閑話19・『自慰的恋愛相談2』

今回は失敗したなと思いつつ溜息を吐く、前回の二人があまりに御粗末だったので『外組』を召喚した――ちなみに俺の肉体と一つになっている奴らは『内組』だ。


何となく起り得る事を考慮して屋外での召喚………宿の近くを流れる川の河原で素巻きにされた灰色狐を見る……涙目になって胡坐をかいてこっちを見上げている―――目が据わっている。


「影不意ちゃん、ご苦労様」


「別にいいよ、しかし凄いね」


河原のあちこちで粉塵が上がっている、灰色狐の暴れ方は凄まじくラスボかよ!って突っ込みたくなる程に凶悪なものだった、影不意ちゃんの仕上がりも確認したかったので『跨って』戦った。


灰色狐は既に己の力で坐五(ざい)と戦った時の形態に変化出来る、同じように変化した影不意ちゃんとの相性は最悪でほぼ一方的にボコボコにされた、いや、ボコボコにするつもりで召喚したんじゃねーし。


恋愛相談だし。


「き、キョウ、キョウには恋愛なんてまだ早過ぎる!駄目じゃ!性病になるぞ?!」


「見てくれ影不意ちゃん、変な形をした石を見つけた」


「へえ、変な形だね」


「キョウ!?」


情報で知っているのと俺の口から直接聞かされるのでは随分と違うらしい、相談した瞬間に犬歯剥き出しであの姿に変化して俺を攫って山へ逃げようとした……山……山って……そこで何するんだよ。


『海緑石』のような灰緑色の美しい瞳で俺が拾い上げた石を見つめる影不意ちゃん、日の光を知らないのかと問いたくなる程に青白い肌は戦闘の興奮で汗ばんでいて色っぽい……エロいぜ!!


見開けば愛らしいであろう大きな瞳も目蓋で半分隠れていて相変わらず眠そうだ、耳に僅かに髪が触れる程度のナチュラルなショートヘアを撫でてやりながら苦笑する………左目に装着したモノクルの下の瞳が細められる。


「灰色狐、俺は恋愛相談がしたいんだぞ?戦闘がしたいわけでは無いぜ」


「わ、儂では無い奴に跨るなんて」


「灰色狐………君は少し勘違いしているようだけど僕たちはキョウちゃんの一部だからね?与えられている個々の思考でキョウちゃんに逆らうなんて……バーカ」


「んな!?こ、この糞ガキっっ」


「言ってやれ影不意ちゃん」


「バーカ、アホ、間抜け、実質的に一番役立ってない、負けてばっかり、負けフラグ」


「うぅうぅ、うぅうう、き、キョウは儂の事好きじゃもん」


「召喚するだけ無駄、召喚しても負ける、負け狐、甘える事だけ一流、後は三流」


「うぅ」


そこまで言えとは言ってないぜェ、素巻きにされて涙ぐむ灰色狐に同情するわ………しかし灰色狐に恋愛相談したのは間違いだった、過保護な母親が起こした行動が近隣の山への逃避行。


肩から裾には幾つかの筋飾りが入っていてる真っ白い『法服』を手で叩きながら影不意ちゃんはさらに冷酷な言葉を吐き続ける………法服を汚された事が気に食わないのな、普段は大人しいが怒ると怖い。


「新たな負けを戦歴に刻んだ灰色狐を虐めるのはそこまでだ影不意ちゃん」


「うぅぅ」


「舌先でも負けてたよ?」


「口論でも負けていつになったら勝てるのかわからない灰色狐を虐めるのはそこまでだ影不意ちゃん」


「―――――――――――」


「永遠に勝てないと思うよ」


くそ、誘導されてついつい灰色狐を虐めてしまう、ちらりと灰色狐を見ると口から魂が半分出ている………蒼褪めさせた表情で虚空を見つめている。


中性的な容姿で無表情に灰色狐を崩壊させる影不意ちゃんはマジで怖い、視線を逸らして深呼吸……どうも本題からずれている様な気がする……影不意ちゃんのせいで!


「俺はグロリアが好きだ!」


「知ってる」「………うぅ、あーーん、あーーーーん」


無表情で答える影不意ちゃんと見た目相応なガチ泣きを始める灰色狐、両腕が拘束されて自由が利かないので涙と鼻水がそのまま垂れ流し状態――影不意ちゃんがそれを見下している。


お、俺が会わせたせいだ……自分の存在の全否定と息子からの恋愛相談、二つのショックが鋭利な刃となって灰色狐をズタズタにしている……じゅびび、鼻水ィ……手で拭ってやる。


「キョウ、キョウ」


「よしよし……後でお散歩行こうな」


「うん、うん」


灰色のおかっぱ頭を撫でてやる、素巻きを解いてやろうと紐に手を伸ばすが複雑怪奇な結び方をしていて解けそうに無い。


か、影不意ちゃん、


「やっぱり、甘える事だけは一流だね………役立たずなのに」


「灰色狐、ほらー、大好きな息子ですよー、影不意ちゃんの言う事を耳を傾けるなー」


「うぅ、ううう」


一部同士の相性って大事だな………俺は少し学習したのだった。

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