閑話63・『紅葉って何かエロい、理由を教えてくれ』

買い物に付き合ってくれ、祟木は覇気に満ちた表情でそう言った、祟木を具現化するのは一部の中でもかなり楽な方だ。


断る事も出来たが折角なので具現化する、紅葉の季節、この地域特有の文化なのか街のあらゆる所に落葉樹が植えられている、掃除が大変だなぁと姿も知らない人を心配する。


カエデ科の数種をここまで揃えるのは大変だったろうに、赤色に変化する紅葉(こうよう)、黄色に変化する黄葉(おうよう)、褐色に変化する褐葉(かつよう)と全ての色を楽しめる。


この地域では紅葉が舞う頃に海や山で沢山の自然の恵みが得られるらしい、だからこうやってその季節を意識させる為に街のあらゆる所に落葉樹を植えているのだ、変わった文化だな。


「アハハ、素晴らしい紅葉だな、海の近くで暮らしていたせいか山に囲まれていると安心するな」


「おいおい、走るなよ」


祟木はエルフの国で育てられた影響で人よりも成長が遅い、今も幼い少女の姿で街を走り回っている、太陽の光を連想させる金糸のような髪が美しい、本物の太陽に照らされて神々しく輝く。


しかも金箔を使用した金糸よりも生命に溢れていて見る者を魅了するぜ?肩まであるソレを側頭部の片側のみで結んでいる、サイドポニー、活発的な彼女にとても良く似合っていて目に眩しい、視覚的にも精神的にもな!


瞳も同じように金色だ、見た目は愛らしいのに何処かライオンを連想させるような大らかで強い瞳、肌は研究職の宿命か透けるように白い、俺の大切な知識の獅子ははしゃいで笑って実にご機嫌だ、たまには散歩させねぇとな?


「しかしここまで見事な紅葉は初めてだな、仕事でカエデ科のモノも扱いたかったし、勉強になるぜ」


世話をしている人間の手間を考えたら頭が下がる、道の真ん中に設けられた策の中には草や低木が植えられている、所々が紅葉色に変化していて健気な姿につい笑ってしまう、カエデ科で無い植物の紅葉は草紅葉(くさもみじ)と呼ばれて親しまれている。


全ての紅葉で彩られた小さな街、建物は地味で規模も大きく無いのにそれだけで特別な印象を訪れた者に与える、少なくとも俺は一生忘れる事は無いだろう、樹木を注意深く観察するがアブラムシによる寄生は少ない、駆除の手段を是非とも教えて欲しいぜ。


紅葉のメカリズムは解明されつつあるが紅葉する理由については様々な説が存在する、進化的な要因から研究しても進化的な機能から研究しても答えは出なかった、そこで出て来たのがアブラムシとの関係である、カエデの天敵とも言えるアブラムシ。


紅葉色が艶やかな葉にはアブラムシの寄生が少ない事が長年の研究でわかった、紅葉になる為に必要なアントシアンやカロテノイドを体内で生成するのには大きな負荷を必要とする、進化には全て理由があるのだが負荷を与える現象にはそれに見合う利益があるのだ。


しかし紅葉に関してはそれが見つから無かった、害虫への耐性を上げる為でも周囲の環境に何かを与えるものでも無い、そこで導き出されるのは視覚的な要素だ……アントシアンやカロテノイドを生成して周囲に誇示する様は自分がそれだけ強い植物なのだと威圧する為だ。


ハンディキャップ理論、生物や植物が行う非適応的な動きや変化、その生命体の生存確率が減るように思える不可解な行動を指す、しかしそこには理由があるのだ、紅葉に関して言えば自分を誇示して他者を威圧しているのだ。


「知識があると見る世界が変わる」


「使え使え、全ての知識はキョウのものだ」


自分の頭を指差しながら底抜けに明るい口調で祟木が呟く、自分の夢の為に蓄積した知識や経験を惜しみも無く俺に差し出してくれる、この世界では有名な学者である祟木、誰にも媚びずに夢の為に生きて来たこいつは俺の一部だ、俺そのものだ。


十歳ぐらいの容姿に圧倒的な頭脳、自分に絶対の自信を持って他者に接するその姿はまさにライオンだ、学会でもこうやって生きて来たのだろうか?デニムのホットパンツにノースリーブのトップスが彼女の開放的な性格を見事に表している、そんままだぜ!


「今日は何でも買っていいぞ、金ならある」


祟木は赤いフレームをした眼鏡の奥で瞳を細める、祟木は金持ちだ、恐ろしい程に金がある、人生で金に困った事は無いと口にするぐらい金があるのだ、世間的にも社会的にも地位がある祟木、その研究から得られる莫大な利益を狙って様々な企業や団体が祟木を支援している。


男らしくペチャパイを張りながら彼女は微笑む、いやん、惚れちゃうぜ?経済力のある異性って素敵、祟木は俺に甘い、一部の中にも俺に甘いメンバーと俺に厳しいメンバーが存在する、ちなみに姉ちゃんは後者だ、厳しいと言うよりいつも殺しに来てる。


そうだっ!祟木に協力させて姉ちゃんに復讐する道具を買おう。


「祟木、俺さ、姉ちゃん復讐したいんだ」


「何て澄んだ瞳で最低な事を口にするんだキョウ、相手は幼女だぞ?男なら少々の事なら我慢するべきだぞ!」


「マグマに落とそうとしたぜ?」


「それは我慢出来る範疇では無いのか?」


え、聞き返された?我慢出来る範疇か聞き返された?マグマに落ちるって我慢云々の問題だったっけ?紅葉の舞う美しい世界で祟木は顎に手を当てて小首を傾げる、学者さんだろ?人間がマグマに落ちて無事かどうかなんてアホの俺でもわかる。


俺って世間知らずだと思っていたけど一部の連中もササを筆頭に常識ねぇ奴が多過ぎるだろ?頭を抱えて蹲る、凡人の俺が天才のこいつに教育?果たしてそれは可能な事なのだろうか、心配そうに両腕を組んだまま俺を見下ろす祟木、心配そうだけど組んだ腕はそのままか!


覇者過ぎる、ライオン過ぎるわ。


「祟木?普通は死ぬだろ、常識的に」


「常識的にって常識の範囲にいないキョウが口にするのか?ワハハ、化け物の癖に」


「な、なにおぅ」


確かに化け物だけど化け物の一部に言われたくねぇぜ、ムカついたので眼鏡を取り上げて高い高いする、ふふん、身長差から届かないと判断、ぴょんぴょんと見っとも無く跳ねるが良いわ、天才の威厳を無くすのだっ!


「やろうッッ!」


くれた。


「く、くれんのかよ?コレが無いと困るだろ?」


「ああ、困る……しかし愛するキョウがしてくれた行為だ、黙って受け止めよう」


少し落ち込みながらも眼鏡をくれる祟木、いらねぇ、しかしこいつはカリスマの方向性を大きく間違っているな。


「祟木はホントにおバカだぜ」


「お?」


「お?」


「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


祟木の愛らしい声が周囲に響き渡る、子供が叫ぶのは良くある事、道行く人々も優しい視線でこっちを見ている、姉妹にでも思われているのか?


確かに俺の髪は姉さんの細胞に汚染されて僅かだが金髪が存在する、祟木も金髪だしそう思われても仕方ない、真っ白い肌を舞い散る紅葉のように赤く染めて祟木が激しく地面を踏む、何度も何度も。


ガッツポーズしてるし、何が何やらわからないぜ。


「もっと言ってくれ」


「何を?」


「バカって罵ってくれ!もっと激しくもっと大きな声で!」


はぁはぁはぁ、息が荒い、汗を流しながら俺に訴え掛ける、瞳孔が激しく揺れていてまともな状態には思えない、しかし必死さだけは伝わってくる。


「ば、バカっ!祟木のバカっ!」


本当は天才だけどなっ!


「ああああああああああぁああっぁああああああ」


股間を押さえて蹲る、なにコレ、ざわざわざわ、周囲の視線が一気に変わる。


いやぁ、俺のせいじゃねぇですよ?


「バカって言われた事が今まで無かったが!!バカって言われて見下されると……あそこが疼く!新発見だっ!」


「そうか、取り敢えずマグマに落ちろ」


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