………私で満足して下さい」
「だったらグロリアも頑張らないとな」
「………は、い」
頑張ります、貴方が私一人で満足出来るように。
頑張ります、貴方が私と同じになるように。
二人で一人ですものね?
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