第34話・『盗みは駄目だぞ、特に馬泥棒と火事場泥棒』

アラガタの浜辺に到着したのはあの戦いから数日後だった………子供の遺体を運んだり施設の中を物色したり……物色して売れそうな物を……主にグロリアがな!


オリハルコンの防壁に囲まれていたはずなのにグロリアはそこをぶち抜いて平然と施設の中を物色していた――俺の心配は?そう呟いたら『あんなに怒ってるキョウさんなら負けないでしょ?』だとよ。


普通は怒りの感情に支配されると冷静な判断や行動が出来ずに弱体化すると思うのだが……グロリアは俺の事をどう見ているのだろうか?取り敢えず、それはそれとして到着である、めでたい!


「すげぇ、これが海か…………ここで水着を着たお姉ちゃんがキャッキャッウフフするんだな、自然って最高だぜ……ありがとう自然!」


「キョウさん、水着は人工物ですよ?それを自然物のように崇拝するのはキモいので止めてください」


「うるせぇ、水着を着てないのに偉そうにすんな!」


「……へぇ?」


殺意が溢れる、白い浜辺に青い海、なのにグロリアはいつもと変わらない独特の修道服、この美しい浜辺のように一切の穢れの無い純白色なのは良いけど……その中身が見てぇ。


胸が無くても良いじゃねぇか、胸が無くても水着は着れるぜ?もしかしたら知らないのか?―――だとしたら可愛そうなので耳元に口を寄せて『胸が無くても水着は着れるんだぜ?』と囁く。


「そうですか?」


「そうなんだよ」


「死にたいと?」


「待て、殺さないでくれ………話を聞いてくれェ、男の子が水着に憧れて何が悪い!」


剣の柄へとゆっくりと手を伸ばすグロリア、過去の経験から物理的な打撃か投げ技だと予測していたのでぞっとする……そもそも『そうなんですか?』から『死にたいと?』の間が抜け落ちてるぜ。


青と緑の半々に溶け合ったトルマリンを思わせる美しい瞳には純粋な殺意しか感じない、過去に水着で何かトラブルでもあったのか?………胸を増量してバレたとか?そんな事を気にする小さな男じゃねーぜ!


「グロリア!左右の胸を内側の上の方に持ち上げてその下に布を巻いてブラを付けたら足りない胸でも巨乳に見えるよ!」


「…………」


「足りない胸でもなっ!グロリアの胸は相当足りてないけどこの妙技を使えば相当足りてない胸から足りてない胸にランクアップ出来るぜ?」


「……はぁ、いいですよ、例の生物学者を見つけてギルドの依頼を達成したら水着を着てあげましょう」


「………」


「おーい、どうしたんですか?」


俺の前で手を振るグロリア、放心状態から解放される………グロリアの水着が見れる。


「よし、その生物学者を見つけて退治すれば良いんだっけ?行くぞ」


「喜びのあまり色々混ざってますよ―――はぁ、仕方の無い人ですね」


口元に手を当てて笑うグロリアは天使のように愛らしかった。


「私の水着姿を見たら褒めないと殺します」


悪魔のように未来を確定しやがった















全てが緑色で統一された街の外観が印象的だ、生物学者を見つけるのは明日にして今日は拠点となる場所を探す、つまりは宿泊地。


長居する事になるかも知れない、安心して生活の出来る拠点は必要だ―――濃い緑に溢れた山々と青い海、その合間にお邪魔するようにこの街はある。


なだらかな山々に覆われたこの街は自然と共存している、街のあちこちに巨大な樹木が植えられていてその枝が空路となって街中に張り巡らされている―――縦の空間を上手に利用している。


「どうしてこんなに緑ばっかなんだ?」


「……虫除けの香料として使ってたものが緑色だったとか色々と諸説ありますがはっきりとはしていませんね」


いつもの様にグロリアは目抜き通りで美味しそうな食材を物色する…………シスターとしてそれはどうなんだよ……やはりルークレットの『シスター』は珍しいのが好奇の視線が向けられる。


本人は気にしないでこの近隣で獲れる大型の哺乳類のモツを甘辛く味付けして串焼きにしたものを購入している、大口を開けてモグモグと頬張る……リスのように頬が膨れて普段とのギャップが凄まじい。


それなのに品があるのがグロリア流…………串焼きのオッチャンも頬を赤めてポーッとグロリアを見つめている、確かに可愛いけど焼いてる串を全部下さいとか言ってるぜ?恐ろしい食欲だぜ。


「もぐもぐ、何ですか……熱心に見つめて」


ベールの下から覗く艶やかな銀髪が太陽の光を受けて雪景色を思わせる美しい色彩を放つ――――頬に串焼きのタレが付着していて何とも様にならない。


恥ずかしいので乱暴に手で拭ってやる、恥ずかしいから……少し粗雑な感じになってしまう、許せや。


「むぐぅ」


「女の子だからな」


「何ですかソレ、変な事を言う口はこうです」


「むぐぅ」


先程のグロリアと同じように奇声を上げてしまう、甘辛いタレの味と苦みを含んだレバーの味、とてもマッチしていて美味い………野趣溢れる獣の旨味を味わいながらグロリアを睨む。


いきなり串焼きを『縦向き』で人の口内にぶち込むとか正気か?そんな俺の視線など気にしないで買い食いを再開するグロリア、頬がやや赤いのは強い日差しの為だけでは無い。


俺もそれに続く、ここら辺は気温も穏やかなので誰も彼も軽装で活発的に笑いながら商売をしている―――店の人の声も心なしか他所よりもデカい気がする、つかうるせぇ!


「―――」


ふと目の前から一人の少年がやって来る、海と山に囲まれて食料豊富な街なのに酷く痩せ細っている………衣服も虫食いと汚れでボロボロだし足には何も履いていない。


俯いていて表情はわからないが俺には予想出来る、きっと極度の緊張と過去の実績から『無表情』になっている、そうなるように己を律している……身なりの良い人間を物色している。


視線は地面に向けて靴だけで判断しているのだろう、服装よりも靴を見る方が人間の値打ちがわかる―――相手の身分を模索する時に足元から見るのは定石だ、靴にまで気を使っていれば裕福な証拠。


「――――――」


恰幅の良い女性と擦れ違った刹那に少年は『何か』を自分の懐に入れる――鞄から顔を出していた折り畳み式の日傘か……細工物は裏で高く取引されている―――さて、どうしたものか?


「『ササ』……起きなさい」


丁寧口調で威圧的に自分の内へと語り掛ける、ユルラゥに語り掛けるような気安さは無い―――グロリアは食事に夢中なので今は『コレ』に集中できる………ゴポゴポと俺の内の血海(けっかい)から少女が浮上する。


若芽色の髪にマシュマロのような肌、そして抉られた両目…………服の下の腹にそいつが浮き上がるのを感じる、視力を失っているので服の上だろうが変わりないだろう……そいつの血涙で服が滲む。


『か、『神様』――ササをい、いじめますか?』


出会った頃の独特な喋り方とキャラクターは何処に消えたよ?俺の一部になったそいつからは怯えと恐怖と崇拝しか感じない――別にいいけどな、ここまでビクビクされると逆に楽しくなってくるな。


服の上から腹を撫でて『二つの凹み』を見つけて指で抉る、服はさらに血で馴染む……絶望的で歓喜に満ちた声が漏れる、賑やかな街の生活音はそれを掻き消してくれる―――ありがてぇわ。


抉るの楽しい。


「ササぁ、いい子いい子」


撫でる時に口にする台詞で空洞を指で抉り続ける――血染めの服は『こいつ』の錬金術で再生させよう、そうしよう。


「ぎ、ぎぁ、か、かみさま、ゆるひて、ごめんあし、ごめんしゃ、あい」


「痛みで何も言えないのならそのまま何も言おうとせずに悶えてろ」


「ご、ごめんなさ、い」


「いいよ、また許す、ずっと許すから壊れないように遊んであげる、あああああ、どうでも良いけどあそこの子供を追うから『印』付けてくれ」


「ぁ、御心のままに」


またニーとかにゃあとか言ってくれないかな?


もっと虐めたくなるのに。

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