閑話47・『私の彼女』

吸引性皮下出血、色気の無い言葉で表現するならば簡単だ。


しかしそれをキスマークと呼んだら状況は一変する、首筋に刻まれたそいつをどのようにすれば良いのかわからずに溜息を吐き出す。


「グロリア、毎朝毎朝、これ止めてくんねぇかな……」


ここにはいない少女の名前を出して再度の溜息、面白がっているのか理由は不明だが毎朝グロリアに首筋を噛まれる、前の体と違って無駄に繊細で白くなった肌は容易に痣を残す。


買い出しをしながら首を掻く、化膿しているわけでは無いが何だか痒い、掻いてしまえば痒みが一掃されて心地よい、この肌は容易に全てを刻み込む、爪痕が首筋に残るだろうが気にしない。


見た目がどれだけお人形さんになろうと中身は田舎出身の元農民だ、自らの容姿に対して気遣いをする程に暇では無い、大体の買い出しは済んだかな?……お小遣いも貰ったので少し街を散策するか!


「お嬢ちゃん、アクセサリーに興味は無いか?」


「うっせぇ、俺は男だぜ」


「え、嘘だろう」


このやり取りにも飽きた、クロリアの血肉に汚染された体は同性にとっても魅力的に映るらしい……自分の一部であるクロリアが褒められたような気分になってつい笑ってしまう……危ない兆候だ、俺は男だぜ?


グロリアのように注目されても平然と歩けたら良いんだけどなぁ、声を掛けられるとつい返事をしてしまう、グロリア曰く田舎者の習性らしい……その田舎者にキスマークを……………いや、こいつはキスマークって言うより歯形か?


狼のようにコレは私の獲物なのだと主張している、まるで自分がモノ扱いされたようで苛立つ、そして僅かに感じる喜び、最近の俺はグロリアに良いように調教されている?同じ細胞を持つようになってからソレが酷くなっている。


ぼりぼりぼり、グロリアの痣を掻きまくる、男としてのプライドがあるんだ……こっちからキスをする?いやいや、難易度高いぜ、そもそもグロリアの彫刻のように整った顔を見ていると緊張して体が動かなくなる、困ったもんだぜ。


「お嬢ちゃん、甘いお菓子に興味は無いか?」


「う、うっせぇ、お、俺は男だぜ」


「え、嘘だろう」


街を歩くと心が削がれる、どんどん疲弊してゆく……俺は男だよな?一部の性別を考えると既にもうこれは女なんじゃねぇかなぁ?俺だけが男で他はみんな女だし、あまり考え過ぎると頭痛が激しくなる。


姉ちゃんのゴリラ成分ガンバレ……姉ちゃんのゴリラ成分で少しでも男に近付きたい、今度取り込む奴は筋骨隆々の奴が良い、しかし取り込む際の描写がかなり気持ち悪くなるような気がする、そもそも俺が嫌だしな。


考えないようにしていたが男のエルフに遭遇したらどうしようか、祟木の過去の記憶を読み取った際に気付いたが同性だろうがエルフライダーの能力は問答無用で侵食する、何て嫌な能力なんだ、美少女だけに作用する能力で良いはずなのに!


「お嬢ちゃん、暇だったらデートしない?キスマークなんて見せびらかして可愛いー」


「うぅううううううう、男です……」


「大丈夫、どっちでもイケる」


身の危険を感じて逃走する、話し掛けて来る奴も大概だな……グロリアのように毅然としていれば話し掛けられる事も無いんだろうけど…………ついつい反応してしまう、無視をするのはどうにも心苦しい。


一人での買い物は駄目だ、何処に行っても若い男に話し掛けられる……性的な視線に晒されるのは気持ちが悪い、クロリアを汚されているような気持ちになって吐き気がする……俺って割と我儘だよな?


この容姿になるまで面白おかしく『スケベ』な事をしていたのに……実際に見られる側になると恥ずかしくなって逃げ出したくなる、女の子って凄いな……こんな視線を向けられても平然としているんだもんなぁ。


「お嬢ちゃん」


「う」


「私とデートしませんか?」


「…………んだよ、からかうなよ」


宿の前で呼び止められる――ニヤニヤニヤ、久しぶりの邪笑、形の良い唇を三日月の形に吊り上げてグロリアは笑っている。


腕を組んでもペチャパイは大きく見えないぜ?――――見られていたのか、男にナンパされる俺の姿を………最悪だ、一番見られたくない相手に!


「からかっていませんよ、自慢の彼女が大人気なのは優越感を得られて良いですねェ」


「っ、俺は男だ」


最悪だ。

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