閑話23・『性犯罪者』

公共図書館なんて来るのは初めてだ、グロリアに『体ばかり鍛えても強くはなれませんよ』と助言されて足を運んで見た、この街の図書館は世界的にも有名で規模としてもかなりのものらしい。


グロリア曰く公共図書館は近代国家にとって重要視されるべき社会施設であり、情報拠点としての意味合いも強いとか………確かにこの場所があれば沢山勉強出来る、知識を蓄える事が出来る。


数十年前までは貴族や政治家の蔵書家が個人で集めたコレクションを篤志により一時的に公衆の利用に開放したものが一般的だった、その頃は図書館等と言わずに芸亭(うんてい)と呼ばれて慕われていた。


「………影不意ちゃん」


「うん」


「………ササ」


「はい」


「………祟木」


「ああ」


「俺の中のインテリ三人衆、色ボケの灰色狐と頭の小ささから信用出来ないユルラゥと筋肉幼女の姉ちゃんはこの場に相応しく無い」


呼び寄せたのは俺の中でも知能指数の高い三人だ、賢者に錬金術師にエルフ学者、一般的な職業と比較して知能の高さと知識の豊富さが必要とされる。


それとは逆に気に食わなければすぐに『殺人』に走る知能の欠片も無い三名、特に灰色狐とユルラゥの声が脳内で延々と響き渡る………ギャギャ―ギャギャ―、知性の欠片もねェ。


この三人を呼び寄せたのは図書館で『自力』で何かを学ぶ為、三人の知識や経験を共有すればすぐに『知れる』事は沢山ある、しかしグロリアに言われた事を考えると自分で学ぶ事も重要だ。


「俺は………勉学に励んでグロリアに褒められたい!文学的な口説き文句でグロリアと結ばれたいぜ!………ヒヒ、文学的に初夜を迎えたい!」


「キョウちゃん、既に発言に知性の欠片も存在していないよ?」


「知性って目を擦って見るとエロ性に見えるよな?どうしてだろ?これも勉強したらわかるのかな?」


「わかんないと思うよ」


『海緑石』のような灰緑色の瞳が胡乱げに俺を見つめる、左目に装着したモノクルの位置を直しながら呆れたように溜息………逆にササは『今だけ回復』させた瞳を輝かせて俺を見つめている。


「素晴らしいです神様、ササも今は『瞳』があるので知性って文字がエロ性に見えるように頑張って努力します!」


「いやいや、そんな無駄な努力しなくていいよ、キョウ、この三人で何がしたいんだ?」


流石に他に人がいる場所で『眼球無し』はキツイだろう……再生した丸みを帯びた大きな瞳は様々な魔眼を溶かして一つにしたもので黒目の部分は円状に虹色の色彩になっている。


久しぶりに見た七色の瞳、意味も無く抉りたくなるが我慢する……祟木はそんな俺達を見つめながら腕を組んで次を促す、中々に個性的なメンバーなので周囲の視線が集中している。


俺は懐から取り出した白紙に『知性』と書いてササに手渡す、恭しくそれを受け取るササ……鼻息荒くソレを見つめる様は知性の欠片も無いが『エロ性』って読めるようになると良いな!


「くっ、見えない、この魔眼でも『エロ性』って読めない……ササは神様の一部なのに神様と同じ視覚を共有出来ないなんて……この瞳……意味あるかなァ……いらないかなァ」


「大変だよキョウちゃん、ササが眼球抉る精神状態と体勢に入った」


「ストップ!ササ!ここ公共の場だからな!子供たちに一生モノのトラウマを植え付ける事になるぜ!」


「植え付けましょう!神様、さあ、この手頃な羽根ペンでササの両目を抉って下さい!」


「俺の羽根ペン!!お前の汚い血で汚すわけねぇだろうが!返せ!」


「キョウ、取り敢えず初歩的な読み書きの本を集めて来たぞ?窓際の席を押さえたからそこで勉強しようか」


俺の右手に羽ペンを強制的に掴ませて眼球を抉ろうとしているササ、細腕の癖に凄まじい力で引っ張っている……ざわざわ、周囲がどよめく……まったく気にしないで欠伸をしている影不意ちゃん。


いつも眠たそうだが今日はいつもに増して眠たそう……目の前で同じ『一部』が本体の片腕を掴んで眼球を抉ろうとしているんだぜ?それをまったく気にしないってどうなんだ?………右手いてぇ。


「まずは興味がある事だな、吐瀉物に関する本が豊富だったから纏めて持って来たぞ……キョウはゲロが大好きだったもんな」


「公共の場ってんだろ!さっきまで騒ぎに関わらずに冷静に勉強の用意をしてくれる良キャラだと思ったのに!」


客観的に見て少女の眼球を抉ろうとしながら少女に『ゲロ好き』と言われる俺は変態を超越した何かだ……子供を連れた親たちは俺から目を背けて足早に図書館を去ってゆく。


「ふぁー、えーっと、何だっけ……キョウちゃんは吐瀉物が好きなのか眼球抉りが好きなのか決めるんだっけ?」


「神様は眼球抉りの方が好きです!!何度も抉って頂きました、むふーー、痛いですけど病み付きです!ぎゃー、少し刺さりました!痛いです!」


ヒソヒソ―――違うんですよ?奥さん……そんな事をするはず無いでしょ?


「私もキョウの顔面に何度かゲロを吐いたな、とても嬉しそうに吐瀉物に塗れていた………下の吐瀉物も出させると熱弁していたっけ」


ヒソヒソ―――違うんですよ??確かに言ったかもしれないけど違うんですよ、確かにゲロに塗れましたが違うんですよ。


「ふぁ、二人とも違うよ?キョウちゃんが好きなのはミミズプレイだよ、ミミズのように僕が蠢くと愉悦に塗れた表情で喜んでくれるんだ」


ヒソヒソヒソ―――――眼球抉りも顔面吐瀉物もミミズプレイも違うんだ、濡れ衣なんだ!全部やったけど濡れ衣なんだ!信じて下さい!


全部やったけど!


「少しあっちで聞きたい事があるんだけど?」


背中から声がする…………一つだけわかった事がある。


天才が三人集まっても無意味だ。

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