閑話57・『都会での野良エルフの捕獲方法・前編』
雨が長く続いたせいで体が太陽の光を欲している、久しぶりの快晴だ、気分が高まる。
隣のベッドで寝ているグロリアを揺さぶって起こすが気だるげな呻き声が聞こえるだけ、毛布の間から見える太腿が艶やかでエロい。
胸は無いけど太腿がある、グロリアに自信を持てよと笑いながら語り掛けると無言で脇腹に蹴りを入れられた、苦悶でのた打ち回る俺を無視して安らかな寝息で眠るグロリア。
舌打ちをしつつ口汚い罵声を浴びせながら部屋を出る、ドアを閉じた瞬間に何かが突き刺さる、木のドアを貫通したソレは鈍い光を放った短刀、晩酌の時に干し肉を切り裂くのに使ってた。
「恐ろしい女だぜ」
日常茶飯事なのでもはや驚かない、宿を出ると久しぶりの太陽が空の上で爛々と輝いている、朝の仕事に追われた人々が威勢良く道を走り回っている、それの邪魔にならないように道の隅を歩く。
ここ最近は精神が安定しない、クロリアと姉さんの細胞が疼いて俺を責め立てる、汚染も広がって徐々に男性らしい要素が減っている、苛立ちと怒り、無理矢理抑え込んで支配する、支配して見せる。
考えただけで内臓がグルルルと疼く、気持ち悪い、路地裏に逃げ込んで軽く吐く、血の混じった吐瀉物は朝の爽快感を軽減させる、グロリアがいなくて良かった、隠し通すのも限界に近い、早急に手を打たないと。
「エルフ、エルフ、エルフ、エルフ、エルフゥ」
形の無いものを言葉にして自分を抑え込む、純粋なエルフを体が強く欲している、逆立った耳を想像するだけで涎が流れる、延々と流れる、瞳孔が大きく開いて動悸が激しくなる、鼻の奥が痛い、鼻血がこれでもかと溢れる。
あらゆる体液と欲望を垂れ流しにしながら自分自身を支配する、衝動のままに行動したら破滅が待っている、グロリアが守ってくれる範囲で行動しなければっ!眩暈と鳥肌、何一つ正常に作動しない自分の体に飽き飽きする。
キクタの力があまりに巨大すぎて純粋なエルフは暫くいらないと思っていた、しかしクロリアの力がそれに匹敵するレベルだったのでこのようにおかしな状況に陥っている、クロリアの細胞は癌細胞、愛しい愛しい癌細胞。
「オェ」
朝食べたものを全て吐き出したら少しマシになった、二日酔いの激しいヤツのような感覚、頭の奥の奥の知覚出来ないはずの場所が冷たくて痛い、エルフも優秀な存在を選ばないと駄目だ、面白味の無いエルフは俺には必要無い。
そんなものは宇治氏のような信者で十分だ、こうやって一人で街を徘徊しているのも餌が必要だからだ、一部にする価値が無くても信者にするぐらいの価値はあるエルフ、そんな都合が良くてご飯では無くお菓子扱いの存在、それを探している。
信者を作るだけでも腹はある程度満たされる、エルフライダーの特性は自分を餓死させるような不条理なモノでは無い、なのでこうやって餌を探しているのだ、ダラダラと粘着質な唾液を垂れ流しながらか細く鳴く、エルフが食べたいなぁ、食べたいなぁ。
そんな獣の感性をしているのに妙に頭は冴えている、俺の容姿はクロリアと姉さんの汚染のせいで美しい少女のようになっている、二人の類稀なる美貌が俺そのものになってしまった、そうだ、あいつらのじゃない、この姿は俺のものだ!
だから使う、見た目を使う、美しい姿に凶暴性を隠して、美しい少女の皮の下に蜘蛛のような機能的で恐ろしい姿を隠して、アハ。
「おれ、まちがってないよなぁ、おなかすくんだぜ」
『ええ、キョウさんは間違っていませんよ?クロリアの言う事をちゃんと聞いて下さいね』
「ああ、クロリアはあたまがよいからな、したがうよ」
『ッ、嬉しいです、あああ、エルフライダーのセンサーは働いてますか?』
「わかるぜ」
エルフ特有の甘い香りがする、そして俺は蜂だ、その蜜を欲して望みのままに行動する、クロリアの指示はわかりやすい、流石は大好きなグロリアのクローンだ、そして俺の大好きな一部だ、こいつを食べて良いんだな?
グロリアには遅くなるように言っている、いや、グロリアは察してくれている、両腕で自分の体を抱き締めて座り込む、無駄なエネルギーを消耗したくない、はは、夜になるまでここで餌の状況を把握していれば良い、それが最善だ。
笑みを隠して笑う、結局は笑っている……だからこのまま笑いながら夜を待てば良い、グロリアにこの姿を見られたくないから外に出た、彼女はきっと笑顔で許してくれる、もしくは見下しながら俺を肯定してくれる、どちらも嫌だ。
大好きな人に汚い部分を曝け出す勇気が俺にはまだ無い。
『キョウさん、私はそんな貴方を愛しています』
「つけいるな、いちぶのくせに」
『ふふ、申し訳ありません』
「――――――――」
『今はグロリアのキョウでは無い、私だけの可愛い人、愛しい男』
「――――――」
駄目だ、眠い、瞼を閉じた。
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