閑話60・『雪合戦で使う雪玉を拳ぐらいの石で代用した雪合戦(ぶれない)』

火口の近くに来たのは流石に初めてだ、だって普通は近寄らねぇだろ?ダラダラダラ、二人の天命職の力と妖精と錬金術師の力を重ね合わせてそこに大賢者の魔法をさらに上乗せ。


だってそうしないと死ぬし、絶え間無く流れる汗が目に沁みる、自分の体から出た液体が自分の瞳に痛みを与えるだなんて滑稽だな、神様の設計図ってどうなってるんだ?いい加減過ぎだぜ。


地下のマグマ、火山ガスによって移動させられた岩塊、それが奇妙なリズムで地表に吐き出されている、だから死ぬって!仕方が無いので閉じているキクタとのリンクを一時だけ回復させる。


ドクンッ、激痛に似た衝動、体が強張り瞳孔が躍る、クロリアの力で強制的にコントロールする、ササとクロリア、この二人の力はデカい、そして実に都合が良い、今はまだお前に侵されるわけにはならねぇんだわ。


キクタ、ちょっとだけ力を寄越せ、でないと本体死んじゃうっ。


「姉ちゃんは死なないのかよ、あれだ、俺より色彩の武道家としての能力上手に使うよな」


「?同じ存在なのに?」


まさかマグマの色を奪って自分の体に重ねるとは思わなかった、悔しいがまだ俺はそこまで巧みに能力を行使出来ない、何か悔しいぜ!しかし真似をして失敗したら一瞬で真っ黒コゲだ、冷静な自分が止めとけと俺を静止する


姉ちゃんもそんな俺の一つなのになっ!火口だろうが姉ちゃんは今日も元気………そりゃ元気だろうよ、真夜中に俺を拉致してここまで連れて来たんだからなっ!空に広がる無限の星空と眼下に広がる無限の死の可能性。


眩暈がしてくる、両手をきやっほーと空に掲げて姉ちゃんは準備体操を始める、今日はこの地獄で修行だとよォ、落ちたら死ぬぜ?落ちなくても長居したら死ぬぜ?錬金術の力でガスを細分化して有害物を変化させる、疲れる。


「あのな、前にも言っただろうが、深夜の修行はやめよーぜって、しかも危険な場所は絶対に駄目と注意しただろうがっ!」


「………ここは危険じゃないよ?」


「何処が危険じゃないのか説明してくれ」


「………人生は常に二択、生きるか死ぬか、ここでは落ちるか落ちないか、何も変わらない、同じ二択」


「オッケー、哲学的な事を覚えやがったな、この野郎」


「…………えへへ」


反論し辛いわぁ、噴気口から有象無象のガスが何度も噴出される、マグマにはガスも意味が無い……マグマの色を奪って自分に貼り付けた姉ちゃんはマグマそのものだ、ここは彼女にとって地獄では無いのだ。


姉ちゃんを怨むように睨む、紅紫(こうし)の色彩を持つ髪は腰の辺りでバレッタで留めている、太腿近くまで伸びた髪の毛は髪型と合わさって犬の尻尾のようだ、見事に背景のマグマの色に溶け込んでいる、ラスボかな?


瞳は澄んだ水色で畔の水面のように穏やかだ、全体的に細く研ぎ澄まされた肉体は機能性のみを追求したかのように美しく無駄が無い、機能美を極めたかのような素晴らしいものだ、それと今から殴り合いをします。


「とぉ」


鈴の音のような声、軽やかで重みを感じない春風のように耳を撫でる優しい声、それが小さな唇から紡がれた瞬間に姉ちゃんの姿が消える、恐ろしい速度で何かが近付いて来る、近接戦では間違い無く最強の一部っ!


そして最悪の修行、姉ちゃんのスキンシップは危険な場所でのバトル……脳味噌がゴリラなのだから仕方が無い、ガスの噴出が絶え間なく続いて視界も狭い、その轟音で耳も聞こえなくなる、肌で知覚するしか無い。


左の肌が泡立つ、まるで毒を持った生き物に遭遇したような奇妙な感覚、まともに防御したら腕が砕かれる!!灰色狐の細胞を活性化させてやけくそ気味に後方に飛ぶ、狐の瞬発性と跳躍力、地面を這うように姉ちゃんが移動している。


足が動いているのか?そう錯覚する程に足を上げていない、体重移動による無音の移動術、相変わらず化け物だ、しかも初速から最高速度を持って移動している……もはや笑うしか無い、腰に生えた狐の尻尾で地面を叩いてそのまま一気に距離を詰める。


「ころーす」


「もう戦いに酔ってんのかよっ!取り敢えず一発殴らせろゴルァ!いつもいつも人を魔境に拉致しやがって!!宿の近場にそんな場所があると最近は不安で眠れないぜ!」


「………!殴って快眠させたげる!」


「気絶か永眠だろうが!」


「?永眠だよ」


「確定してるじゃねぇか!少しだけ希望を入れたのに無残に打ち砕きやがって!」


「………打ち砕きたいのは希望じゃなくて可愛い弟」


「可愛いのに?!」


姉ちゃんの体がしなやかに螺旋を描く、円を基本とした複雑な動きは体術を極めた者の奥義だ、角の無い体捌きは俺の攻撃を全て受け流す、手首を掴まれたと思った瞬間に体が宙を待っている。


背中から叩きつけられる、その際に手首を放すので衝撃を受け流せない、血を吐きながら地面を転がる、自分が先程までいた場所に姉ちゃんの拳がめり込んでいる、少し安心した瞬間に掴んだ石飛礫を俺の方に投げる。


動作が全て攻撃になっている、俺が避けた事で地面にめり込んだ拳もすぐさまに遠距離の武器になる、最初に砂利を飛ばしてその後に大きな石を投げている、面積の広い砂利は目眩ましと威嚇、大きな石が本命か、狐の尾で叩き落とす。


巨大な石に隠れていた小さな石が眉間にのめり込む、三弾重ね、三重奏、当たり所が悪かったのか体がグラつく、そのまま距離を詰めるのかと思いきやまた石飛礫、恐怖、どのような仕掛けをしているのかわからない、ならば避けるしか無い。


「はは、怖いか」


様々な石を様々な仕掛けで様々な投げ方で投げる、何処にでもある砂利と石が必殺の凶器になって俺に襲い掛かる、普段は大人しめの姉ちゃんだが戦闘時はハイテンション、弟を本気で殺そうとするなんて何て恐ろしい姉なんだろうか。


地面に手を当てたまま手首の捻りの変化と指の細かな動きで攻撃パターンを変えている、地面に設置しているので腕を上段にする動作も振り落とす動作も必要としない、無限の弾薬がある地面からそのままノーモーションで攻撃している、最悪だ、何だアレ。


「苧摸兎(おもう)無限の弾薬で無限に敵を攻撃する」


「とうとう敵って言いやがった!弟だぜぇえええええええええええええええ、あほんだらああああああ」


「苧摸兎(おもう)無限の弾薬で無限に弟を攻撃する」


「ぎゃああああああああああ」


接近戦だけとか言ってごめんなさい、戦闘に関しては全てチートなのね、このままでは死んでしまう。


マグマに落ちてしまう。


「はぁはぁはぁはぁ、俺の負けだ」


「?今日の二択は落ちるか落ちないかだよ?……勝つか負けるかじゃないよ?」


「え」


「苧摸兎(おもう)無限の弾薬で無限に敵を攻撃する」


「ぎゃああああああああああああ」


びしししししし、飛来する大小の石、そしてまた敵って言いやがった。


見てろ、今度は俺がお前を魔境に拉致してやる。


「………あはは、弟おもしろーい」

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