閑話51・『臭い母親に対して君はどうする』
自分自身が色々と汚染されて欠けるのがわかる、精神も容姿も随分と歪んで変わってしまった。
取り込む一部が偏っているせいで女性に近くなるのが悩みだ、俺は男らしい男を目指しているのにこの結果だ。
そんな愚痴を呟いたらグロリアに取り敢えず外を走ってみては?と適当な事を言われた、走って体を鍛えろってか!
やる事も無いので言われたままに外を全力疾走する、一人では寂しいので召喚した灰色狐も一緒だ、灰色の子狐の姿をしていて愛らしい。
「そっちの姿もいいな」
『ふふん、愛らしいじゃろ?』
「それより雨に濡れて獣臭い」
『うぉおおおおおおおおおおおおおおお』
本音を呟いたら灰色狐が全力疾走を始める、あいつなりの現実逃避か?獣の姿なのだから雨に濡れたら獣臭くなるのは当たり前だろうに……女の子って意味がわかんねぇな。
灰色狐には犬用の首輪をはめているので紐で引き摺られるような形になる、仕方が無いのでこっちも灰色狐に合わせてペースを早くする、雨に濡れた街は陰鬱で澱んでいる。
霖雨が長々と続いた、そのせいでこの街で足止めされている。降ったり止んだりとはっきりせずに何日も続く雨に街の人間も何処か疲れ切った表情をしている、そしてこの豪雨、誰も彼もが晴れるのを望んで空を見上げている。
「冷たいぜ、あー、しんどい」
『キョウ、儂を抱き締めるか?モコモコでヌクヌクじゃよ?』
「やだよ、雨でビショビショだし獣臭いし」
『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』
四足をフル回転させて全力疾走する灰色狐、紐が強制的に引っ張られて足元がおぼつか無くなる、さっきから一体なんなんだ、クロリアの細胞を活発化させて何とか無茶な散歩に付き合う、しんどいぜ。
認めたくは無いが俺の姿は年頃の少女のモノに見えるらしい、しかも見た目麗しい一部を多く取り込んだせいで中々の仕上がり、そんな少女に見える俺が傘も持たずに全力疾走する狐の散歩に付き合っている、どんな絵面だよ?
ここを曲がれば重厚なガラス張りの天井とモザイク模様のフロアーの素敵で優美な商店街、しかし今日は雨に濡れて自分を鍛えないとな!しかし雨は冷たい、少し咳き込む、今日ぐらい自分を甘やかしてやっても良いんじゃね?
朱雀が羽を広げたかのような美しくて重厚なエントランスの装飾、ついつい自分を甘やかしてそちらに足を運ぶ、ちなみに灰色狐は引き摺っている、地面との摩擦で煙が上がっているが気にしない、お前も少し頭を冷ませ。
「お洒落な商店街だよな、グロリアに何かお土産買ってやるか!」
『―――――ふん、あんな女狐』
「灰色狐なんてマジもんの狐じゃん、獣臭いし」
『ァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああ』
「うぉ!?引っ張るなって!」
商店街の内部の装飾はポンペイ風新古典様式と呼ばれる細部にまで拘った美しい造りをしている、壁面には女神や天使のレリーフが施されていてその丁寧な仕事ぶりに感嘆する、観光資源として大切にしているのだろう。
アンティークな街灯がそこらかしこに吊り下げられていて異世界に迷い込んだような不思議な感覚に陥ってしまう、床に敷き詰められたモザイクタイルの配色も完璧でこんな所を獣臭い小狐と小汚いガキが通っても良いのかと一瞬悩む。
テラス席でお茶をしながら談笑している人たちを見ていると不安になる、何だか知らないけど足が自然に止まる、そしてクイッと力強く紐を引っ張られる。
『キョウ、堂々とせんと駄目じゃぞ?何も臆する事も恥じる事も無い……皮を一枚剥げば皆同じよ』
「その皮が問題なんだって、獣くせぇし」
『キョウ、大好きじゃあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』
「うおぉぉ?!このタイミングでおかしいだろっ!」
『獣臭くないもんっっっうわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ』
「うるせぇ!くせぇ!」
他人が聞いたら子狐がコーンコーンって鳴いているように聞こえるだろう、お洒落な商店街に突然現れた一人と一匹の異物に誰もが注目している……俺の姿はまんまルークルットのシスターだしそりゃ目立つか。
走り出そうとする灰色狐を全力で抱き締める、くせぇ、雨に濡れて獣くせぇ!しかしそれを口にすると灰色狐が暴走してしまう、何とか我慢して抱き締める、抱き締めたまま絞め殺す、あは、このまま気絶させてやる!
「灰色狐ェ、このお洒落な世界ではお前の存在は邪魔なんだァ、死ねやァ」
『――――』
「あのぅ、そこのお嬢さん、何だか騒がしいけど大丈夫ですか?」
何だか気の弱そうな青年が申し訳なさそうに話し掛けて来る、全体的に貧弱でナヨっとしている、周囲から黄色い声が上がる、何だコイツ……有名人か?
面倒なので笑い掛けて追い返す、すると何故か貧弱男も笑顔になってグイグイと話し掛けて来る、黄色い声を分析するにこの商店街の会長の息子らしい、ボンボン?
「よろしかったらそこでお茶でも……可愛らしいペットも一緒に……」
『キョウに対する下心が見え見えじゃ、去れ』
ガブッ、手を伸ばした貧弱男の腕に噛み付く灰色狐、静寂、そして絶叫―――――床を転げ回るそいつを見下しながら灰色狐の頭を撫でる。
わしわしわし、くせぇ。
「あ、あれ、おかしいな、動物には好かれるんだけどなぁ」
「そうっすか、こいつは割と面食いですよ」
「ははははは、なら自信がある、どれ、もう一度」
『死ね』
ガブッッ、さらにもう一度噛む、床を転げ回るそいつを足で蹴って商店街をゆっくり見渡す、こんなバカが牛耳っている商店街なんて別に何でもねぇな!
灰色狐を撫でる、俺を守ってくれる小さな王子様だ、雨のせいで獣臭いけどなっ!
「そんなに怒るなよ、からかってごめんな、獣臭くても大好きだぜ」
『ふん、帰ったら一緒にお風呂じゃ』
「へいへい」
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