第53話・『地獄絵図だよ全員集合!狐と妖精は寝てろ!姉ちゃんは起きようぜ』

襲来は突然だった、夜の闇を引き裂いて侵入者が窓から部屋に流れ込んでくる……覚醒と同時に敵の数を確認する。


割れたガラスを踏み締めてベッドを囲むように展開する、隣の部屋では悲鳴が上がっている、野太い男の断末魔、俺の部屋に流れ込んで来た男たちに動揺が走る。


敵の数は四人……服装や装備はわからないが無駄な動きは無く行動は統一されている、隣にも同じように忍び込んだか、淡々と処理しているグロリアの姿が浮かんで苦笑する。


「シスターだ、二人とも生け捕りにしろ、貴重なサンプルだ」


ルークレット教の教会でテロ行為をしたらしいが……成程、目的は施設では無くシスターそのものか、俺の見た目はシスターに似ているしグロリアは本当のシスターだし良い鴨だよな?


あいつ、俺に告白したあいつ………これが目的か?だとしたら助かる、目的がシスターである方が論理的に受け入れられる、同性愛は良くわからないぜ!丸まりながら欠伸をかみ殺す。


体が疼く、中心の方で激しく疼く、熱が浸透する………俺が寝ていると思っているのか?とんでもない、牙を隠してニヤニヤと笑みを浮かべている、俺を害する奴は俺に害されても文句は言えないはずだよな。


風船が弾けるように体が大きく膨れる、敵から見たらホラーだろ、一人の若者がカエルの腹のように膨らんで脈動する、体内にいる奴らだけでは処理出来ないので同時に肉を通して『陣』を展開する。


影不意ちゃん、ササ、祟木、クロリア、重みでベッドが軋む、命令する事も無くそれぞれがそれぞれに動き出す、影不意ちゃんがポツリと呟くと敵の頭部にブクブクと気泡が溢れて粘液を撒き散らしながら融解する。


「キョウちゃんを害するなんて死なば良いよ?……ふあ」


『海緑石』のような灰緑色の美しい瞳を涙目にしながら欠伸する、未発達故の中性的な容姿をした影不意ちゃんだが眠たげな所作が何とも愛らしい、この中では肉体は同一化していないメンバーなので陣で召喚した。


貫頭衣の羊毛製外套、法服を着込んだ賢者は問答無用で敵を圧倒する、そこに慈悲は無い、眠たげな表情で覇気の欠片も感じさせないが俺に対する忠誠心は高い、その知性と能力を惜しみなく俺の為に使ってくれる。


耳に僅かに髪が触れる程度のナチュラルなショートヘアが知的な彼女のイメージにピッタリ、目線より僅かに上の自然に流した前髪も似合っている、中性的な容姿に中性的な髪型、クスクスと笑いながら敵を完全に融解させる。


「神様に、ササの神様に何をしているのですか?」


若芽色(わかめいろ)……植物の新芽を連想させる初々しくも鮮やかな髪色、それをお団子にしてシニヨンヘアーにしている……ササは何も映さない真っ暗闇の空洞で何かを覗き込むようにして呟く、両目は無い、あるのは空洞だけ。


流石に敵も狼狽えて後退する、作業着を兼ねたショートオールに白衣の姿でササはゆっくりと立ち上がる、大きめのスリッパで地面を這うように歩く、敵が腰に差した短刀を抜こうとした瞬間に石化する………石像が出来上がり床に罅が入る。


命と等価交換で現象を起こすササの錬金術、俺を通してユルラゥとも繋がっているので能力は恐ろしい程に強化された、妖精の無限とも思える寿命がササの能力を爆発的に進化させたのだ、巨大な命を与えて小さな命を石に変化させた、それだけの事。


「よいしょ、私はいらないだろ」


ベッドの上で足を遊ばせながら祟木は呟く、咄嗟の事だったので覚醒しているメンバーを全員出したのだが戦闘要員では無い祟木は困ったように笑う……笑ったままベッドに寝転ぶのだから中々に肝が据わっている。


太陽の光を連想させる金糸のような髪を闇夜に浮かべて祟木はご機嫌だ、戦闘に参加する事に対して興味津々なのだ……肩まである髪を側頭部の片側のみで結んでサイドポニーにしている、それをご機嫌に揺らしてこちらを見つめている。


見た目は愛らしいのに何処かライオンを連想させるような王者の振る舞い、才気溢れる祟木は少々の事では動じない、影不意ちゃんとササがその振る舞いに溜息を吐き出す、俺の視界を通してササもこの光景を見ている……ここまで呆れるとはな。


「祟木は自由だね、ホント」


「神様の前でそのような振る舞い、無礼ですよ」


「あはは、二人とももっと戦え」


「「命令しないで」」


この二人が声を荒げるなんて面白い組み合わせだ、そんな風に思っていたら処理が済んだのかクロリアがしっかりとした足取りでこちらに駆け寄ってくる、背後では月の光に照らせれた死体が奇妙な色合いで存在感を放っている。


すり鉢の裏側にある櫛目と呼ばれる放射状の溝で擦られたらこのような死体になるかな?ぐしゃぐしゃに全ての部位が混合されていて気色悪い、人間だったモノが一つの球体に成り下がっている、不純物の無い純粋な人間、球体の人間。


クロリアの無色器官(むしょくきかん)……腰から生えた実物の無い器官が敵を擦り下したのだ……どのような形にもなりどのような存在にも触れられない無敵の器官、クロリアは幼くとも頼りになる表情で俺に力強く頷く、お、男前だぜ。


祟木のノルマ分も含めて二人殺してくれたらしい……姉ちゃんが起きていたなら姉ちゃん一人で圧倒出来ただろうけどな、戦闘に関してはずば抜けているし信頼もしている、灰色狐とユルラゥは俺の前だとはしゃいで五月蠅いしな!!


「クロリアあんがとな」


「いえいえ、キョウさんを守るのは私の使命ですから………いいように使って下さいね?」


「さ、ササもです!ササもです!ササもです!」


「錬金術師なのにここだけ聞いてるとおバカさんだね、ふぁ、僕は別にどうでもいいや」


「殺し合いもう終わりか?なんだ、つまらん、ここの四人でやってみせてよ」


「俺も?!どうして俺が影不意ちゃん達と戦わないと駄目なんだよ!祟木は少し頭おかしいぜ」


「あはは、あんがと」


大所帯になった、しかしグロリアと合流しないといけないのでクロリア以外を肉体に引っ込める、クロリアに殺された肉の塊と俺の体に戻ってくる肉の塊、そこにあるのは些細な違いでしか無い。


グロリアはクロリアの事を知っているし見つかっても別にいいや、しかし祟木が影不意ちゃんやササより上に立つとは思わなかった、戦闘に関しては役立たずだが才気と覇気で他者を魅了する。


雌のライオンでは無く雄のライオンだな、しかしそのカリスマ性は本体の俺には無い特別なものだ、いずれ役に立つ日が来る……宇治氏とは繋げてあるので色々と暗躍してくれると嬉しい、助かる。


「……………………………………………………?」


「クロリア」


「???」


青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる瞳をキラキラとさせて自分が生み出した創作物を見つめている、様々な部位が混ぜ込まれた肉団子、二人の人間が一つになる事はこうも悍ましいのか?


それは俺が意識をせずに生理的に行っている事、俺はここまで悍ましい生き物なのか……何だか安心する、先日から可愛いとか綺麗とか言われてどのような振る舞いをすれば良いのか悩んでいた、悍ましい生き物だから気にする必要は無い。


「あむ」


「食うかね、普通……クロリア?」


肉片を指先で削ぎ取って口にする。


「ぺっ、まずいです」


「お前のオリジナルは腹ペコヒロインだけど流石に人間は食べなかったぞ?そこだけは見習った方が良いと思うぜ?」


ベールの下から覗く艶やかな銀髪を指で弄りながらクロリアは笑う、邪笑、それはオリジナルに近く無くて良いぜ?


小さな唇から囁くように言葉が紡がれる。


「これ、人間じゃ無いですよ?酒場でキョウさんに求婚した人のホムンクルスです」


「でも食べるのおかしくないか?」


「……………………………………………………へへ」


可愛いから許された、灰色狐だったらぶん殴っていたぜ。

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