閑話18・『自慰的恋愛相談』

別々の部屋なのでのんびりと自室でゆったり出来る、最近のグロリアは妙に俺を挑発するので何だか落ち着かない。


その落ち着かない感情が嫌なのかと問われたら答えられない、自分でも初めて感じる未知の感情なのだから仕方が無い……しかし、このままではグロリアの玩具に成り下がってしまう!


自身の内に眠る二人に語り掛ける、ズブズブズブ、やはりササの方が早い、俺の命令にすぐさま答えないと『躾』が待っていると知っているからだ……妖精は目を覚ましたばかりで面倒な顔をしている。


服を捲ると若芽色(わかめいろ)で植物の新芽を連想させる初々しくも鮮やかな色をした髪が俺の褐色の肌から数本出ている、掴んで引っ張り上げると泣き声で許しを請う。


「ササ、泣くなよ」


「いたい、いたいです、ご、ごめんさい」


スンスン、小さな鼻を鳴らして謝罪する………『痛いです』と俺に意見した事を謝罪したのだがどうでも良い、空洞になった両目からは血涙が絶えず流れていて見た目が愛らしいだけに薄気味悪い。


それに続くように俺の肩の肉が膨れ上がってユルラゥが出現する、ふぁーと気だるげな欠伸をして目尻に涙を溜めている、瞿麦(なでしこ)を彷彿とさせるピンク色の髪が間延びする度に揺れる。


怠そうに腕を天に伸ばす仕草は様になっている、妖精は怠惰なものだ……遊んで寝る事が仕事だしな、透けるような色合いの瞳は好奇心を含んだ残虐性に支配されている――先に伝えて置く。


「ササ、俺以外に畏まるなよ、お前の上は俺だけだ」


「はい、神様」


「チェ、残酷な命令をして虐めようと思ったのに先手を打たれたぜ!オレの主は人が悪いぜ!ぷんぷん」


腋にかかる程度で切り揃えられたピンク色のウェーブ掛かった長髪を揺らしながらユルラゥは不満を口にする、こいつは完全に俺から分離出来るのに足だけ俺の皮膚と結合させている。


それだけに感情が直接伝わってきてウザい……ササの両目の空洞に裁縫バサミを持って突撃するビジョンが浮かぶ、こいつ………もう妖精名乗るのを止めようぜ?しかしササはニコニコと微笑んでいる。


自分の神である俺に虐められる事は恐怖だがそれ以外は恐怖の対象にならない……流石は子供を人体改造しても何も感じなかったクズ、しかし今は躾の時間では無い……相談の時間だ。


他の二人も呼ぼうと思ったが召喚してまで話す内容では無い様な気がする、影不意ちゃんの意見は聞きたいが灰色狐は邪魔だな………あいつは暴れそうだ、暴れて涙と鼻水垂れ流しそうだ。


「俺はグロリアに恋をしている!」


「知ってるぜ」「存じています」


そりゃそうだよな、俺の肉体の一部で情報を共有してるし、燭台で動物性の油を漬け込んだ木の枝が赤々と燃えている……蝋燭を用意出来ない程のボロ屋だが部屋は広くて快適だ。


油を漬け込んだ木の枝は部屋の隅に幾つか置かれている、寝る時は明かりいらないし足りるか……恋愛相談を自分自身にするのはどうなのかと思うが他に誰もいないし仕方ない。


「最近グロリアの挑発ヤバくね?キスしたらしてやったり!って顔で微笑んでたぜ」


「主よォ、変に初心だよな、欲しい男がいたら何処までも汚くなるのが女ってものだぜェ?」


背中に生えた透明の羽を動かして飛ぼうとするユルラゥ、羽の形は蝶々のようなのに透ける様は蜻蛉のような不思議な羽、しかし肉体は繋がったままだし痛覚も共有している。


「痛い痛い痛い、ユルラゥ、飛ぼうとすんな!」


「痛い痛い痛い、わりぃ主、妖精は無意識で飛んじゃうもんなんだよ、気を付けるって!」


「♪」


え、ササも痛覚を共有しているはずなのに余裕で鼻歌を吹いている……こいつ、俺以外の事柄に対する痛覚麻痺し過ぎだろ?……狂信的に慕ってくれるのは良いけど少し怖くなったぜ。


何かムカついたからまた今度抉ろう、俺の末端の癖に俺をビビらせるなんて生意気な奴だ…………さすさすさす、団子状のシニヨンヘアーは撫でる事に向いていない、無理矢理撫でる事で躾にはなる。


「い、いたい」


「ふん、つか俺はどうしたら良いと思う?」


「え、そんまま犯っちまえよ」


妖精ェ。


「ササ、錬金術でこの糞妖精を塵にしろ……褒美にそいつの両目を爪楊枝で抉っていいぞ?」


「まあ、素晴らしい……神様はいつもササに啓示を授けてくれます」


「いやいやいや、時間系列おかしいからな?オレを塵にしたら両目を爪楊枝で抉るの不可能だからな?」


反抗的なゴキブリめ。


「ササ、こいつが俺を否定するんだけど?」


「え」


「や、止めてくれ………オレが悪かった………『ササ』………その殺意を抑えてくれ」


ササは俺の中で最も凶暴な部分に成長しつつある、根っこが『ガキ』だから俺の肉体と精神と一つになった事で急激に止まった時間が動き出している……成長している。


俺を讃えるだけの存在に特化して進化している、どいつもこいつも仕上がりが楽しみだが『キクタ』に対抗出来るのはこいつぐらいかな?みんな自由に伸び伸びと成長しろ。


しかしササを取り込んだのはかなり幸運だった……『キクタ』が暴走した場合に成長した『ササ』なら互角に……先はわからないけどな、他の一部がどのように成長するかわからないし。


俺の血肉がお前らのエサだ、たーんとお食べ。


「ササはどう思う?」


「………………え、ササが意見してよろしいのですか?」


「いいぜ」


「…………………申し訳ありません、三か月の猶予を頂けないですか?」


キリッ、何だか無駄にシリアスな顔でササが答えたので頭にチョップを叩き込んだ、それを見て爆笑するユルラゥにも同様のチョップを叩き込んだ。


「平等主義者だからな」


「うぅ、素晴らしいです神様!」


「ぐごごご、さ、サイズ、主、サイズ忘れてるぜ!」


「ユルラゥの胸のサイズなんて聞いてねーわ、ペチャパイじゃねーか」


「そのサイズじゃなくてね!」


ぎゃーぎゃーぎゃー、ユルラゥが吠えているが無視しよう……頼りにならない奴らめ……グロリアの挑発に対して俺が出来る事……出来る事………出来る……。


「つ、次はお尻でも揉んでみっか」


「主の小物っ!そこまでするならセックスしろって!」


「何と慎ましいお考え、素晴らしいです神様」


「この全肯定錬金術師もウゼェ!誰かー、オレ以外の突っ込み役ダレカー」


ユルラゥの羽がシワシワになっていたのでワニスを塗ってやった。


錬金術師であるササの非情な案だった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る