閑話12・『その血の運命』

地味で構成された地味な部下子、それが自分―――今日も派手では無い地味な感じで国を五つ滅ぼした、主の命令は絶対でそこに感情は無い。


幼い子供の四肢をもぎ取ろうが老婆の腸(はらわた)を引き摺り出そうが騎士を鎧と一緒に『圧縮』して奇怪な鉄球を生み出してもそこに感情は無い、皆無。


「しかし、何考えてんのかしらあいつ」


あいつとは『主』の事だ、創造主としては優秀だと思う、誰かと戦って苦戦した記憶はあまり無いし人間を誑かして国を滅ぼしてもその策に気付く人間はいなかった。


地味は地味だが中々に優れた性能をしている、従来の『勇魔』の魔物と違って自分の魂や体の構造はルークレット教の『シスター』を原型にしているらしい――秘匿された技術。


何かしらの横の繋がりがあるのかルークレット教のその秘匿を利用して自分は生み出された、ああ、元々は同じ神から派生した存在と組織なのだから黒い糸で繋がっているのかもしれない。


「真っ黒だろうけど」


荒廃した北の大地は劣悪な環境で禍々しい進化をした『魔物』の楽園、過去の多くの魔王達が創造した魔物は多様化されていて自分でも全ての種類を把握していない――魔王によって個性も違う。


最も恐れられている魔物は700年前の『雷皇帝』(らいこうてい)と呼ばれた魔王が創造した『雷』の属性を持つ魔物達だ、人類を絶滅寸前まで追いやった『雷皇帝』の魔物は気性が荒く獰猛で生命力に満ちている。


さらに属性で言えば最強に数えられる『雷』を扱うのだ、さらに竜種も多く創造しており個体数は少ないものの一匹一匹が強国の軍隊を圧倒する程だ………しかしその多くは北の大地に定住していて人間の世界に行く事は少ない。


「おっとっと、弟君!」


魔王城の周囲にはかつての魔王達が創造した『警備兵』が巡回している、勇者が攻め込んできた際もその全てを倒すわけでは無い………魔王が変われば新たな『警備兵』が創造される、なので戦力は増大する一方だ。


勇者にこの全てを倒せと言うのは流石に無理な話だ、前回の勇者はかなり臆病で用意周到だったらしく魔王城の魔物をほぼ倒す事無く魔王に面会、戦いの末にそれを打倒したらしい……それでも凄いじゃん。


しかし困った。


「弟君(おとうとぎみ)あまりくっ付かないで下さい………グイグイきてるよ、グイグイ」


『ミ―』


丸い黄金色に発光する塊、それが部下子の全身を駆け回っている……プニプニした感触、強過ぎる魂の輝きが実体を持って具現化している……人間の魔法使いが見たら卒倒しそうな光景ね。


人間で言うならば10歳ぐらいの姿で固定されている部下子、どうしてもっと『大人』にしてくれなかったのか問い詰めた事がある、事務仕事をするにしても色々と不便だし、割と困る。


『アハハハハ、勇魔だけ幼くてお前が大人だったら主従のバランスが崩壊するだろ?』――――確かに、しかし少年と幼女の組み合わせで世界征服ってのも結構違和感がある、でももうどうしようも無い。


「弟君はいつも元気だね、グレないでね?」


主が溺愛するこの子の世話を任されてどれだけの時間が流れただろう、未だに肉体が完成する気配も無くこの魔王城で平和に過ごしている………魔王城の屋上は広くて何も無い、大地を見通せる。


殺風景な景色を見つめながら弟君がじゃれてくるのを適当に相手してやる、ムカつく主とは会話が成立する事が皆無だ――コミュニケーションそのものが崩壊している、だから弟君の存在は救いになっている。


言葉では意思を伝えられないが弟君の動作で何となく意味が理解できる……世話役として妙な感情がある……元々は弟君を世話する為だけに設計されて創造された身だ、何か汚い仕掛けをしていてもおかしく無い。


「こらこら、暴れない、外に出るのは一時間だけって約束でしょ?」


『ミ―ミ―』


「聞き分けの悪い子は嫌いになっちゃうぞ?」


冗談を口にすると嘘のように大人しくなって固まる、部下子の勘違いで無ければそこそこ好かれてるっぽい……国攻めの際に留守にすると帰ってきた時の反応が凄まじいし、全身を高速で這って摩擦で肌が痛い程だ。


それを見て『勇魔さま』の瞳孔が開いて凄まじい濁流のような感情が流れてくる、しかし部下子は魔物なので感情の機微に疎い………適当に流しているがその内処分されるかも?その時はその時か。


「帰ろう、弟君」


昨日滅ぼした国は『ゴーレム』の技術が優れていて中々に手強かった、特に属性の違う5体のゴーレムが合体して巨大化したのは危なかった……人間も舐めてはいけない。


ぎゅう、弟君を抱き締める―――思えば部下子の事を心配してくれる存在なんて弟君しかいない、そしてそれで満足している………用無しになって捨てられてもこの気持ちがあれば戦える。


不思議だわ。


「弟君も大切な人を見つけるなら『部下子』のような人を見つけなさいね?はは、それだけで部下子は報われるわ」


『ミー』


貴方が誕生するのを見たいけど……叶わないのならこの言葉を少しでも覚えていて欲しい。


ごめんね、弟君。

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