閑話31・『宇治氏のプレゼント(呪い)』
宇治氏は汚染されていた、一部では無いが『信者』ではある、汚染度で言えば一部より黒く黒く染まっている。
何故なら宇治氏は純粋なエルフだ、エルフライダーの力に染まる速度も尋常では無い、思考はそのままに性格もそのままに肉体もそのままに―――壊れている。
同性の天才に恋をした、そしてそんな過去は『偽り』へと変化した………今は愛するエルフライダーの為だけに思考して呼吸して利用して行動する、とてもとても幸せだ。
「うっす!」
「……………祟木とお前の意識は繋げているけど、そこを利用して気安く呼び出すとは思わなかったぜ」
「エルフライダー様っっっ」
「唾が……いや、美少女の唾だからありなのか……つか、何の用事だよ、エルフの選別作業は済んだのか?」
日焼けした肌に鋭い瞳、猫科の動物を思わせるしなやかな体つき…………若者らしい覇気に満ちた荒々しい表情……エルフライダー様は今日もお美しい。
博士を通してエルフライダー様の『意識』に連絡した、お伝えしたい事があると、故郷に戻る前に献上したいモノがある……ダメだ、エルフライダー様の御顔が見れない。
失明してしまう、もしくは愛情と信仰に狂って粗相を……頭の中で鐘の音が響き渡る………これは何だろ?宇治氏はこのお方を前にしていると天国よりも素晴らしく地獄よりもおぞましい世界にいるような気持ちになる。
「あ、あの、その」
「…………夜中に森に呼び出して……お前……」
「ぁあああああああああああああああああああああああああ」
「うるせぇ!」
「も、申し訳ありませんっす、あのぅ………エルフライダー様……あのぅ」
「言え、眠い」
「ああ、あの、うぅ」
「安心しろ……お前は可愛いぜ、白藍(しらあい)……黄みを少し含んだ淡い水色をした髪、襟足を外ハネにしたショートボブ……可愛いぜ」
「あの、これ、エルリントエルフの木乃伊っす」
「………聞けよ」
エルフライダー様の声が聞こえる度に全身が震えて汗が滝の様に流れる、何か失礼な事をしていないだろうか?わからないまま背中の葛籠(つづら)から献上品を取り出す。
ツヅラフジの蔓(つる)で丁寧に編んだ蓋付きの籠の一種で荷物の持ち運びに便利だ、いそいそと取り出したのは二つの木乃伊、欠損が激しくて人体の形を成してはいない。
「え、えぇぇ……宇治氏、これ……本当の木乃伊じゃねーか……」
少し怯えた表情のエルフライダー様、エルフライダー様を脅かす……みんみんみん、耳の奥の方で高音が鳴り響く……ピクピクとエルフ特有の尖った耳が震える。
命令では無い、自動的に体が動いてしまう――――ああ、一部の人達はエルフライダー様のこの感情を自分のものとして……事実、自分として感じる事が出来るのか、死ぬ程に羨ましい。
かつて恋をした博士すら疎ましい、憎らしい、あの人の代わりに宇治氏が一部になれば良かったのだ………純血のエルフでも何でもない存在なのに………エルフライダー様に愛されるだなんて。
博士死なないかなぁ……このお方の一部が無くなる事は信者にとって悲しい事だけれど、そこはこの純潔で純血で信者な宇治氏が埋めれば良い………望んでしまう、この神様の一部になりたいと。
過去に恋した博士は死んで下さい、今……愛するこの人に食べられて死にたい……死んで欲しいし死にたい。
「エルフライダー様を怖がらせるっす、壊す、壊す、あれ、これ」
「おいおい、献上品だろ?………自分で持ってきて自分で怖そうとするな……お前が持ってると不安だぜ、渡せ」
「あ」
ずぶずぶずぶ、子供の木乃伊……壊れた木乃伊、それがエルフライダー様の掌に消えてゆく……………沈んでゆく…………恐ろしい速度で吸い込まれている。
エルリントエルフは既に滅んだ種族だ、海の近くで生活して海流を操る力を持っていたと言われている……まだ世界の大半が海だった頃に繁栄したエルフ。
形として残っているものは少ない、この木乃伊は何かの儀式で『使われた』子供で石の棺桶に入っていたお陰で形として残っていた―――でも消えた、食べられた。
「エルフライダー様!美味しかったっすか!」
「え、何か体に勝手に入ったんだけど……え?」
「え?ご自分で吸収されたのでは………」
「いや、そんなつもりは無いけど…………これ、大丈夫か?か、体に変な影響があったりしないだろうな?」
「………っす!!」
「語尾だけ元気に発音しても許さねーぞ!!」
エルフライダー様にお尻を叩かれた…………説教をされるのも悪く無い。
学習したっす。
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