閑話55・『親子三人で仲良くボコりました』
グロリアがシスターとしての用事で三日ばかり留守にするらしい、たまにあるイベント。
口にはしないが寂しい、何だかんだでグロリアの事が大好きだし家族のような感情もある、いなくなると物凄く寂しい。
しかしそれを口にする事は阻まれる、ニヤニヤと邪悪な笑みを浮かべて俺をからかう様子が容易に想像出来るからだ、むすっとしたまま見送った。
なのにグロリアが『男の子でしょうに』と優しく頭を撫でるのでもっと何も言えなくなった、どうしてこうも俺の心情を完璧に読み取れるのか、謎だ。
「姉さんを召喚してみた」
「組織を弟に献上する為に暗躍しているタソガレ・ソルナージュだ、よろしく頼む」
「腐ってるぜ」
「あはは、そして何の用事だ弟よ」
完璧、彼女を一言で表現するのならその一言に尽きる、世には様々な美しさが存在するが彼女のソレは豪華絢爛とも言えるものだ、着飾る必要も無い程に。
古代から人間を惑わせた黄金、彼女の金髪はさらにそれに生命の息吹を与えて太陽の光を艶やかに反射する――耳に僅かにかかる程度に切り揃えられた髪型は中性的な雰囲気を強くしている。
前髪はサイドから片面に寄せており清廉で清潔なイメージを見る者に与える、瞳の色も髪と同じく黄金のソレであり猫科の動物の瞳を思わせる鋭く美しい瞳だ、その髪の色が俺の髪を侵食した。
「姉さんの容姿にもかなり汚染されてるな俺、うん、美形」
「おーい、聞いているのか弟よ」
キリッ、部屋に置かれた鏡台に映し出された自分を見る、グロリアやクロリアと姉妹のようだと言われるが姉さんの面影も随所に垣間見える、無理矢理取り込んだので汚染箇所が目立つ。
汚染、その言葉を使っているのに汚染された箇所は美しい黄金に輝いている、果たしてそれを汚染と呼称して良いのだろうか?姉さんの美しい容姿がクロリアの美しい容姿と合わさっている。
本来の俺は何処に消えたのか?もはや心だけなのか、心もクロリアや姉さんに汚染されつつあるのか、考えれば考えるほどにニヤニヤしてしまう、俺を汚染して取り合ってみんな俺になる、天獄で天国だ。
「おーい、おーい、姉さん泣くぞ?」
「そんなキャラだったっけ?」
「ふむ、弟を汚染した報いで余も弟に汚染されているらしい、勝手に飲むぞ?」
「勝手に飲むなし」
干し葡萄を用いる事で糖度を増した原料を仕様して醸造したワイン、通常のワインと違って水で薄めて飲む、糖度もアルコール度数も高いので水で薄めないと飲めた代物では無い。
安売りのそいつを手早く水で割って嗜む姉、とても聖女の姿には見えないし手慣れている事に疑問を感じる、星定めの会の最高幹部だろう?多くの信者を抱える聖女様だ、なのにどうして安売りの酒の飲み方を知っている。
呆然とその光景を見詰めていると立ったまま姉ちゃんはワインを飲み干す、口元から少し零れて何かエロい、甘くて度数の高いワインは経年劣化し難い、輸送時の予測出来ない変化にも耐えられる優秀な代物。
しかし間違っても聖女様が嗜むモノでは無い。
「おいおい、安売りだけど少ない小遣いでやり繰りしてるんだぜ?加減してくれよな」
「ふむ、そいつは済まなかったな、何だ?不思議そうにこちらを見詰めて、さては甘えたいのだな」
天涯孤独で認めた家族は俺と灰色狐だけ、愛情がその二つにだけ集約されていて他者をまったく寄せ付けない、すっかり俺に染まった姉ちゃんだが威風堂々とした佇まいは何も変わらない、祟木と同じで覇気に満ちた表情をしている。
甘えたいわけでは無いと説明してどうして飲み慣れているのか聞いて見る。
「ああ、灰色狐がこいつをやっててな、教わった、安い割に味も良いし水で調整出来るから悪酔いもし難いだろ?」
「嘘だろ、俺も灰色狐に教わったぜ、息子や娘に安酒を薦めるだなんて泣ける話じゃねぇか、あいつも金持ちなのに妙に庶民的だよな」
「あははは、それはそれとしてだな、そこでロープでグルグル巻きにされて目隠しされてぶら下がっているのは何だ?」
「灰色狐だぜ」
「そうか、灰色狐か」
「むぐぅううううううううう、むぐっぅううううううううううううううううううううう」
「弟よ、嘘だろう?」
「姉よ、マジだぜ」
猿轡と目隠しをされて天井からぶら下げられている灰色狐、無駄に暴れるので天井が軋んで埃がパラパラと降り注ぐ、おいおい、体に悪そうなので止めて欲しいぜ。
姉さんは顎に手を当てて何かを考えている、汗がダラダラと流れている、どうしたのだろうか?灰色狐が暴れていては考える事も出来なさそうなので軽く蹴りを食らわせる。
「ぐむぅうう」
「ふう、蹴りで止まるんだ、コレ」
「どうして灰色狐がこのような状況になっているのか説明してくれないか?」
「ああ、答えは簡単だ、恥ずかしい話だが毎日の日課で日記を書いているんだ、グロリアに言われてな、こいつはそれを勝手に覗き見した挙句に修正しやがった」
マザコン息子のマザコン日記に改変された日記を見て俺は決意した、灰色狐をボコろうと、そしてこうしてボコボコにしている。
姉さんは無言で頷く、どうした?
「奇遇だな、余も日記を書くのが日課でな、マザコン娘によるマザコン日記に改変された思い出すのも辛い過去がある」
流れるように灰色狐に蹴りを叩き込む姉さん、パンツも見えたぜ、ありがとう灰色狐、そして死ね。
「これで二冊目か………ふふふふふっふ」
「ふふふふふふふふふ」
「むぐうううううううううううううううううううううううううううううう」
お姉ちゃんと一緒にお母さん『で』遊びました。
楽しかったです。
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