第64話・『キモイ街』

アラハンドラ、シスターを量産する施設、今まで見た事も無い超高層建築物、天に届くのでは無いかと不安になる。


その異物を当たり前のように受け入れて周辺の人々は生活している、だとするとこの異物はずっと昔からここにある事になる。


鋼材の品質や材質、溶接技術に各種構造計算、細部の設計技術、基礎部の見た事の無い特殊な工法、あまりにも俺が見て来た建物とは次元が違い過ぎる。


「どうやって建てたんだコレ」


「神の御業ですよ」


「神の御業ってもお前………現実的にこうして目の前にあるし」


このような巨大で特殊な形状をした自立式鉄塔の建設は今の技術では不可能だ、灰色狐の視力を用いて細かに観察する、全体の主要接合部が溶接されている、そこだけは予想通りで少し安心する。


専門的な知識は一部のインテリ組から引き出す、鋼管を直接溶接接合する分岐継手を用いている、それによって軽量化する事が可能で耐震性も増している、形鋼(かたこう)を用いていると思ったが鋼管(こうかん)を用いているようだ。


力学的合理性や使用目的で使い分けられる素材だが南にある鋼の国でしか製造されていない代物だ、高温に熱した鋼帯を伸ばしながら幅方向を円柱型に変形させる、そして両端に酸素を高速で当てる事で刹那的に温度を上昇させる。


それを強い力で組み合わせる事で両端を接合して管に変形させた代物……鍛冶屋が真っ赤に熱した鉄を金槌で加工するのと同じ原理だがその合理性と生産性に大きな違いがある、どのような施設があればそれが可能なのか?


ルークレット教って何なんだ?本当に唯の宗教団体か?


「怖すぎるだろうルークレット教、魔物とかよりよっぽど怖いじゃねぇか」


「フフ、既に申請は終えているので明日にはあの中に入れると思いますよ?今日はアラハンドラの下にある街で休むとしましょう」


「ん?その日に入れねぇのか?シスターなのに?」


「あそこにあるには『アラハンドラ・ラクタル』です、私が生み出されて所属しているのは『アレハンドラ・エイジ』……色々あるのですよ」


「所属が違うだけで何か面倒だな」


正直に口にしてしまう、だって同じシスターなのにおかしいだろ?それではルークレット教の中でも派閥争いがあるような言い方だ、まさかなと思ってグロリアを見ると邪悪な笑みを浮かべている。


予想は当たったが釈然としない、こんな素晴らしい建物を建築出来るのにそれではまるで普通の人間と変わらないじゃないか、そこで思う、クロリアは何処に所属しているのだろうか?俺の容姿を大きく変化させたクロリアは?


記憶を読み取る、アラハンドラ・ラクタルだ、この建物だっ!構造が鉄骨造としては有り得ない複雑さ、各部材に求められる寸法等の精度も普通の建築物とは桁違いのソレ、グロリアはクロリアの出身地を知っていてここに決めた?


背筋が凍る、適当に調べて見ましょうと口にしていたのに入念に調べ上げてここに連れて来た、嘘を吐いているわけでは無いが本音を語っているわけでも無い、クロリアを騙しているのか俺を騙しているのかわからない。


「グロリア?お前……」


「どうしました、裏切られたような顔をして………男を誘うような弱々しい表情」


「ッ、うるせぇ!俺は男だ!さっさと行くぞ!」


「あはは、望みのままに」


舗装された道を歩き続けると街に到着する、森の中を切り開いて出来た街、市内中心部を巨大な川が流れている、ああ、先程の船乗りの川がここに続いているのか、発展した都市は活気と賑わいに溢れている。


そんな発展した都市に溶け込むように古い町並みや建物が数多く現存している、新旧入り混じった独特の色合いをしている、天文塔と思われる巨大な建造物が街のあちこちに見える、何やら色々と発展してそうだ。


それ以外にも何の用途で使われるのかわからない変な形の尖塔が数多く存在しているのも特徴だ、それを全て見下すようにスケールの違うアラハンドラ・ラクタルが雄々しく聳え立っている、やはりあの巨大さには慣れない。


「へえ、発展してるな、尖塔が異常に多いけど」


「様々な観測で必要なのですよ、ルークレットの技術の恩恵を受けて街は発展しています」


「何だソレ、神様が一部の街だけ贔屓しているのか?だったら神様ってやっぱり大した奴じゃねぇーな」


「へえ、キョウさんは真実を無意識で言い当てる事がありますね、尊敬します」


「な、何だよ、意味がわからねぇぜ」


街の中はシスターで溢れているのかと思いきやそのような様子は無い、グロリア曰く『アラハンドラ・ラクタルの中は薄気味悪い程溢れてますよ?』との事、自分と同じ容姿をしたシスターに対して何て言い様だ、グロリアらしいけど!


「あ、シスター、ご苦労様です」


「シスター、ここでは見た事の無い髪の色と瞳の色をされてますね、新しい使徒様でしょうか?」


「二人とも見た事の無いシスターだぁ、銀色の髪と銀糸と金糸の髪がきれーい、姉妹かなぁ」


「シスターっ!!どちらのシスターも美しい!!シスターは全てが等しく美しい!!!」


「あああああああああ、見た事の無い新生のシスターぁああああああああああああああああ」


街を歩いて一分が経過。


「な、なんだこの街キモイ」


「キモイですね」


シスター信者のキモイ街だった。

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