第40話・『願いを叶える天使』
祟木(たたりぎ)と名乗った少女は朗らかに微笑んだ、裏表の無い明るい表情…………村を出て触れ合った人間の多くは『裏表』があるだけで無くて敵意もあったから厄介だった。
みんな『俺』になって戻ったけどな、そう、あいつ等は最初から『俺』だったのだ…………それが戻っただけで何もおかしい事は無い……促されて肘掛付きの長椅子に座る、フカフカだ!
座面と背面と肘掛部分に『モコモコ』したものが入っている…………弾力があって柔らかくてリッチな手触りだ、木枠に鮮やかな柄の革張り……俺なんかが座って良いものなのか不安になるぜ。
「アハハ、すまんすまん、吐瀉した事は謝るから許してくれ」
「大丈夫だ、謝っても許さないから安心してくれ」
「キョウさん………矛盾を孕んでますよ?」
部屋の内装は外の質素で簡易なものとはまったく違う、家具の多くは単純な木材の骨組みで構成されているが黒檀(こくたん)を使用していて創意に富んだ奇抜なデザインの物が多い。
ブロンズを金メッキで上塗りした家具の多くは煌びやかで艶やかだ、奇抜なデザインなのに直線的で嫌味の無い家具に圧倒されて言葉が出ない…………貴族の部屋のようだ。
しかもセンスのある貴族。
「グロリア、何を孕んだって?」
「…………………………赤ちゃんは寄生するんですよ?」
「やめろ、やめて下さい」
エロワードは出たのでもう一度言わせようとしたらトラウマを突いて来やがった!俺は死んだ魚のような瞳になりながら天井を見上げる、天窓から採光を取り入れているので部屋は明るい。
外からはわからなかったがアーチ構造のゴシック仕様の窓だ……………様々な色のガラスが光を受けて輝いている、これもまた『裏表』か……外観からでは何もわからない、わかるはずが無い。
サモワールと呼ばれる給茶器から紅茶が注がれる……青銅等を用いて製造されるソレは装飾性の高さからかなりの人気がある、俺も目にするのは初めてだ………造りとしては単純なものらしい。
胴部の中心に管が通っていてそこに固形の燃料を入れて点火すると水が沸騰するのだ……何だか緊張したが紅茶自体の味は及第点でそこに安心してしまう……しかしこんなに幼い少女が『学者』とは恐れ入る。
エルフライダーについての情報を『信用出来る範囲』で伝える。
「へえ、天命職の………それは知らないな、あってもおかしく無いと思うけどな」
祟木は『エルフの国』で育てられた影響で人よりも成長が遅いらしい、恐らく食べていた物や空気の違いだろうと教えてくれる………太陽の光を連想させる金糸のような髪が美しい少女だ。
しかも金箔を使用した金糸よりも生命に溢れていて見る者を魅了する、肩まであるソレを側頭部の片側のみで結んでいる……サイドポニー、活発的な彼女にとても良く似合っている、可愛らしいぜ。
瞳も同じように金色だ、見た目は愛らしいのに何処かライオンを連想させるような大らかで強い瞳、肌は研究職の宿命か透けるように白い……俺の一部の『大賢者』も『錬金術師』も白いしな、同じだ。
「どうした?人の顔をジロジロ見て………何か付いてるか?」
「いや、祟木って本当にエルフ学者なのかなーってな、ゲロ吐いたし」
「キョウさん、その話題を少し置いといて」
「ゲロを!?ゲロを何処に置くんだよ!!ゲロは液体だから置けないぜ!俺に吐瀉された『ゲロ』は『少し』では無かったしな!ゲロで溺死出来るぐらいの量だったし!あはは」
「……………ごめんなさい」
「いや、すまないな……昨日飲み過ぎてさ……部屋の中はこの通りだし………研究の為に必要な重要書類もあるし、外で吐こうとしたら丁度な……あはは」
俺の剣幕に流石のグロリアも謝る、真っ白なベールを両手で押さえて後退る………あまり調子に乗るなよグロリア、お前をエロリアにする事もゲロリアにする事も俺には容易い事だ。
顔面に撒かれたゲロで溺死しそうになった事で俺は何段階も強くなった、ゲロって名の命の海が俺に新たな力を与えたのだ…………頬に涙が流れているのはきっと気のせいだ、恐らく涙では無くゲロだろう。
「祟木、次にゲロを吐いたら下からも出させるからな、上下で出させるからな………こいつは楽しみだ!」
「あんたの相棒大丈夫か?」
「大丈夫なわけ無いでしょう」
女同士でヒソヒソ話しているがお前たちのゲロは既に見た、ゲロとは人間の中身………俺はお前たちの中身を全て知っていると言っても過言では無いのだ………何だかゲロのお陰でかつて無い全能感が……フフ。
祟木はあっけらかんとした性格なので俺の異常性癖に対しても呑気な顔で対応している………表情がころころ変わって面白い奴……年齢的には10歳ぐらいか?―――誠実でそこそこ冗談もわかる理想的な性格。
互いに自己紹介は済ませた、いきなり訪れた俺たちを邪険にする事無く部屋に招き入れてくれたのは驚いたがな!そんな活発的な彼女に相応しく服装はデニムのホットパンツにノースリーブのトップスだ、性的にオープン過ぎるんじゃね?
凹凸の無い体だからセーフだぜ、良かった。
「まあいいや、一日ここに泊まりなよ、キョウの体を調べさせて貰うけど大丈夫かな?」
祟木は赤いフレームをした眼鏡の奥で瞳を細める、こっちとしたら願ったり叶ったりだ……彼女は幼い時に『エルフの国』で捨てられていてそこで育てられたらしい…………エルフが好きだからこそ研究の対象になった。
小さい時は『私もお母さんと同じエルフになる!』と義理の母に泣きついて困らせたらしい。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――ああ、そう。
そうなんだ。
エルフの知識も欲しいしナ。
ホシイ。
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