第43話・『グロリアじゃないのにグロリア?』

グロリアって知ってるのかな?


自分の名前の中にロリって単語が入ってる事を……そして自分の名前の中にグロって言葉が入ってる事を……児ポー!児ポーがヤバい。


「グロリア、つまりな、お前の名前はマ○コレベルに危険な代物に成り得るって事だ」


ちゅんちゅん、スズメの仲睦まじい声が木霊する早朝、昨日の夜から悩んでいた事実を本人に公表した……朝一番に部屋に押しかけた俺を快く迎え入れてくれたグロリア。


打ち明けるにはあまりに重すぎる内容だが女の子はあの日も重いので重い話には慣れているだろうと思って勇気を出して公表した、そんでぶん殴られた……早朝が昼下がりになるまでぶん殴られた。


バラ手と呼ばれる手の裏側で相手の顔面を叩き潰す技、骨を痛める事無く長期的に攻撃出来る、細い肩紐で吊るして肩を露出する形の袖無しの純白のキャミソール…流線型を描いたお腹のラインが美しい。


血染めになりながらもニヤニヤとグロリアを観察する……太腿は小鹿のソレのようだ……太腿に僅かな汗が浮かび上がっていてエロい……そして痛い、ご褒美とお仕置きの間で俺は何とか意識を保つ。


「グェェェ」


「潰れた蛙のような声で素敵ですよキョウさん………えーっと、何の話をしていましたっけ?」


「ぐ、グロリア、お前の名前は危険だ、グロとロリだなんて世間が許さないぜェ…へぶら!?」


「わあ、叩きやすい♪」


金槌のような形状をした物で倒れている俺を追撃するグロリア、この街の仲見世通りで購入した一品だ、無事に依頼を終えてエルフライダーの調査も頼んだ………逆走するのは味気無いので帰り道は違うルートを選んだ。


初めての街……この街は金物(かなもの)が有名らしく街のあちこちで売られている、伝統的なものは金工品(きんこうひん)とも呼ばれていて街の名物になっているようだ――そこで購入した肉叩き棒。


旅をしていると野生の獣や魔物を捕獲して調理する事が多い、肉食系の生物は肉に筋が多くて噛み切れない物も多い……………しかし、この肉叩き棒があれば叩いて肉を柔らかくする事が出来る!!ちなみに俺を叩いても柔らかくはならねぇ!


М的なアレが反応して逆に硬くなるぜ。


「肉叩き棒で俺の肉棒は粉砕出来ねーぜ」


「………………」


ニコニコ、俺の言葉に無反応なグロリアが怖い、ベールの下から覗く艶やかな銀髪を片手で遊びながらもう片方の手に持った肉叩き棒を俺の『肉棒』に振り落とす。


無駄だぜ!童貞で無くなるその日まで俺の肉棒はオリハルコンすら凌ぐ強度を持っている、そこ等の土産品の肉叩き棒では俺の肉棒の前ではあまりにも無力、無駄な攻撃だっ!


ぷちっ、キンタマ一つ潰れた。


「ギャァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア」


「二つあるから良いじゃ無いですか、良かったですね、股間が軽くなって」


「ぐ、グロリア貴様っっ」


「……………え、もっと軽くなりたい?」


しなやかな腕を振り上げてニッコリと笑うグロリア、胸の幅の肩から肩までの外側で着る独特の修道服は一切の穢れの無い純白で背中から差し込む後光と合わさって天使のようだ。


キンタマをもぎる天使なんて聞いた事ねぇわ。


「嫌だっ!赤ちゃんが作れなくなっちゃうぜ!」


「大丈夫ですよ、赤ちゃんはいつの間にか母体に寄生していますから」


「今の文章の何処に『大丈夫』な要素があるんだよっっ!………落ち着けグロリア、その肉叩き棒をゆっくり机の上に置くんだ」


「この肉叩き棒はキョウさんをまだまだ柔らかくしたいようですけど?」


「………肉叩き棒の『叩き』を無くすと?」


「にくぼう?」


四時間『にくぼう?』で全身を叩かれました。















裏路地でいきなり襲われるとは思わなかった、パン・ド・カンパーニュと呼ばれる田舎パンが空を描いて飛んでゆく……グロリアの夜食が!


今朝の一件でグロリアはプンプンしてた、プンプンしながら俺に魔法を叩き込んだり関節技を極めたりトラウマを抉ったりとても楽しそうだった。


最後のご奉仕としてグロリアの夜食の買い出しを命令された、グロリアは見た目と違ってかなりの大食いなので一人での買い出しはキツイ……でも仕方ない。


近道に裏路地に入った瞬間にコレだ、しかしグロリアがいないのは都合が良い……一部は全員覚醒している、姉ちゃんを取り込んでからは負ける気がしない。


「よっと」


床を這うように短い短刀を振るうそいつ、ファルシオンの刃先で全て弾く―――面では無く刃先、しかも相手よりかなり大きく重い獲物で……姉ちゃんの腕力と俊敏性すげぇ。


敵は頭巾で頭部を隠してマントで全身を覆っている………風呂敷形の頭巾は一般的に女性や子供の使うものだ…………小豆色の御高祖頭巾(おこそずきん)と呼ばれる防寒用の頭巾だ。


『おくそ』……カラムシの茎で拵えた頭巾に形状が似ている事から転訛した名称とされるが……殺人鬼や通り魔にも人気のようだ、涼しげな目元には見覚えがあるような……誰だ?


「ほい、ほい、ほい、よっと♪強いなお前、姉ちゃんを取り込む前の俺だったら危なかったかもな」


妖精の力と錬金術を使えば勝てるけどな………………普段の状態で肉体に『付加』出来る姉ちゃんの力は凄まじい、体の中に取り込んでいない灰色狐の身体能力を自分に落とし込むのは時間が掛かり過ぎる。


姉ちゃんだけでコレなんだ、坐五(ざい)を取り込んだらどれだけの力が手に入るのだろう?戦闘中に夢想する俺が気に食わないのか小さな影が恐ろしい速度で連撃を繰り出す――楽しいぜ。


「プーッコか、信頼できるナイフを使ってるな」


「シュ」


血液の集中する箇所を問答無用で狙ってくる、プーッコは武器であり生活品でもある……ファルシオンと同じだ、形状は片刃で刃の方がやや反っていて峰側は平らになっている。


峰の部分は手の平や親指で押し出す事が出来る…………使用目的によって形状に若干の違いがあり、狩猟用のプーッコの先端は下向きに曲がっている……これにより動物の皮は剥ぎやすくなって同じように肉は捌きやすくなる。


狩猟に使われるプーッコは刃の部分は短くて柄と同様の長さだ……………俺を殺そうと必死に振り回す必殺の刃、形状からして狩猟用のプーッコを人殺し用に改造したものらしい………素晴らしい。


「柄の材料はカバノキでは無くて鯨歯細工か、俺のファルシオンと違って高級仕様にしやがって!」


嘲る、相手の動きに変化は無い……と思った瞬間にプーッコを持っていない方の腕をマントに差し込む、いきなり煙幕とかは止めてくれよ?妖精の力を使えば粉塵や硝煙を一気に消す事も可能だがな。


ヒュツ、新たな刃が躍る………刃がほぼ無い、こん棒のような形状のソレ…………海沿いの村で使われる鯨骨刀剣、儀式で使われる物が多いが純粋な鈍器としてアザラシ等を昏倒させるのに使われる事もある。


軽くて丈夫で重い、プーッコと鯨骨刀剣―――簡易で軽量で丈夫な武器……装飾しろとは言わないが殺意が武器を通して伝わってくる……無駄な事は好まない、無駄な武器も好まない……こいつ、楽しくねぇな!


「お前、何なんだよ……さっき落としたパン・ド・カンパーニュは安物の小麦粉じゃ無いと美味しくならないんだぜ?そんな不思議なパンを落としやがって!」


「キョウ」


何だか聞き覚えのある声、それが妙に腹立たしい……俺の名前を知っている?捕まえて吐かせれば良い……しかしこの腹立たしさは何だ?自分でも理解出来ない程に苛立っている。


二刀流による連撃も難無く躱す、姉ちゃんの細胞が相手を殺せと強要してくる……俺の一部の分際で俺に命令するだなんて生意気だ、ピンク色の細胞が脳内でウゴウゴと蠢いている、踊り狂っている。


頬に刃が走る、血が視界に入る……後退して体勢を整える、奇妙な事に絶好のチャンスなのに追撃は無い……呼吸が乱れる、やはり『姉ちゃん』は扱い難い……同じ天命職であるが故に素直に命令を受け入れてくれない。


「何度か調教すれば馴染むか、畜生………生意気だぜ、ホントに………そしてお前は何なんだよ」


「キョウ」


「気安く呼ぶなよ、グロリアのパンを傷物にした癖によ」


「――――――――――――――――」


敵から見た俺の『爆発力』はこんな感じなのか、空気が一瞬で変化して寒気がする――何処に反応しやがった?妖精の力を最大限にして『空気を圧縮』して体に纏わり付かせる―――物理攻撃ならこれで無効だ。


しかし納得出来ない、自分が何かに『恐れて』いるだなんて……こんな小さな敵に対して?実力ならば俺の方が上なのに?――――どうしてこいつを恐れる必要がある、腹立たしぜ、苛立たしいぜ―――殺したい。


俺より弱い癖に俺に恐怖を与えるんじゃねぇ。


「キョウ、グロリア……いらない」


「うるせぇ!」


「キョウにグロリアはいらない、キョウにいるのは」


いるに決まっている!グロリアは俺に必要だ!――――その言葉が万死に値する。


体に纏わり付かせた空気の鎧を『背中の一部』だけ解放して一瞬で間合いを詰める―――爆風で建物に罅が入る。


「死ねよ」


「―――――――――――」


躱される、振り下したファルシオンは敵の頭巾だけを切り裂く………顔が見える、顔が――――――グロリア。


幼いグロリア?髪の色や瞳の色は違うがグロリアと同じ顔、冷たさすら感じる圧倒的な美貌。


―――人工的に生み出された美しいイキモノ。


「キョウ……さんに必要なのは……私ですよ?」


彼女は優しく微笑んだ。


吐き気がした。

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