第70話・『ロリの教育係の配達おせぇし』

勇魔が人類に対して起こした敵対行動は多くの国を滅ぼす結果になった、従来の魔王とは異質な存在、魔物のレベルが上がり知恵を得て力も増える。


人類が持っていた優位性をそのまま奪われた、勇者の力を与えられた魔物は聖なる属性を持って人類を蹂躙する、悪夢のような光景、神の子供である天命職は底知れぬ能力を秘めている。


第二、第三の勇魔が誕生したら人類に勝ち目は無い、故に多くの組織が大層な理由を掲げて天命職を狙っている、本心ではその力を欲しているだけなのに、そして最も勇魔に近い能力を秘めたエルフライダー。


キョウさんは順調に壊れ始めている、情緒不安定、乙女のように振る舞い子犬のように縋る、このまま壊れ切ったらどうなるのだろうか?人類を滅ぼす悪魔に成り下がるのだろうか?それが私の神様ですね。


キョウさんなら何になっても大丈夫、とてもとても大丈夫、だって貴方には私がいますもの、私が貴方を育てて上げます、大切に大切に、誰よりも何よりも私を愛するように、ちゃんと育てて上げますからね?


「で、でけぇ扉だな」


「この先が図書館です、ウルツァイト窒化ホウ素……このような形にする技術があるのですね」


火山性の残留物から得られる材料で構成された物質、結晶構造がダイヤモンドに酷似していて原子間距離も同一と言っても良い、恐ろしく硬く恐ろしく丈夫な物質。


これを生成する技術は今の人類には無い、それが巨大な扉となって目の前に佇んでいる、キョウさんに視線を送る、無言で頷いて目を閉じる、キョウさんが吸収した妖精の力は無機物を支配する。


これがどれだけ硬かろうが魔力抵抗の呪印を刻み込もうが関係無い、妖精が何処にでも出現する仕組みはコレだ、キョウさんの一部はどれもこれも優秀です、確認されているモノは全て名のある存在だ。


監視されていると言ったらキョウさんは何て答えるでしょうか?扉がゆっくりと開放される、冷え切った地下の通路に生暖かい風が流れ込む、カビ臭くて少し咽る、口元をハンカチで押さえる、キョウさんの口はもう片方の手で押さえる。


「ふろりは」


「我慢して下さい、キョウさんの力でこのカビ臭い空気も支配出来ますか?」


「できふ」


「通路の空気と入れ替えて下さい」


「うう」


一瞬で空気が入れ替わる奇妙な感覚、カビ臭い空気は通路の彼方へと移動する、万能と言っても良い力だがキョウさんはそれを理解しているのだろうか?強力な妖精だ、多くの冒険者やルークレット教の信者を殺した邪悪な妖精。


多くの一部がキョウさんを変えた、それは神になる為の供物だ、計画的に与えた存在もいるし偶然一部になった存在もいる、クロリアは実に良かった、あれでエルフでは無い存在を取り込む方法がわかった、空腹状態を極限にして見た目麗しい存在を餌場に置く。


本来ならエルフかそれに関する存在しか食べられないキョウさん、しかしストレスを限界まで与えて空腹を極限にまですると強制的にエルフライダーの能力が発現する、クロリアはその力に支配されてキョウさんに取り込まれた、これで望む存在をキョウさんに与えられる。


安定の為に純粋なエルフも与えないと、しかしおかしな事に純粋なエルフに対する能力の発動の敷居は高い、一人は一部にせず洗脳して他者のまま操っている、最初のエルフはどれだけ特別だったのか?アレはキョウさんにとってよっぽど特別な存在。


始末しましょうか?私の計画にはいらない、取り敢えずここの責任者は都合が良いのでキョウさんの一部にする、生意気だったアレがキョウさんに成り下がるのだ、そしてシスターの細胞がよりキョウさんを私に近付かせる、あはは。


私の他人を支配する悪癖も私の姿もキョウさんは得ようとしている、私に近付く可愛いキョウさん、あの純粋だったキョウさんがどんどん汚い私になってゆく、神を信じず他人を信じず人を支配する悪魔に近付いているのだ!もう一人の私になるんですか?


「キョウさん、呼吸をして大丈夫ですよ?」


「ぷはぁあああああああああ、げほっ、グロリアの手って良い匂いがするのな」


「そうなんですか?えー、嗅ぎます?」


「いえーいっ!くんかくんか」


「………何でしょう、この変な生き物、どうですか?」


「良い匂いだぜ、フフフフ、グロリアの良い匂いポイントがまた増えたぜ」


初耳ですね、


「一番良い匂いがするのは耳朶の裏側、えーっと」


「ちょっと待ちやがれです」


「待たない、二番目は旋毛」


トップ10が発表される、いつの間に嗅いだのだろうか?警戒レベルを上げないと駄目ですかね?ペットのように無邪気で明るいキョウさん、警戒心を保つのが難しい、溜息をしながら図書館に踏み込む。


真っ黒い空間、声が聞こえる、誰もいないはずの空間に声が響き渡る。


『エルフライダー、無垢な心を持った神の使徒、それを誑かし本来の道筋から外れた存在を餌として与えて自分に近付ける』


『餌の種類を選んで能力の幅や神になる為の資質を上昇させる、同族であり同じ神の子供である天命職を食べさせるのは神としての純度を高める為』


『そもそもエルフは神に愛された種族、エルフライダーの能力の幅を考えたら多少の無理は可能、自分の細胞を持つクロリアを食べさせたのは自分との繋がりを確実にする為』


『エルフ以外の存在を与える事で本人の自我を希薄にさせる事が可能、そこに自分しか味方はいないと口にする事で依存させて懐かせる、計画通りに神の子は貴方を愛する事になった』


『そしてよりルークレット神に近付ける為に自分に近付ける為にシスターを餌として与える事を決定、二番目の犠牲者が私ですかね?』


シスター・炎水(えんすい)の声、予想通りの展開に薄く微笑む、暗闇の図書館から響いた声は怒気に満ちている、成程、ここまで理解して私を嘲笑うと?しかし逆にその程度の情報しか知らないのか。


私がキョウさんに仕掛けた細工はそれだけでは無いのですよ?神に近付ける?あはは、神を凌駕する存在にキョウさんはなるんですよ?


「シスター・炎水?キョウさんがお腹を空かせているので出て来て下さい、消化されればその情報が何処から流れたのかわかります」


「シスター・グロリア、異端のシスター、貴方のエルフライダーの世話は私が引き継ぐのでご安心を」


――――――――――――私からキョウさんを取り合げますか?


それはそれは、はは、食べやすいように小さくカットしましょうね?


「クロリアがエルフライダーの伴侶、そして私がお世話係、それが本来の計画なのです」


本来の?それを決めたのは誰だ。


「私もこのお方の為に生まれたのです」


誰だ?

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