第59話・『片思いのシスターが最強過ぎて辛い、お家帰りたい』
冒険者としてのクエストでは無くシスターとしてのクエスト、グロリアは苦笑いを浮かべてそう言った。
いつもは冒険者である俺に付き添って貰うが今回はグロリアがメインだ、だけど好きな女の子を守る事は男として当たり前なので頑張るとするぜ。
吊り橋効果を狙ってもっと親密な関係に………ぐへへへ、卑猥な笑みを隠しながら妄想しているとケツを問答無用で蹴られた、何だか邪悪なオーラが垂れ流しになっていたらしい。
「ケツを蹴られるよりケツを蹴る側になりたい、今年の目標」
「自分のお尻を頑張って蹴って下さいね」
「そんな自慰行為に意味はねぇぜ!グロリアの薄っぺらいケツを蹴らせろや!」
「えい」
怒鳴ると同時に可愛らしい掛け声でケツを蹴られる、激痛が走り尻を押さえて転がり回る。
グロリアはソレを興味無さそうに見下している、見下ろしているのでは無い、見下している……文字の並びはほぼ同じだが意味合いが大きく異なる。
「男のケツを軽々しく蹴るんじゃね!腫れて安産型になったらどうするんだ!」
「随分と女の子っぽくなりましたし、ソレもありじゃないですか?男性に告白されるぐらい魅力的なのですから……ぷぷ、男女(おとこおんな)」
「う、ううううううう、うっさい!俺は男だ!」
何が原因か不明だがより女性っぽくなった容姿に違和感を感じる、金糸と銀糸に塗れた美しい髪、太陽の光を鮮やかに反射する二重色……黄金と白銀が夜空の星のように煌めいている。
前は銀髪だったよな?豪華絢爛な着飾る必要も無い程に整った容姿、グロリアと似ているがここまで派手な要素あったっけ?自分自身の容姿に馴染めないとはとうとう俺もぶっ壊れたか?
瞳の色は右は黒色だがその奥に黄金の螺旋が幾重にも描かれている、黄金と漆黒、何となく慣れ親しんだ感じがあるが違和感も同時に存在する……左だけが青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる色彩をしている。
「しかしよぉ、吸血竜って強いんだろ?二人で大丈夫か?」
「ええ、キョウさんもそこそこ使えるようになりましたし、私は元々強いですし」
「使えるって、あのな」
「私のモノですから」
「……あほんだら」
振り向いたグロリアの姿があまりに綺麗で何も言い返せない、顔を真っ赤にして視線を逸らす―――あ、一瞬だけ見えたグロリアの頬が赤いわ、俺達の肌は白過ぎる程に白過ぎるので感情の起伏がわかりやすい。
俺と違ってグロリアは自分をコントロールする術に長けているはずだが突発的な事でつい照れてしまったのだろう、だったら最初からそんな恥ずかしい事を言うなと心の中で吐き捨てる、まったく……女ってどんだけ卑怯なんだ。
胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服は一切の穢れの無い純白でその背中を見詰めながら足早になる、これではまるで母鳥の後を追う雛鳥だ、少しムッとする、グロリアの前に立って鼻息荒く地面を踏み付ける、男が前を歩かなきゃな!
「ぷっ、ふふふ、あははは、キョウさん何してるんですか、もう」
「笑うな、俺の背中を見とけ」
「はいはい、出会った時と比べて随分と華奢にはなりましたが……以前より逞しいですよ、色んな事を経験したからですかね?」
「うるさい!黙って見とけ」
「我が君の御心のままに」
どうしてそんな言い回しをするんだ、聞き返す事はせずに前方に突き進む、任務は吸血竜の退治だ、既に100人以上の腕利きの冒険者が挑戦して全滅している、吸血鬼と竜種のハイブリッドである吸血竜は高い知能と多くの能力を併せ持つ。
竜と同じ巨体を持ち火を噴き空を飛び回る、吸血鬼と同じ特性を持ち巨体を霧や蝙蝠の群れに変化させて血を啜り月の下では無敵となる、竜も吸血鬼も強靭な生命力で知られているがそれが合わさるとなると……恐ろしいぜ、そして戦ってみてぇな。
タソガレ姉さんの天命職としての力を行使する絶好のチャンスだ、今は組織に戻して良い感じに組織を私物化させている、他の天命職もあと三人所属しているとか…フフフ、くふふ、頑張って掻き集めたそいつらを美味しく頂こう、食べてしまおう。
聖女として多くの信者を抱える姉さんが俺だけの姉さんに落ちぶれたのは実に有益な事だ、灰色狐が組織で暗躍したソレを上手に引き継いでさらに事を大きくしている、自分の命令で大陸中にある組織の支部を操れるのは実に素晴らしい。
「しかしこの山、何だか不気味だな」
動物の角のように切り立った峰が特徴的な山だ、絶壁を這うように登るのだが灰色狐の狐としての能力を活かして適切な足場を選んで進んでゆく、頂上近くは氷の塊で覆われていて見るからに危険そうだ、グロリアは何も言わない、信用されてるのかな?
標高、悪天候、周囲に施設が無い、素敵な三拍子が揃った山だがグロリアは当たり前のように任務を引き受けた、この頂上に吸血竜がいるのか?そもそも辿り着くのが難しいぜ、吸血竜に殺されたわけでは無く普通にこの環境に殺されたんじゃないか?
気圧から高山病を患う危険性が比較的高いと思われるが人工生命体であるグロリアはあらゆる環境に適応出来るように遺伝子を操作されている、クロリアの遺伝子を持つ俺も同じように環境に適応出来ている……しかし、歩き過ぎて太腿が痛いリアルな現状。
「頂上に吸血竜はいるようですが……魔物の気配も少ないですね、襲って来ないですかねぇ、今晩のオカズに一品増やせますし」
「魔物を完全に食料として見てやがる、恐ろしい女だぜ………しかし前を歩いているのは俺だぜ!歩くつーか登る?」
「はいはい、キョウさんの背中ステキー」
感情がねぇ、複雑で険しい花こう岩で構築された岩山は中々に手強い、舌打ちをしつつ体勢を整える―――瞬間、殺気を感じてファルシオンを抜く。
体勢の悪さとファルシオンの重みで不格好な構えに……焦って体勢を立て直そうとすればする程にバランスを欠いてしまう、チン―――納刀を告げる軽やかな音。
振り向けばベールの下から覗く艶やかな銀髪を片手で遊びながらもう片方の手で腰に差し込んだ剣の柄をしっかりと握っているグロリアの姿、恥じらいと誇らしげな表情、蝙蝠型の魔物が絶命して地面に静かに横たわっている。
活躍のチャンスが……ねぇ!俺の好きな女の子は俺より強過ぎ!
「キョウさん、ほ、褒めても良いんじゃないかなぁー」
鼻歌、それすら悔しい程にお上手!明後日の方向を見ながらチラチラとこちらの様子を観察している。
俺は戦慄しながら体を小刻みに震わせる、グロリアと一緒に行動している時の俺の必要性ェェ、手早く魔物の血を抜いて毛を毟り部位事に切り分けるグロリアの逞しさ!
雪崩や滑落が起きやすい山と聞いているがソレすらも自力で何とかするであろうグロリア、ああ、俺って―――――姉さんを取り込んで身体能力が向上しているはずなのに、埋められない差を感じる。
「ぐ、ぐろりあ」
「はいはい」
「………ほ、惚れ直しちゃうぜ」
「っ、も、もう、バカな事を言ってないで先を急ぎますよ」
「お、おう」
男としてのプライドを圧し折って何とかそれだけを口にした、納刀音の『チン』って二回すれば『チンチン』じゃね?
そんなリクエストをする事すら忘れてしまう屈辱に俺は下唇を噛み締めるのだった、は、灰色狐かササを虐めたい!
手頃だからな!
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