閑話14・『部下子ビームは宇宙にまで届く』

ピンチである………約束を無視して外の世界に出て見たけどいつもと同じ、荒廃した大地に凶暴な魔物、どれこもれも灰色で楽しくないっ!


ぽよんぽよんー、魂だけの存在である自分に気付く者はいない、そうだ、僕はまだ世界に誕生してないんだっけ………今の今まで忘れていた、空中を浮遊しながら魔王城の周りを漂う。


『…………しかしホントに何も無いなぁ、部下子が外の世界に一人で出る事を禁じてるからもっと楽しいものがあるんだと思った』


訂正、何か良くわからないカラスのような魔物が僕の体を突いている……見えているのか?あらら、パクパクと僕の体を捕食する………いいよ、満腹になりなよ。


天性の優しさを持つ僕は彼の捕食行為を肯定する、フフフフ、部下子が優しい男はモテるとか言ってた……世界に誕生する前にイケメン要素を磨いて将来的に部下子と結婚するぜ!


『食えー、いいぞぅ、お前の腹が満腹になると僕の心も満たされる、自尊心がなっ!』


「かーかー、もぐもぐもぐ」


灰色の空の下で捕食されている僕、こいつのサイズからして全てを食う事は不可能に近い…………しかしこいつ、良く見ると不細工だな……造形的に失敗している気がする。


どの魔王が生み出した魔物なのだろう?お兄ちゃんが生み出した魔物は幾何学的だったり完全に人型だったりと実にわかりやすい……こいつは違うな、でもブサ可愛いぞ。


ブサ可愛い魔物だけで構成された魔王軍ってかなりシュール、ブサ可愛い魔物が村々を蹂躙する様子とか想像すると見れたもんじゃない………お前は人間の世界に行くんじゃないぞ?


被害者が泣くに泣けないからな!


「かーかー」


「かーかーかー」


「かーかーかーか」


『ふ、増えた…………え、僕って美味なの?拾い食いしてでも食べたくなる存在?」


捕食者が一気に倍増した、どいつもこいつも気が狂ったように僕の体を捕食している、目がね……やべぇ、ヤバい薬の常習者のように目が血走ってる。


人類の敵になるべく誕生した魔物はどいつもこいつも最初から目がヤバい、そいつがさらにヤバくなっているのだから相当ヤバい……僕の体の味は至高なのか究極なのか……どっち?


『ぐ、ぐげぇぇえええええええええええええええええええええええ』


『ぐえ』


『ぎぇ、ぎぇえええええええええええええええええええええええええ』


突然苦しみだして暴れまわる魔物達、飛行するのもままならないのか吐血しながら落下する、一切の恵みを持たない枯れ果てた大地は粉塵を持ってそれを歓迎する。


粉塵のせいで状況はわからないが取り敢えず近付いてみる、ふよふよふよーーー、しかし結構な音がしたので部下子に気付かれたかも?やや過保護なので困るぜ!!


こんな枯れ果てた世界でも僕からしたら『監禁部屋』よりは楽しめる……お兄ちゃんはあそこに僕を閉じ込めて一方的に話しかけてくる……嫌いじゃ無いけど憂鬱になる。


もっと部下子といたい!


『うわぁぁ、僕の魂の破片がゲロ塗れ…………ゲロって気持ち悪いんだな、初めて見た』


知識では知っているけど見るのは初めてだ、色々な食料が未消化のまま混ざり合ってて不快だ……この世界に誕生したらなるべくゲロとは遠い生活を過ごしたいものだ。


ゲロ嫌い!


『ぎげええええぇげげげげ―――――――――グォオオオオオおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!』


瀕死のブサ可愛い魔物が突然絶叫したと思うと肥大化を始める……どこから質量とエネルギーを得ているのかは不明だが恐ろしい速度で肥大化している。


鳥型の魔物だったはずなのに体付きが『人間』のように変化してゆく、酷い冗談だ………骨が軋んで肉が増量され人型に近付く、進化とも言えないような無理矢理な変化。


変化の中間なのかまるで『奇形』だ、どうしてこんなものに……耳が尖がっている事を除けば人間そのものだ………まだ翼は完全に失っていないが縮小されている――――えー、僕のせいかな?


『や、やだな……僕の体ってどーなってんの……食い合わせが悪かったとかじゃないよな?』


『ま、あ』


『キモイっ!ち、近付かないで!』


翼を震わせて飛翔しようとするそいつ、鳥と人間の中間のような容姿はかなり不気味で禍々しい―――翼は退化しているのに無理矢理にでも飛ぼうとしている、僕に近寄ろうとしている。


お兄ちゃんと部下子に大切に育てられた僕が感じる初めての『恐怖』に身が震える、何故か飛んで逃げる事が出来ない……こ、こわい、灰色の空の下で僕は停滞している―――逃げないと!


『まぁ、まあああああああ』


『うわあああああああああああああ』


「弟君、後で折檻だからね」


名前も酷いが声にも特徴が無い…………部下子はいつもの様に気だるげな声で呟いた、瞬間、恐ろしい魔力の奔流が『そいつ』の全身を削り取ってゆく……光の粒子が恐ろしい速度で通過してゆく。


勇者しか使えない『光』属性の魔法…………魔に属する存在の天敵とも言えるその力を付加された最強の魔物――部下子、彼女の放った光線は空気を焼いて世界を焦がす、雲が裂けてまん丸い穴が………青空が見える。


引き寄せられる、いつの間にか僕の横に『瞬間移動』していた部下子に……結構強めにっ!いてぇ!


『ミーーーーー』


「おらぁ」


『ミィイィイイイイイ!』


左右から掴まれて捩じられる、僕は雑巾かっ!痛みは無いが圧迫感で苦しい!


「まったく、心配したんだからね……もう一度同じ事をしたら二度と外のお散歩に連れてってあげないぞ」


『ミィ』


「ん?弟君痩せた?」


痩せたつか食われたよ、部下子の望むイケメンに近づけたかな?


「なんか縮んで可愛く無い」


ガーン、ショック………今日は厄日だ。


「しかしあの魔物見た事ないけど人型だった……一瞬、抵抗したわよね?……山ぐらいなら消し飛ばせる魔法だったんだけど」


『ミィ?』


「歴代の魔王の幹部クラスぐらいかしら?そんなヤバいの生み出すなら一言説明してよね、もう」


今度から自分の体を安売りするのは止めよう。


僕の体はヤバいぜ。

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