閑話25・『脳味噌まで筋肉の三人』
純粋なパワーこそ真理、先日の失敗を教訓に新たな計画を発動した………インテリ三人衆は駄目だ、あいつ等は会話をするだけで俺を性犯罪者に仕立て上げる。
ヘラヘラと笑う三人の姿が浮かぶ、あいつ等は頭が良すぎて世間の目に鈍感だ……取り調べは半日に及んだ、最終的には性犯罪者からロリコンに格下げされて釈放された。
俺の一部は『幼い』奴らが多いので濡れ衣は仕方無い………目の前に広がる草原を目にして溜息を吐く、今回は失敗しないはず……頼もしい一部達が俺の前に立っている。
「ユルラゥ、姉ちゃん、灰色狐………筋肉バカ三人衆が揃い踏みとは感慨深いぜ」
「バカいるかー?そこにバカいるかー?オレはバカじゃないぜ?他の二人はバカだけどな」
「………………………」
「キョウ!呼ぶ順番!儂が一番最後じゃったけど何故じゃ?!普通は母が一番であろうが!」
「……………………一番嫌われてるからじゃない?」
「え」
姉ちゃんの容赦無い一言が灰色狐を凍らせる、猫のような瞳孔から光が無くなってプルプルと震え出す……その度に黒の東方服(とうほうふく)の蝶々の刺繍が動いてとても綺麗だ。
灰色狐って敵だった時は強敵感あったけど今ではみんなの玩具のような扱い、時の流れって残酷だな………灰色の尻尾の毛が逆立って藁箒(わらぼうき)のようだ、頭を撫でてやる。
「………♪」
「ぐぇ」
明後日の方向を見て口笛を吹いている姉ちゃんを睨み付ける、全体的に細く研ぎ澄まされた肉体は機能性のみを追求したかのように美しく無駄が無い……しかし口笛は絶望的に下手だった。
至近距離で聞く事になったユルラゥが白目を剥いて口から泡を吹き出している、ピーンと伸びた両足が小刻みに痙攣している………泡の下から浮かび上がるようにゲロが溢れて来た……おいおい。
瞿麦(なでしこ)を彷彿とさせるピンク色の髪も縹(はなだ)と呼んでもおかしくない程に明度が高い薄青色のやや吊り目がちの瞳も形は蝶々のようなのに透ける様は蜻蛉のような羽も……あー。
全てがゲロ塗れ、俺にゲロ耐性が無かったら貰いゲロしてた所だぜ?ゲロは吐く物では無く顔面にぶっ掛けられる物なんだぜ?―――悲しい事故が続いて俺の精神がヤバい、ゲロを受け入れつつある。
ゲロリアのゲロだけのはずなのに!
「あー、これがゲロリアのゲロだったらなぁ」
「…………………好きな女の子に吐瀉物を求める?さいあくー」
姉ちゃん、こっちを見て言いなさい……『かふかふ』と吐瀉物に塗れたユルラゥがあの世に飛び立ちそうなので顔を拭ってやる、鼻に詰まったソレは唇で吸い出して吐き出す。
こんなに小さくて華奢なのにちゃんと温もりがある、ユルラゥは一枚の長い長方形の布を体に複雑に巻きつけてピンで固定して服にしている、それを脱がしながら悩む――難しい。
「キョウ…………人命救助をしたのは良いがどうして服を脱がせているのじゃ?」
「いや、ユルラゥの全裸見てぇから………ユルラゥの全裸見てぇから……いいや!ユルラゥの全裸見てぇからだよ!」
「最後に確信に変わったぞっ!キョウ、儂は?!儂の裸は!?」
「うるせぇ!そんな事より一緒にユルラゥの全裸見ようぜっっっ!!!楽しみだなっっっっ!!!」
「うむ!見ようか!」
「…………………この息子も母親も駄目、色々終わってる」
漆器のような艶やかさがある褐色の腕を引っ張る………俺と何かをする事が嬉しいのか灰色狐は満面の笑みだ、全裸になったユルラゥを二人で覗き込む………肌は透けるように白くて柔らかい。
手足は長くて細い、触るだけで折れてしまいそうな印象を受ける………………スレンダーで性的な匂いは少ない、絵物語の美しい妖精の姿そのままだ……毛も生えていない、毛が生えていないと二次元だぜ!
まさに絵物語!
「こんなもんか!」
「こんなもんじゃな!」
「うぅ……ゲロくせぇ………はっ!?何故に全裸!?」
「ほら、貧相な体をこのゲロ塗れの服で隠しな!」
「紳士じゃ、儂の息子はダンディズムの権化じゃ!」
「くさっ!主なにそのボロ雑巾っっ!!近付けんじゃねぇーぜ!」
「お前の服だけど」
「嘘だろオイ」
「キョウ、その臭いゴミを捨てるのに丁度良い穴を掘ったぞ………狐は穴掘りも得意じゃからな!」
額の汗を拭いながら微笑む灰色狐、母性に溢れた柔和な笑顔だ。
「ちょっ、その服は洗ってまた着るから捨てるのは………」
「さあキョウ、そのゲロ臭い妖精をここに埋めよう」
「オレそのものかっ!?」
「安心しろ、服も一緒に埋葬してやるからな…………ユルラゥの事は忘れねぇよ、出会った時に全力で殺しに来た思い出をぜってぇ忘れねェェ」
「主それ思い出じゃねぇわ!純粋な恨みだぜっ!!」
恥じらいもせずに全裸のまま絶叫するユルラゥ、いやぁ流石は妖精!全裸だけど絵的に画面が持つわ…………でも草原で全裸ってどんな痴女だよ。
俺の一部なのに恥じらいが無いのかっ!
「灰色狐ー、もっと掘ってー」
「どのくらいじゃ?」
「地獄に直通出来るぐらい」
「………………………………頑張るとするかの」
「溺愛っっ!うわー、オレまだ死にたくねぇ………人間沢山殺してぇー!!」
ユルラゥが薄青色の瞳から涙を流して命乞いをする―――――全裸で命乞いか、悪くないぜ!
何処までも広がる青空の下でユルラゥは鼻水を垂れ流しながら命乞い、何処までも広がる草原の上で涙を流しながら命乞い………死にたくない思いが十分に伝わった。
「顔だけ出そうぜ!」
「うむ、この見っとも無い泣き顔が何時でも見れるしな!」
「生き埋めっっ、神秘の妖精を生き埋めってどうよっっ!」
「……………………………弟、そんな事よりもどうして自身を呼んだの?」
畔の水面のように穏やかな姉ちゃんの瞳、胡乱そうな顔でこちらを見つめている……犬の尻尾のような髪が風でフルフルと揺れていて愛らしい。
「………えーっと、何だっけ?はしゃぎ過ぎて忘れちゃったぜ」
「…………………はぁ、やる事が無いならユルラゥを埋めようか、ほい」
拳を振り上げて地面に叩き込む、雑草が千切れて飛んで地面が陥没する……灰色狐の穴より立派な穴がたったの一撃で……灰色狐がプルプル震えてるけど大丈夫か?
「いやぁ、灰色狐の穴より姉ちゃんの穴の方が良いわ」
「………あー、誤解を招く」
「わ、儂の穴が」
「いやね、入るオレからしたらどっちの穴も同じだからな?」
みんなで仲良くユルラゥを埋めた…………十年後に掘りに来よう。
青春!
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