閑話33・『保護者のロリ2号、やっと求められる』


勇魔の第三使徒である悪蛙(あくがえる)は自身に与えられた命令に命令に首を傾げた、その役目はこれからもずっと姉である第一使徒のものだったはず。


問い掛けると処分したと感情の無い声で主は答えた、第一使徒を処分…………彼女は口が悪いが主の命令には忠実であったし優秀だった、第一使徒の名前に恥じない魔人だった。


これ以上の追及は無理そうだ、力の加減が出来ずに能力も柔軟性が無い、主の影で眠りについてどれだけの時間が経過しただろうか?兎に角、与えられた使命を果たすべく目的の場所へ飛んだ。


「なんだ、てめぇ」


「こ、細かい事を気にするんじゃねーですよ」


「?……いや、空から飛来した事実を細かいの一言で片づけるつもりはねーぜ?」


「や、やだなぁ旦那ぁ」


「………怪しい奴」


出会い……では無く再会は最悪だった、寂れた村にある畑の隅で素振りをしている少年……弟君だ、褐色の肌に鋭い目つき……猛禽類を彷彿とさせる隙の無い立ち振る舞い。


部下子が相手をしている時は機嫌良く甘えていたのに悪蛙が世話をする時は暴れて泣きまくる、少しずつ記憶が蘇ってくる、自分が封印された理由も弟君を泣かせたとかそんなんだった気がする。


弟君がこの世界に誕生して15年、悪蛙が最後に世話をしたのは何時だったか……生意気な存在だったが可愛くも思っていた、自分より他の使徒に甘えるのが何だか楽しくなかっただけ…………世話係筆頭の部下子には特別懐いていた。


「魔物か?」


「ち、違うですよ!」


「幼女か?」


「な、中身は一人前ですよ!」


「か、カエルの帽子は冗談だと思いたいぜ」


「か、開発した人に言ってですよー」


「ハエを食べるのか?」


「食わねーです!」


疑っているのか様々な質問をされる、空を飛ぶ幼女……都会だろうが辺境だろうが人間の世界では化け物である事は変わらない……こんなに色々と喋れるようになったんですか!驚きなのですよ!


それに悪蛙より随分と大きいですね……『魂の赤子』の世話係の一人として感慨深いものがある、そして疑われる事に少しショック、情報では弟君は師匠?を無くして傷心状態だとか。


彼がこの村を出るまで世話役として近くで生活しろと……………主の命令はシンプルで無駄が無い、私の見た目は部下子と大差無い……同一の遺伝子を持っているし何かしら反応はありますかね?


「ミルク臭い幼女ォ………将来も期待出来そうにねぇな」


ねぇですよ!か弱い少女のお尻を爪先で蹴りやがっているですよ………ウロウロと不審者のように悪蛙の周りを回っている、そしてお尻を時折蹴とばす……え、喧嘩を売られていますか?


こちとら第三使徒ですよ!


「しょんべん臭ぇけつ」


「し、失礼ですね!一応は初対面なのですよ!」


そして育ての親の一人なのですから敬いなさいです!


「あ、ケツだからウンコ臭いか」


「…………」


部下子、貴方が甘やかしたからこんな風に育ったんですよ、カエル柄の帽子を手で押さえて心の中で絶叫する――悪蛙はどちらかといえば甘やかさない方だった、使徒の人数的に半々に分かれていたように思う。


甘やかす側の筆頭が部下子、溺愛しまくった挙句にこの結果……見た目は幼女だと言われても仕方ない、しかしお尻を足先で蹴とばすのは如何なものか?………こんな風に成長した弟君の教育係?し、死にたい。


「お前が魔物とかどうでもいいや、俺の大切な人間が死んだその日に空からやって来たんだ」


「お、お尻を蹴るんじゃねーですよ!赤ちゃんが産めなくなるです!」


「代わりになれ」


「――――――」


こうも残酷な事が言える子だったか?見下ろされている………黒い瞳だ、底なし沼のようで………いや、もっともっと深淵に近い、海底の闇のように深く黒く不安になる色彩。


大切な人間が死んだ、だからお前はその代わりになれとな?有り得ないほどに非道な言葉、残酷な言葉……これではまるで主のようだ、望みをそのまま口にして他者を傷付ける。


なのに悪蛙は……どうした事か、少しだけ、ほんの少しだけ嬉しい……この子に求められたのは初めてだ、それが例えどんな形であれ……この子のお気に入りの使徒は部下子の他にも沢山いた。


悪蛙はいつも最後、この子の遊び相手は他にも沢山……なのに求められている、この子の世界はまだ狭くて小さい、単純に都合が良いからだ……魅力的な他の使徒たちを知らないだけなんだ。


なのに、何なんですか、この、あーーー、ありえねぇーですよ。


「お、女の子に」


「ああ、俺の大切だった女の代わりになれよ……お前の事……何か知っている気がする」


「う」


「知っているし、そこそこ欲しい」


「あ」


「ケツももっと蹴りたい」


「ざ、ざけんなですよ」


後退る………命令は絶対だ……初めてこの子に望まれて少し混乱しているだけだ、傷心の弟君に上手に近付けた……それだけ、それだけなのだ、他に気にする事なんて何もねぇのですよ。


こ、こっちが眠っている間に悪い男の子に成長して!ありえねぇのですよ、女の子の代わりに女の子を求めてそれを素直に口にするだなんて……最低の男の子です、わ、悪い子過ぎる!


そ、空に逃げる?青空が悪蛙を誘っているのです、逃げた方が良いと……………絶対に逃げた方が良いと………この子は駄目だ、ダメな方向に成長してやがります、き、嫌いになったのです。


「『悪蛙』―――おいで」


「あ」


名前を教えてもいないのに、ずっと悪蛙の事を無視していた癖に――部下子の方が好きな癖に。


この世界に誕生して、部下子より最初に悪蛙の名前を呼んでくれた……です―――トクン、トクン、うっせぇ音なのですよ。


「捕まえた」


「や」


最悪なのですよ。


嬉しいだなんて。

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